オンプレミス、エッジ、どこでも楽々コンテナ管理 !
Amazon EKS Anywhere をグラレコで解説
Author : 米倉 裕基 (監修 : 林 政利, 荒木 靖宏, 杉田 想土)
builders.flash 読者のみなさん、こんにちは ! テクニカルライターの米倉裕基と申します。
本記事では、AWS が提供するコンテナ管理サービス Amazon EKS Anywhere の機能と特徴を紹介します。
Amazon EKS Anywhere (以下、EKS Anywhere) は、オンプレミス環境での Kubernetes クラスター運用を効率化するセルフマネージドのサービスです。EKS Anywhere を活用することで、デプロイ、アップグレード、スケール、監査といった、オンプレミス環境の Kubernetes クラスターのライフサイクル管理を簡略化することができます。EKS Anywhere は、クラウドで稼働する Amazon EKS (以下、EKS) と同様、Kubernetes ディストリビューション「Amazon EKS Distro」上に構築されています。そのため、EKS と EKS Anywhere で同じ Kubernetes のコンポーネントを利用でき、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境でもオペレーションを共通化することができます。
EKS Anywhere を使うことで、オンプレミスやエッジ環境での Kubernetes 運用のハードルを下げ、コンテナの一元的な管理にかかる手間を削減できます。特定の環境的な要件がある場合や、自社内の既存インフラストラクチャを活用しつつ EKS による一貫したコンテナ管理を実現したい場合には、EKS Anywhere は有力な選択肢となります。
本記事では、Amazon EKS Anywhere の主な機能と特徴を以下の項目に分けてご説明します。
- EKS Anywhere の概要
- EKS Anywhere のユースケース
- EKS Anywhere の環境構築
- アーキテクチャ
- クラスターの構成
- ライフサイクル管理
- セキュリティ
- EKS Anywhere の料金体系
それでは、項目ごとに詳しく見ていきましょう。
EKS Anywhere の概要
EKS Anywhere は、AWS が提供するコンテナ管理ソリューションで、オンプレミスとエッジでの Kubernetes クラスターの実行と管理を容易にするサービスです。
オンプレミス運用時の Kubernetes の課題
Kubernetes は、コンテナオーケストレーションの標準プラットフォームとして、コンテナの運用の自動化やスケーラビリティを管理するオープンソースソフトウェアです。しかし、オンプレミス環境に Kubernetes を導入する場合、セキュリティ管理やインフラ保守などの手間や運用コストの問題が生じる場合があります。そのため、本来アプリケーションをコンテナ化する目的が管理の簡略化であるにもかかわらず、逆に運用の手間が増大するという矛盾が生じる場合があります。
このような課題に対して、EKS Anywhere はオンプレミスでの Kubernetes 運用を大きく効率化するソリューションを提供します。EKS Anywhere を利用することで、オンプレミス上の Kubernetes を AWS がパートナーと共同でサポートするため、セキュリティと運用効率化の両面でメリットが得られます。Kubernetes 本来の機能を維持しつつ、運用面の負担を軽減できるのが EKS Anywhere の大きな特徴です。
EKS Anywhere の主なメリット
EKS Anywhere を利用する主なメリットは以下のとおりです。
- オンプレミス Kubernetes の運用負荷を軽減:
EKS Anywhere はオンプレミスでの Kubernetes の設定や運用をシンプルにします。事前定義された設定により導入がスムーズで、管理ツールが運用負荷を大幅に軽減します。そのため、Kubernetes 初心者にも扱いやすい環境を提供します。 - 既存インフラの活用:
EKS Anywhere は、お客様がすでに保有するオンプレミスのインフラやデータセンター資産を再利用できます。既存のサーバーやストレージ、ネットワークを使って導入することが可能で、新たなインフラ投資を抑えられます。また、社内のセキュリティや運用ポリシーを維持しつつ、Kubernetes を活用できます。 - AWS による包括的なテクニカルサポート:
AWS が EKS Anywhere のコンポーネントを全面的にサポートするので、ユーザーはサポートコストを抑えられます。また Kubernetes 管理を簡略化するさまざまなキュレーションパッケージを利用できます。
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- ハイブリッド環境の統合管理:
EKS Anywhere は EKS と同様、高い信頼性と安全性を備えた Kubernetes ディストリビューション「Amazon EKS Distro」上に構築されています。そのため、EKS で大規模にテストされた高品質なコンポーネントをオンプレミスのクラスター構築でも利用できます。さらに、EKS Anywhere と EKS を使ったオンプレミスとクラウドのハイブリッド環境においても、オペレーションを共通化しやすいというメリットがあります。
EKS と EKS Anywhere の比較
