Amazon Web Services ブログ

味の素食品株式会社の AWS 事例「Amazon Rekognition を用いた製品の賞味期限検出システム」のご紹介

本ブログは、味の素食品株式会社と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。

味の素食品株式会社は半世紀以上にわたり、安全・安心な製品を提供するクノール食品株式会社、味の素グループの包装を主軸とした高い技術力を持つ味の素パッケージング株式会社、「ほんだし®」や「Cook Do®」といった製品を生産する味の素株式会社の食品生産部門を一つにし、味の素グループ国内最大規模の生産会社として、2019 年 4 月 1 日に誕生しました。

同社では製品の写真から自動で賞味期限を読み取る機能を実装しました。これにより、工程管理における賞味期限印字の正誤確認 (指図通りの賞味期限を印字しているか) の作業品質の向上と作業負荷軽減を実現しています。この機能を実現するための Amazon Rekognition をはじめとしたサービスを活用した事例を紹介いたします。

 

味の素食品株式会社


課題

「賞味期限」や「消費期限」は、国内製品においては食品表示基準第 3 条、業務用加工食品は食品表示基準第 10 条により表示を義務付けられており、誤った表示や表示なし製品が外部流通 (外部倉庫や小売店または店頭) に並ぶと法令達反となり、大規模なクレームや製品回収に繋がる加工食品業におけるもっとも重要な品質管理点のひとつです。

賞味期限印字の照合は印字検査装置による全数検査を実施していますが、そもそも印字する賞味期限が指図された正しい賞味期限と一致しているかどうかは人の目でしか確認ができていない状況でした。人間の認知エラー撲滅は困難であり、作業者の目視検査支援によるより一層の作業品質の向上が必要でした。

ソリューション

味の素食品株式会社では作業品質向上や標準化を目的とした包装業務用の電子帳票アプリケーションを開発しており、このアプリケーションとモバイル端末のカメラを用いた実装を検討しました。

製品に印字される賞味期限のフォントや文字列は製品 SKU や生産ラインごとに異なり、生産ライン上で高速に印字される賞味期限は文字の形状が多少変化することもあります。そのため、一般的な画像検査で用いられるパターンマッチング型の画像照合機能を、複数の工場間で標準化された電子帳票アプリケーションに構築しようとすると、画像照合アプリケーション側に数千もの字体を登録する必要があり運用が現実的ではありませんでした。

そこで、味の素食品株式会社では以下のように Amazon Rekognition の TextDetection を用いて、現場担当者が持つモバイル端末で撮影した写真から賞味期限を判別するアプローチを採用しました。本システムは以下構成で、インフラストラクチャの管理、運用負荷の少ないマネージドサービスで構成されています。

本機能の流れは以下です。

  1. クライアントから Amazon CloudFront 経由で Amazon S3 上にある Web アプリケーションコンテンツを取得
  2. 製品の写真を撮り、画像をアップロード
  3. 画像は Amazon CloudFront 経由で Amazon S3 に保存されオブジェクトキーが確定
  4. 賞味期限識別の API をオブジェクトキーを引数に呼び出し
  5. AWS Lambda を起動
  6. オブジェクトキーを引数に Amazon Rekognition を起動
  7. Amazon S3 から画像を取得し文字識別
  8. Amazon Rekognition の識別結果を処理して Amazon S3 に保存
  9. 賞味期限文字列をクライアントに返却

なお、上記「9. 賞味期限文字列をクライアントに返却」については Amazon Rekognition が画像から抽出する文字群から”賞味期限と想定される文字列”を抜き出す処理が必要となるため (賞味期限の表記方法は “YYYY/MM/DD”、”MM.DD.YYYY” などの表記方法が認められています) 正規表現によるマッチングを AWS Lambda 側で行い識別精度を高める工夫をしています。

また、読み取り精度に加えてレスポンスタイムの評価も技術検証中に実施しました。
工場のネットワーク帯域という制限がある中で、Amazon Rekognition の識別に要する時間、また AWS Lambda の起動に要する時間 (特にコールドスタートになるタイミング) によって作業性を悪化させてしまうという懸念がありました。この懸念に対しては、求める目標値をすり合わせし、確実な目標値達成を確認するために、AWS のソリューションアーキテクトからサンプルコードを提供し、検証をご支援しました。結果的に、レスポンスタイムについても不満無く、導入していただくことができました。

Amazon Rekognition を組み込んだ電子帳票画面

照合 NG 時には画像のポップアップが表示されたのち (画像左)

照合 NG 部分が赤字で強調表示されて作業者に確認を促す (画像右)

導入効果

Amazon Rekognition の TextDetection を用いることで、フォントや文字の形状変化に左右されずに照合が可能となりました。検証段階では目標水準の読取精度を達成し、人の作業をサポートする品質を満たしていました。また、OCR ソフトでの読取が難しかった低解像度の IJP (インクジェットプリンタ) の文字も高精度に読み込むことができました。

1.5 mm × 2.5 mm の IJP 文字を高精度に読込可能

さらに、機能が API 化されているため、AWS 上に構築した電子帳票アプリへの組み込みが容易であったことも採用のポイントです。API の利用は 1 日に 100 回程度であり、組み込みの OCR ソフトを購入するよりもコストパフォーマンスが高いというメリットもありました。

製品に印字された賞味期限を Amazon Rekognition で読み取り、印字するべき賞味期限との照合をサポートすることで、人が見落としてしまうような賞味期限の設定間違いに対する照合品質が向上しました。また、読取文字列をテキストデータとして記録することで、記録の検索性も向上しました。

今後の展望

Amazon Rekognition で読み取れるフォントが想像以上に幅広であり、食品の製造業務で課題となっている食品原材料の荷姿外装からの使用期限の読み取りへの活用も検討中です。味の素食品株式会社は、今後も AI やクラウドサービスの活用を推進し、食品業界におけるイノベーションを続けます。

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味の素食品株式会社 : DX戦略推進部 変革推進G 田丸 慎司 様 (中央)
Amazon Web Services Japan : ソリューションアーキテクト 長谷川 大 (左)、ソリューションアーキテクト 杉中 礼 (右)

ソリューションアーキテクト 長谷川 大