スケーラビリティに優れた AWS を採用
多彩な MaaS プレイヤーと連携し「まちづくり」に貢献
2020
堀 清敬 氏
株式会社ドコモ・バイクシェア
代表取締役社長
年間利用回数 1,200 万回以上の地域に根ざしたサービスに成長
「当社のサービスは、社会課題解決を目的とした NTT ドコモの新規事業開発から始まり、当初から『公共性の高い市民サービス』としての定着を目指してきました。それは行政や自治体、社会サービスの事業者などとの信頼関係があって初めて実現しうるものです。2011 年 4 月に横浜市で行った実証実験を出発点に、さまざまな自治体との連携を進めてきました」と、代表取締役社長の堀清敬氏は語ります。
サイクルシェアリングのシステムは、NTT ドコモのプライベートクラウド内に構築し、増強を行ってきたものの、事業の想定以上の伸びとともに、徐々に限界を迎えていました。特に 2015 年の会社設立以降、利用回数は数百万単位で毎年倍々に増え、さらに朝晩のトラフィック集中が顕著になり、負荷の増大は深刻でした。
「2017 年に私が社長に着任したときには既に厳しい状態で、公共的なサービスという矜持のもと適切にシステム増強をしたつもりが、それを凌駕するトラフィック量に肝を冷やしました。サービスの品質低下だけでなく、同じプライベートクラウド内の他のシステムへの影響も懸念されはじめていました。そこで、サービスの安定性向上と予想以上の需要増加にも対応しうる拡張性という要件のもと、システム基盤を抜本的に見直すことにしました」(堀氏)
MaaS プラットフォームに不可欠な他の事業者や
サービスとの連携性の高さを評価し、AWS を採用
同社のサービスは公共性の高さから中断が難しいため、継続性を担保した上で新しいシステム環境に移行できる方法を、コンサルティングやアセスメントを受けながら検討したといいます。
「まず、増強を重ねて複雑化していた旧システムの実態把握と解決策の検討に約半年間かけました。その結果を踏まえつつ今後の成長に備えると、やはり拡張性の高いパブリッククラウドが望ましいと判断しました。AWS を選んだ理由として、利用実績、汎用性や信頼性の高さがあります」(堀氏)
また、インフラ環境だけでなく、システム自体も大幅に見直すことにしたため、柔軟で小回りのきく開発環境も選定のポイントでした。
「以前の Web アプリは操作のたびにサーバーに負荷がかかり、利用者だけでなく、問い合わせを受けるサポートチームなどにも遅延などの影響が出ていました。そこで作り直して UI や性能の改善を併行して行うことにしました。AWS はサービスやシステムはもとより、技術サポートも充実していました」と、開発を担当した株式会社NTTドコモ 元スマートライフ推進部 モビリティ事業 モビリティビジネス担当主査の高橋正道氏は振り返ります。
そして、最大の決め手は“つながりやすさ”でした。事業目標に掲げた『地域の社会課題の解決』に貢献するには、他の交通事業者や決済サービス、MaaS(Mobility as a Service)プラットフォームなど、さまざまなプレイヤーとの連携が欠かせません。さらに地域ごとに課題やプレイヤーが異なるなか、低コストで柔軟に連携できることが重要でした。
「日本の MaaS 市場はプラットフォームごとに API が異なることも多く、連携のためのカスタマイズに時間と手間がかかることが想定されました。そこで 技術者に広く知られる Amazon API Gateway を採用することで仕様調整を省力化し、AWS Lambda 連携で簡便かつ迅速につながるようにしました。また相手も AWS 環境であれば連携しやすさはさらに進むでしょう。そうしたクラウドのデファクトスタンダードとしてのメリットも享受したいと考えました」(高橋氏)
2018 年 11 月に開始された AWS への移行は 2019 年 3 月に完了。5 月に MaaS 連携用に Amazon API Gateway を導入、8 月にデータベースを Amazon RDS へ移設完了しました。
「単なる移行ではなく進化のための抜本的な刷新だったため、AWS の圧倒的な安心感のもと、開発に集中できたのは何よりの成果でした」(堀氏)