EKS は AWS クラウド上で動作するマネージド型の Kubernetes サービスです。AWS がインフラとコントロールプレーンを管理するため、ユーザーはコンテナアプリケーション開発に集中することができます。一方、EKS Anywhere はオンプレミス環境で動作するセルフマネージドの Kubernetes プラットフォームです。ユーザーがインフラとコントロールプレーンを自身で管理・運用しますが、EKS と同等のコンポーネントを利用できます。
EKS と EKS Anywhere の主な相違点は以下の通りです。
項目 | EKS | EKS Anywhere |
動作環境 | Amazon EC2、AWS Fargate | ユーザーのインフラ |
コントロールプレーン | AWS 管理 | ユーザーによる管理 |
セキュリティ | AWS とユーザーによる責任共有 | ユーザーによるセキュリティ対策 |
コスト | 従量課金制 | ライセンス料金制(クラスター数基準) |
メリット | 設定・運用の容易さ | オンプレミスにおけるクラスター管理の簡略化 |
オンプレミスやエッジなど、任意の環境で Kubernetes を利用したい場合や、コンプライアンスやデータガバナンスを自社内で完結したい場合などにおいて、EKS Anywhere は有力な選択肢となります。
EKS と EKS Anywhere の比較について詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Compare EKS Anywhere and EKS (英語)」をご覧ください。その他 EKS Anywhere の概要について詳しくは、「Amazon EKS Anywhere のよくある質問」をご覧ください。
EKS Anywhere のユースケース
EKS Anywhere を使ってオンプレミスやエッジ環境で Kubernetes を利用することで、さまざまなユースケースが考えられます。工場、病院、店舗など、多彩なシーンでのコンテナアプリケーションの需要に対応できます。
ユースケースの例
EKS Anywhere の主なユースケースは以下の通りです。
自動車工場でのロボット制御システム
病院での医療画像解析アプリケーション
病院での医療画像の解析には、大量の画像データと最新の AI 技術が必要です。しかし、個々の病院で大規模なシステムを構築・運用するのは困難です。そこで複数の病院が、EKS Anywhere をオンプレミスに設置し、コンテナ化した AI システムを共有することで、限られたリソースで高精度な医用画像診断を実現できます。
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小売店舗での在庫管理システム
店舗内のサーバーに EKS Anywhere をインストールし、POS データに基づく在庫最適化に活用できます。店舗ごとの購買データをリアルタイム分析することで、商品の需要予測が精度高く行え、過剰在庫や欠品を抑えられます。既存システムとの連携がスムーズにできるため、在庫管理を強化できます。
スマートシティでのセンサーデータ分析
街中に設置したセンサーから交通量や騒音、大気汚染などのリアルタイムデータを収集します。街中のエッジサーバーに EKS Anywhere をデプロイし、これら膨大なデータをリアルタイム処理することで、交通制御や環境改善に活用できます。
オンプレミスやエッジでの Kubernetes のニーズが高まる中、EKS Anywhere は多様なユースケースを支える強力なソリューションとなります。規模の大小を問わず、特に外部のインターネットに接続できない環境下でのコンテナアプリケーションの運用において、EKS Anywhere はその真価を発揮します。IoT や CPS などの領域では、EKS Anywhere によって各種センサーからのデータをエッジ側で処理し、リアルタイム制御に活用する、低遅延でセキュアなシステムを構築できます。
実際の EKS Anywhere を利用したプロジェクトについて詳しくは、「NTTドコモ、日本全国で展開する 5G 無線アクセスネットワークで AWS を選定」をご覧ください。
EKS Anywhere の環境構築
クラスターの作成と管理を行う Admin Machine を利用して、Kubernetes クラスターをデプロイします。
EKS Anywhere を利用を始める際はまず Admin Machine 用のサーバーを用意し、EKS Anywhere CLI をインストールします。その後、Admin Machine から CLI を使ってクラスターをプロビジョニングして、EKS Anywhere クラスターを作成します。EKS Anywhere のクラスターマシンは、システム要件を満たす限り、ベアメタル (物理サーバー) や仮想サーバーを含む、各種インフラプロバイダーが提供するサーバー上に自由にデプロイすることができます。
Admin Machine のシステム要件
EKS Anywhere の Admin Machine のシステム要件は以下のとおりです。以下の要件のサーバーに、EKS Anywhere CLI をインストールすることで、EKS Anywhere のAdmin Machine として動作します。
OS |
Mac OS 10.15 以上、Ubuntu 20.04.2 LTS または 22.04 LTS、RHEL または Rocky Linux 8.8 以上 |
CPU コア数 |
4 |
メモリ |
16GB |
空きディスク容量 |
30GB |
システム要件について詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Administrative machine prerequisites (英語)」をご覧ください。
