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VMware 仮想環境における AWS Backup の予算計画ガイド

VMware 仮想環境のモダナイゼーションに取り組む際には、信頼性が高くコスト効率の良いデータ保護が重要になります。一般にデータ保護ソリューションを評価する際には、ソフトウェア、ストレージ、運用にかかる複雑なコスト計算が必要でした。 AWS が提供する AWS Backup はそれらの課題を解決し、よりシンプルなデータ保護の選択肢を提供します。

AWS Backup は、ソフトウェアのライセンス費用を前払いする必要のない従量課金でポリシー型のマネージドサービスであり、データ保護にかかるコストをシンプル化します。

加えて、AWS Backup には VMware 仮想マシン(VM)を Amazon Elastic Compute Cloud (EC2)インスタンスとして直接リストアする機能も備えているため、ミッションクリティカルなデータ保護と同時に AWS へのシームレスな移行、将来的なクラウドネイティブ化にも役立ちます。

本記事では、オンプレミスまたはクラウドベースの VMware 仮想環境を運用している方々を主な対象に、AWS Backup の実利用コストを見積もるための有用なヒントを提供します。

AWS Backup 利用料金を理解する

AWS Backup の基本となる利用料金は、下記のようにシンプルです。

「バックアップデータが消費するストレージ領域の量 (月平均 GB)」 × 「単価($/GB)」

しかし、VMware VM を AWS Backup でバックアップする場合、「バックアップデータが消費するストレージ領域の量」は、対象 VM、データタイプ、フォーマットによって異なる場合があります。

例えば、とあるバックアップ対象 VM には 90 GB のディスク割り当てたものの、オペレーティングシステム(OS)は 10 GB のストレージ利用だけを認識しており、一方 VMware vSphere からは 20 GB の物理ストレージが実際に消費されているケースを想像してみましょう。考慮すべきパラメーターは複数ありそうです。

結論からお伝えすると、AWS Backup のバックアップデータが消費するストレージは、割り当てられたデータと削除されたデータの両方を含むディスク使用量に等しくなります。これは通常、VM の割り当てられたサイズよりも小さくなり、VM の OS レベルの使用量よりも大きくなります。また、AWS Backup サービスコンソールに表示されるバックアップサイズは「バックアップデータが消費するストレージ領域の量」を表していません。代わりに、VMware 仮想環境で割り当てられた (プロビジョニングされた) ディスクサイズを反映しています。

本記事では、AWS Backup を使用して VMware 仮想環境の VM をバックアップした際の 1 ヶ月間の利用料金から逆算することで、「バックアップデータが消費するストレージ領域」を確かめていきます。

VMware 仮想環境と AWS マネジメントコンソールの双方においてストレージ容量は GB として表記されますが、実際には GiB(ギビバイト)を示していることに注意してください。AWS Backup もバックアップストレージ、リストア、データ転送の価格計算に GiB(ギビバイト)を単位として使用していることに注意してください。

参考までに、「1 GB = 1,000³ bytes」、「1 GiB = 1,024³ bytes」です。

前提条件

今回のテストは以下の条件で実施しています。

VMware 仮想環境について

次の表は、本テストで使用した VMware 仮想環境の構成をまとめています。

VMware vSphere バージョン 8.0
ホストサーバー Amazon EC2 i3.metal * 1 台
リージョン N.Virginia
備考
  • VMware 仮想環境として VMware Cloud on AWS を使用
  • 作成する VM はすべてシンプロビジョニング

バックアップ対象の Windows VM について

次の表は、AWS Backup を使用してイメージバックアップを取得した Windows VM の情報をまとめています。

OS Windows Server 2019
VM ハードウェアバージョン 19
割り当てディスク容量 (C ドライブのみ) 90 GiB
VMware vSphere によって認識されたストレージ使用量 19.66 GiB
備考
  • 対象 VM はシンプロビジョニングとして作成
  • C ドライブには約 10 GiB の追加ファイル(主に ISO ファイル)を保存
  • バックアップ中、対象 VM の電源はオフ

図 1 は、AWS Backup でバックアップする Windows VM が vSphere からどのように認識されているかを示しています。

               図 1. バックアップ対象の Windows VM

図 2 は、Windows OS レイヤでは割り当てディスクが 90 GiB であると認識していることを示しています。

96,630,589,440 bytes は約 90 GiB となります。

               図 2. Windows OS によって認識される割り当てられたディスクのサイズ

AWS Backup について

次の表は、対象 Windows VM のイメージバックアップを初めて取得した際の AWS Backup の情報をまとめています。

バックアップ作成日 2023 年 11 月 18 日
バックアップ保持期間 2023 年 11 月 18 日 – 2024 年 1 月 20 日
ストレージ層 ウォーム (Warm)
リージョン N.Virginia
備考
  • AWS Backup の利用コストは、対象 Windows VM の初回イメージバックアップのみを対象とする
  • バックアップ保持期間中に増分バックアップ、追加バックアップ、またはコールドストレージへの移行は実施していない