自転車側の制御に IoT を活用しプロトタイピングで新しい取り組みにも挑戦
AWS への移設および新システムの開発と併行し、アプリや自転車側のハード端末も刷新を進めています。
「まずアプリはシステムに負荷をかけにくい設計に変え、『いかに早く快適に自転車に乗れるか』を徹底的にこだわって UX/UI を磨き上げました。自転車のバッテリ状況やポートにある利用可能な自転車の台数を表示するなど、機能面の強化を行っています。
さらに現在開発している自転車側の新端末には FreeRTOS を使用してサーバー側の AWS IoT Core と接続し、サーバー側からのカギ制御をアプリから QR コードをスキャンすることにより実現するよう開発を進めています。新しい通信技術での開発だったこともあり、AWS を活用することですぐにプロトタイプが始められた点が大いに役立ちました。新アプリは 2020 年 6 月に公開されており、自転車の新端末も 2020 年度内に展開予定です」(堀氏)
さらに IoT による収集データの活用も構想されています。
現在、自転車貸出状況や自転車の稼働状況をリアルタイムに収集/蓄積しており、国内人口分布統計や気象データなどと合わせて AI 分析することで独自のシェアリング交通需要予測技術を開発し、自転車や回収車の最適配置に利用しています。
「ゆくゆくは 7,000 万を超える NTT ドコモのユーザーデータとも連携し、マーケティングなどのビジネス利用の他、行政の施策や大学の研究・調査などにも活用したいと考えています。むろん個人情報の活用は許諾を前提とし、社会や個人に価値あるものにしていきたいです」と、株式会社 NTT ドコモ スマートライフ推進部 モビリティ事業 モビリティビジネス担当課長の藤井優氏は語ります。
公共交通プラットフォームとしてのさらなる進化へ
「AWS への移行と API 公開を機に、多くの事業者から連携のお声がけをいただきました。既に経路検索『NAVITIME』やドコモの決済サービス『d 払い』、JR 東日本『Ringo Pass』や小田急電鉄『EMot』などとの連携を完了させています。もし AWS に移行していなければ、こうした事例は今も実現できていなかったかもしれません。安心して事業に邁進できる環境を手に入れた今、オープンなプラットフォームを活用し、街づくりの一端を担い、ドコモ・バイクシェアが街に溶け込み、お客様に愛される存在になるように、取り組みを進めていきたいと考えています」(堀氏)
堀 清敬 氏
高橋 正道 氏
藤井 優 氏
カスタマープロフィール:株式会社ドコモ・バイクシェア
- 設立年月日:2015 年 2 月 2 日
- 資本金:7.5 億円(資本準備金 7.5 億円)
- 事業内容:サイクルシェアリング事業の運営、サイクルシェアリング運営事業者(コミュニティサイクル、レンタサイクル運営事業者など)へのシステム提供、コンサルティング業務、各種イベントの企画運営業務など
AWS 導入後の効果と今後の展開
- 公共交通サービスとしての信頼性・安心感の向上
- AWS Lambda 連携による API 公開でオープンなプラットフォーム化を加速
- 快適な開発環境が整い、システムやアプリの移行・改善もスムーズに実施
- FreeRTOS と AWS IoT により、走行データの収集・蓄積に加え、解析と利活用を将来的に想定
ご利用中の主なサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
AWS Lambda
AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。
FreeRTOS
FreeRTOS は、低電力小型エッジデバイスのプログラミング、デプロイ、保護、接続、管理を簡単にするマイクロコントローラー向けのオープンソースかつリアルタイムのオペレーティングシステムです。
AWS IoT Core
AWS IoT Core は、インターネットに接続されたデバイスから、クラウドアプリケーションやその他のデバイスに簡単かつ安全に通信するためのマネージド型クラウドサービスです。