クラスターマシンのインフラプロバイダー
EKS Anywhere クラスターをデプロイするインフラを選択します。EKS Anywhere は以下のようなインフラプロバイダーに対応しています。システム要件を満たす限り、オンプレミス、エッジ、ハイブリッドなど任意の環境に EKS Anywhere をインストールできます。
インフラプロバイダー | サービス内容 |
VMware vSphere | VMware の仮想化プラットフォーム |
ベアメタル | 物理サーバー |
AWS Snowball Edge | エッジ向けコンピューティングデバイス |
CloudStack | オープンソースのクラウドプラットフォーム |
Nutanix | ハイパーコンバージドインフラプラットフォーム |
Docker (開発 / テスト用途限定) | コンテナ仮想化プラットフォーム。本番環境での利用は非推奨。 |
EKS Anywhere クラスターの作成
EKS Anywhere クラスターをオンプレミスまたはエッジ環境にデプロイするためのフローは、インフラプロバイダーの種類により異なります。以下は、ベアメタル環境に EKS Anywhere クラスターをデプロイする場合の基本的なフローです。
- Admin Machine の構築:
eksctl、 eksctl-anywhere プラグイン、kubectl をインストールして、Admin Machine を構築します。 - ハードウェア設定ファイルの作成:
CSV ファイルに、ノードとなるマシンのリストを記述します。 - クラスター設定ファイルの作成:
YAML ファイルに、クラスター名やネットワーク設定、インフラプロバイダーなどの設定を記述します。 - クラスターマシンに EKS Anywhere クラスターをデプロイ:
eksctl anywhere create cluster --hardware-csv hardware.csv -f cluster.yaml コマンドで、手順 2、3 で作成した設定ファイルを指定して実行します。
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ベアメタル環境への EKS Anywhere クラスターの作成手順について詳しくは、builders.flash 記事の「Amazon EKS Anywhere ベアメタルサポートを仮想環境 (VMware ESXi) で検証する」をご覧ください。
そのほかの環境での EKS Anywhere クラスターの作成方法は、クラスターマシンの環境によって異なります。詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Installation (英語)」をご覧ください。
アーキテクチャ
EKS Anywhere のアーキテクチャは、Kubernetes のアーキテクチャデザインをベースに構築されています。主にコントロールプレーン、データプレーン、管理ツールの 3 つのコンポーネントから成り立っています。
コンポーネント
コントロールプレーンは Kubernetes のマスターコンポーネントとして、クラスター全体の管理、データプレーンの制御を行います。さらに eksctl などの管理ツールはコントロールプレーンやデータプレーンの設定やメンテナンスを行います。この 3 つのコンポーネントの連携により、Kubernetes のコンテナ環境が実現されます。
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役割 | 説明 | コンポーネント |
コントロールプレーン | Kubernetes の制御と調整を行うマスターコンポーネント。API サーバー、スケジューラー、コントローラーマネージャーなどから構成される。 | kube-apiserver、kube-scheduler、kube-controller-manager、etcd |
データプレーン | アプリケーションの実行環境を提供するワーカーノード。コンテナの起動・停止の制御、ネットワークのプロキシ機能などのエージェントが配置される。 | kubelet、kube-proxy |
管理ツール | Kubernetes クラスターのデプロイと管理を支援するコマンドラインツール。 | eksctl、eksctl-anywhere、kubectl |
セルフマネージドな Kubernetes サービス
マネージド型のサービスである EKS とは異なり、EKS Anywhere はデータプレーンに加えてコントロールプレーンの管理をユーザー自身が行う、セルフマネージドな Kubernetes サービスです。EKS Anywhere と近いサービスとして Amazon ECS Anywhere がありますが、Amazon ECS Anywhere は AWS クラウド上で稼働するコントロールプレーンからオンプレミスのサーバーをデータプレーンとして活用します。その点、EKS Anywhere は、AWS 環境に依存しないフルオンプレミスのセルフマネージド Kubernetes サービスと言えます。
セルフマネージドな Kubernetes サービスとしてのメリットは以下のようなものがあります。
- 既存のオンプレミス資産の活用:
自社で所有するサーバーやストレージを再利用できるため、コスト削減につなげられます。 - プロバイダーの自由な選択:
ハードウェア / ソフトウェアの任意のベンダーを選択できます。 - 自社のセキュリティポリシー適用:
データプレーンとワーカーノードを自社管理するため、セキュリティ対策を柔軟に設定できます。 - 自社の運用ノウハウの活用:
インフラ運用は自社で行うため、運用体制の変更を最小限に抑えられます。
マネージド型の EKS と セルフマネージド型の EKS Anywhere、それぞれにメリットと適したユースケースがあります。Kubernetes クラスターの管理の手間やコスト、運用環境の要件を考慮して、最適な Kubernetes サービスを選択します。
EKS Anywhere のアーキテクチャについて詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「EKS Anywhere Architecture (英語)」をご覧ください。
クラスターの構成
EKS Anywhere クラスターは、コントロールプレーンとワーカーノードの 2 つのコンポーネントから構成されます。コントロールプレーンはクラスターの管理機能を提供し、ワーカーノードはアプリケーションの実行環境を提供します。
コントロールプレーン
コントロールプレーンのコンポーネントの役割は以下の通りです。
コンポーネント | 役割 |
kube-apiserver | Kubernetes コントロールプレーンのコンポーネント。Kubernetes API を外部に提供する。 |
kube-scheduler | Kubernetes のデフォルトのスケジューラー。コントロールプレーンの一部分として動作する。 |
kube-controller-manager | コントロールプレーン上で動作するコンポーネント。複数のコントローラープロセスを実行する。 |
etcd | 一貫性、高可用性を持ったキーバリューストア。Kubernetes のすべてのクラスター情報の保存場所として利用される。 |
ワーカーノードと Pod
Kubernetes において、アプリケーションを実行するための基盤となるのがワーカーノードと Pod の 2 つのコンポーネントです。
1 つのワーカーノードに複数の Pod をデプロイすることができ、Pod はスケジューリングによって適切なワーカーノードに割り当てられます。このように Pod とワーカーノードは密接に連携し、アプリケーションのスケーラブルな実行を実現しています。
- ワーカーノード:コンピューティングリソースを提供する物理サーバーまたは仮想マシンで、Pod をホストする役割を持ちます。
- Pod:アプリケーション実行の論理単位で、コンテナ、設定、ストレージ等のリソースを 1 つにパッケージ化したものです。
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EKS Anywhere においても、ワーカーノードと Pod の役割は同様です。EKS Anywhere であればオンプレミスの既存リソースを活用して自社環境に最適化したワーカーノードと Pod の設定が可能となります。
クラスターの構成について詳しくは、EKS のユーザーガイドの「Amazon EKS クラスター」をご覧ください。
ライフサイクル管理
EKS Anywhere は、Kubernetes クラスターの包括的なライフサイクル管理機能を提供しています。OS のアップグレードからパッケージの管理まで、管理範囲は非常に広範囲です。しかし、EKS Anywhere を活用することで、複雑な Kubernetes 環境のライフサイクル管理を大幅に効率化できます。
OS 管理
EKS Anywhere のクラスターマシンでは、Bottlerocket や Ubuntu、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) などの Linux ディストリビューションをサポートしています。なお各 OS のサポート状況は、インフラプロバイダーによって以下のように異なります。
OS | vSphere | Bare metal | Snow | CloudStack | Nutanix |
Bottlerocket | ⚪︎ | ⚪︎ | - | - | - |
Ubuntu | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | - | ⚪︎ |
RHEL | ⚪︎ | ⚪︎ | - | ⚪︎ | ⚪︎ |
OS イメージをダウンロードしてクラスターマシンへのインストールに利用します。AWS からは主要な OS イメージファイルが提供されていますが、提供されていない環境では自身で OS をビルドする必要があります。
EKS Anywhere が提供する OS イメージファイルについて詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Artifacts (英語)」をご覧ください。
クラスター管理
EKS Anywhere CLI など各種コマンドラインツールを使用して、Admin Machine からクラスターを一元的に管理できます。主に次のような管理タスクを定期的に実行します。
- クラスターの作成 / 削除:EKS Anywhere CLI を使用してクラスターを作成および削除します。
- クラスターのアップデート:EKS Anywhere CLI でクラスターコンポーネントを最新バージョンにアップデートします。
- クラスターのスケーリング:EKS Anywhere CLI で更新したクラスター設定ファイルを適用して、クラスターをスケールします。
- ネットワークまたはストレージの設定:CNI プラグインの設定やストレージの接続を行います。