図 3 は、AWS マネジメントコンソールから AWS Backup の取得バックアップ情報を示しています。

コンソール中ではストレージ容量は GB として表示されますが、実際には GiB(ギビバイト)を表しています。

               図 3. AWS マネジメントコンソールにおける AWS Backup の情報

以下は、AWS CloudShellAWS Command Line Interface (CLI) を実行して取得した詳細な値です。

               図 4:AWS CLI から取得した AWS Backup の詳細情報

図 4 では、「BackupSizeInBytes」は AWS Backup によって認識されているバックアップサイズを表しています。この情報によると AWS Backup によって認識されるバックアップサイズは 90 GiB となっています。

「96,636,764,160 bytes = 90 GiB」です。ただし、この値は AWS Backup でバックアップデータによって実際に消費されるストレージ容量を表していません。

実際に課金された AWS Backup 利用コスト

2023 年 12 月 1 日から 2023 年 12 月 31 日までの 1 ヶ月間(31 日間)の AWS Backup 利用料金は 0.95 ドルでした。これを 2023 年 12 月時点での N.Virginia AWS リージョンの AWS Backup ウォームストレージの単価 0.05 ドル /GiB で除算して、AWS Backup が課金したストレージ使用量を逆算します。計算結果は以下のようになります。図 5 でハイライトします。

AWS Backup が課金したストレージ使用量

0.95 (USD) ÷ 0.05 (USD/GiB) = 19.0 (GiB)

               図 5. 実際に課金された AWS Backup 利用料金

図 6 で示す通り、2023 年 11 月 18 日以前にはバックアップを実施していないため利用料金は発生していません。

               図 6. テスト以前の AWS Backup 利用料金

最後に、関連する値を以下の表にまとめます。

対象 VM に割り当てられたディスク容量(シンプロビジョニング) VMware vSphere が認識する使用済みストレージ容量 AWS CLI から取得したバックアップサイズ 課金された AWS Backup のストレージ消費量
90 GiB 19.66 GiB 90 GiB 19.0 GiB

上表のとおり、このテストケースにおいては AWS Backupによって保存および課金されたデータ量は VMware vSphereから確認できた実際のストレージ使用量とほぼ同じであることがわかります。

テストケースの確認結果

このテストケースが示すように、VMware VM のバックアップに対して AWS Backup が課金したデータ量は、対象 VM の論理的な割り当て容量(90 GiB)ではなく、VMware vSphere によって認識されるストレージ使用量(19.66 GiB)とほぼ同じサイズ(19.0 GiB)でした。実際の VMware VM が VMDK ファイルであることを考慮すると、AWS Backup が課金するストレージ消費量は VMware vSphere が認識する使用済みストレージ容量と同等になります。

AWS Backup は保存されたバックアップデータを圧縮あるいは重複排除しません。これを念頭に入れると、AWS Backup が課金するストレージ消費量は、VMware vSphere が認識する使用済みストレージ容量にほぼ一致することが理解できます。

念のため Linux VM でも追加のテストを行いましたが、結果は同様でした。シンプロビジョニング構成の VMware 仮想環境では、AWS Backup で課金されるストレージ消費量は、対象 VM に割り当てられたディスク容量ではなく、実際の使用済みストレージに等しくなります。

まとめ

本記事では、VMware 仮想環境における AWS Backup の利用料金に影響を与える主要な要素である バックアップストレージについてガイドしました。AWS Backup 利用料金のコア部分を理解することで、AWS Backup の予算をより正確に見積もることができます。

実際のバックアップコストは個々の使用パターンや要件に依存します。データ量、データ変更率、バックアップ頻度、保持期間など複数の要因も最終的な利用料金に影響を与えます。それらを踏まえつつも、今回ご紹介したガイドを AWS Backup の利用コストを予測するための出発点としてご活用ください。

参考情報

著者について

Koichi Takeda

武田 紘一

VMware ワークロードのスペシャリストソリューションアーキテクトです。AWS への入社以前は通信業界と製造業界でインフラエンジニアおよびプロジェクトリーダーとして、VMware ならびにクラウドサービス技術に関する専門知識を活かしてきました。2022 年からは VMware vExpert として VMware User Group (VMUG) にも参画しています。

原文はこちらです。