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また EKS Anywhere では、GitOps や IaC ツールを活用してクラスターのライフサイクルを自動化できます。詳しくは、「Amazon EKS Anywhere が GitOps や IaC ツール (Terraform など) によるクラスターライフサイクルの自動化をサポート」をご覧ください。
パッケージ管理
EKS Anywhere キュレーションパッケージは、EKS Anywhere のコア機能を拡張するために提供されるパッケージです。キュレーションパッケージを使用することで、EKS Anywhere クラスターのモニタリングやロードバランシング、コンテナイメージレジストリ、証明書管理などを簡単に設定できるようになります。EKS Anywhere CLI を利用して、キュレーションパッケージの作成、削除、反映、アップグレードなどの管理を Admin Machine から実行できます。
以下は EKS Anywhere が提供するキュレーションパッケージの一部です。その他のキュレーションパッケージについて詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Packages (英語)」をご覧ください。
パッケージ名 | 役割 |
ADOT | テレメトリデータの収集・処理・エクスポート |
Cert-manager | Kubernetes クラスターの証明書マネージャ |
Cluster Autoscaler | Kubernetes クラスターのオートスケーリング |
Harbor | コンテナイメージレジストリ |
Prometheus | モニタリングとアラート |
EKS Anywhere では、キュレーションパッケージ管理用のパッケージコントローラーを使用して、パッケージのインストールやアップデート、依存関係の解決などのライフサイクルを管理できます。
EKS Anywhere のパッケージ管理について詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Curated Package management (英語)」をご覧ください。
セキュリティ
コンテナアプリケーションを安定的に稼働するためには、Kubernetes クラスターのセキュリティを確保することが極めて重要です。ここでは、Kubernetes クラスターのセキュリティを高めるための一般的な対策と、EKS Anywhere が提供するオンプレミス環境におけるセキュリティ機能について説明します。
Kubernetes のセキュリティ対策
Kubernetes における一般的なセキュリティ対策としては、以下のようなものがあります。
- ロールベースのアクセス制御 :
Kubernetes のリソースや API へのアクセスを制限するロールベースのアクセス制御を行います。 - 通信の TLS 暗号化 :
Kubernetes クラスター内部の通信を TLS で暗号化します。
EKS Anywhere のセキュリティ機能
Kubernetes のセキュリティ対策に加え、EKS Anywhere はオンプレミス環境におけるクラスターのセキュリティをさらに強化する以下のような固有の機能を提供しています。
セキュアな OS のサポート
EKS Anywhere および EKS はクラスターノードの OS として Bottlerocket をサポートしています。Bottlerocket はコンテナ専用のセキュアな OS で、第三者による攻撃の対象を最小化することでセキュリティを高めます。具体的には、不要なパッケージマネージャー等を削除し、ルートファイルシステムを読み取り専用に設定することで、攻撃者による改ざんを防止します。
証明書の自動ローテーション
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セキュリティパートナー連携
EKS Anywhere のパートナーには、Sysdig や Aqua Security、CrowdStrike、HashiCorp などのセキュリティプラットフォームベンダー各社が名を連ねています。ユーザーはシステム要件に応じて、最適なセキュリティソリューションを選択することが可能です。EKS Anywhere のパートナーについて詳しくは、「Amazon EKS Anywhere パートナー」をご覧ください。
EKS Anywhere はネットワーク、通信、診断などの面で高いセキュリティ機能を備えています。EKS Anywhere のセキュリティ対策について詳しくは、EKS Anywhere Documentation の「Security (英語)」をご覧ください。
EKS Anywhere の料金体系
EKS Anywhere の料金は、エンタープライズサブスクリプションのライセンス料金をクラスター数に応じて支払う形で発生します。
エンタープライズサブスクリプションを利用するには、AWS エンタープライズサポートまたは AWS Enterprise On-Ramp のサポートプランの契約が前提条件となります。ただし、AWS のサポートを必要としない場合は、無料で利用することもできます。
エンタープライズサブスクリプション
EKS Anywhere は、ライセンス料金制の料金体系を採用しており、エンタープライズサブスクリプションのライセンスを割り当てたクラスターの数に基づいて決定されます。サブスクリプションの契約期間は 1 年間または 3 年間のいずれかを選択でき、合計金額は 1 年契約の場合はクラスターあたり 24,000 USD、3 年契約の場合はクラスターあたり 18,000 USD です。
契約期間による料金比較
以下は、2024 年 4 月時点でクラスター数が 3 つの場合の、EKS Anywhere のエンタープライズサブスクリプション料金の比較例です。
項目 | 1 年契約 | 3 年契約 |
月額料金 | 2,000 USD x 3 クラスター = 6,000 USD | 1,500 USD × 3 クラスター = 4,500 USD |
年額料金 | 24,000 USD × 3 クラスター = 72,000 USD | 18,000 USD × 3 クラスター = 54,000 USD |
総額 | 72,000 USD x 1 年 = 72,000 USD | 54,000 USD x 3 年 = 162,000 USD |
なお、エンタープライズサブスクリプションを購入すると、AWS の特定分野の専門家による 24 時間年中無休のサポートと Kubernetes クラスターのデプロイを支援するキュレーションパッケージを利用できます。
EKS Anywhere はライセンス下のクラスター数に基づく定額制のため、EKS のような従量課金型とは異なり、リソースの使用量に関わらず定額の料金が発生します。そのため、コスト予測がしやすく、Total Cost of Ownership (TCO) を管理しやすい特徴があります。ただし、マネージド型の EKS に対してセルフマネージド型の EKS Anywhere はリソースのスケーリングに制限が生じるため、ワークロードに応じた適切なクラスター数の設定と、長期的なリソース計画がコスト管理の鍵となります。
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EKS Anywhere のみの利用
EKS Anywhere の利用自体に料金は発生しませんが、エンタープライズサブスクリプションを利用しない場合、AWS のサポートの対象外となります。そのため、バージョン管理、セキュリティ、運用コストなどの点で、課題が発生した際はユーザー自身で対処する必要があります。
エンタープライズサブスクリプションを利用した場合、安定した AWS のサポートやキュレーションパッケージを利用が可能になる一方で、利用しない場合は初期コストを抑えられるメリットがあります。コンテナアプリケーションの規模や要件、稼働期間などビジネスニーズに応じて、エンタープライズサブスクリプションの要否を決めることができます。
EKS Anywhere の料金体系について詳しくは、「Amazon EKS Anywhere の料金」をご覧ください。
まとめ
最後に、本記事で紹介した機能の全体図を見てみましょう。
この記事では、AWS のオンプレミス向け Kubernetes サービス Amazon EKS Anywhere の機能と特徴について解説しました。EKS Anywhere は、セルフマネージドなインフラ、既存資産の活用、オンプレミスの Kubernetes 運用を強力に支援する機能を提供しています。オンプレミスとクラウドをシームレスに連携し、Kubernetes の運用効率を最大化する EKS Anywhere は、あらゆる環境でコンテナアプリケーションの管理と拡張を強力にバックアップするソリューションです。
本記事を読んで EKS Anywhere に興味を持たれた方、実際に使ってみたいと思われた方は、ぜひ製品ページの「Amazon EKS Anywhere」や「Amazon EKS Anywhere Documentation (英語)」も合わせてご覧ください。
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筆者プロフィール
米倉 裕基
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
テクニカルライター・イラストレーター
日英テクニカルライター・イラストレーター・ドキュメントエンジニアとして、各種エンジニア向け技術文書の制作を行ってきました。
趣味は娘に隠れてホラーゲームをプレイすることと、暗号通貨自動取引ボットの開発です。
現在、AWS や機械学習、ブロックチェーン関連の資格取得に向け勉強中です。
監修者プロフィール
林 政利 (@literalice)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
コンテナスペシャリスト ソリューションアーキテクト
フリーランスや Web 系企業で業務システムや Web サービスの開発、インフラ運用に従事。近年はベンダーでコンテナ技術の普及に努めており、現在、AWS Japan で Amazon ECS や Amazon EKS でのコンテナ運用や開発プロセス構築を中心にソリューションアーキテクトとして活動中。
荒木 靖宏 (あらき やすひろ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
AWS Japan の最古参メンバーです。AWS ではネットワークやコンテナ、開発の話をすることが多いです。 昔は自宅ラック勢でしたが、研究所にいたころに移動させ、AWS にはいったらゼロになりました。COVID-19 下になって、ラスパイお家サーバーが復活しました。
杉田 想土
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロフェッショナルサービス本部 クラウドアプリケーションアーキテクト
AWS のコンテナサービス関連を中心に、AWS を活用したシステムの設計および構築を支援しています。好きな AWS サービスは Amazon EKS です。
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