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【開催報告】AWS Summit Japan 2024 物流業界向けブース展示 「倉庫x生成AIからの物流DX」

6 月 20 日と 21 日の 2 日間にわたり、幕張メッセにおいて 13 回目となる AWS Summit Japan が開催され、会場では 3 万人以上、オンラインも合わせると過去最高となる 5 万人超の方の参加者を記録しました。本イベントでは 150 以上のセッションと 250 以上のブース展示が行われ、AWS の最新情報が共有されました。
物流業担当チームでは「倉庫x生成AIからの物流DX」と題しまして、Amazon Bedrock をはじめ Amazon QuickSight、Amazon Location Service 等 を活用した高度な在庫管理に関するデモを行いました。多くのお客様にお立ち寄りいただき会話させていただく中で、生成AIに対する期待値の高さと倉庫の在庫管理に関する課題の大きさを感じました。本ブログではデモの内容とそれに使われたサービスやアーキテクチャについて解説いたします。

本デモは「生成AIってQAツール的な使い方では浸透してきているけど、基幹システムのような既存の仕組みとの連携という観点ではまだ進んでいないよね」、「生成AIを活用して業務改善しろ、と言われているけど具体的に何をやったら良いかわからない」という現状に対する一つの提案として企画がスタートしました。企画を進めるにあたり「こういった課題もあるんじゃないか」という形で発想が広がり、最終的なデモの形となりました。以下がデモの全体像となります。シナリオとしてドラッグストアの在庫倉庫をイメージしています。

以下がデモのアーキテクチャ図になります。倉庫在庫データを管理するため、ダミーの Warehouse Management System (WMS) を Amazon Aurora 上に構築し、WMSに対する操作を Amazon API Gateway で API として提供しています。WMS は、入出庫、在庫、ピッキング、棚卸などの倉庫業務を効率化・最適化するためのソフトウェアシステムで倉庫を扱う企業で広く利用されています。また、今回のシナリオでは倉庫在庫だけではなく店舗在庫も管理しています。店舗在庫の管理システムとしては Amazon Dynamo DB を利用しています。

デモのシナリオを順を追って説明します。

① 入庫

工場で生産した製品を物流拠点となる在庫倉庫に入庫します。従来の倉庫では、それぞれの製品を在庫管理するために、バーコードやQRコード、RFID(Radio Frequency Identification)タグなどを貼り付けてあります。デモでは、RFIDの一種であるNFC(Near Field Communication)タグを使用して在庫管理を実現し、Android 端末のChromeブラウザに搭載されたWebNFC APIを利用したWebアプリケーションをNFCタグを読み取ることで、倉庫管理システムへの入庫登録処理が完了します。NFC は導入コストの関係から採用しましたが、読み取り速度や複数読み取りの要件があるケースでは少し使いづらいかもしれません。 こういった要件があるケースではカメラによるバーコード(QR含む)の一括読み込みや、RFIDタグの一種であるUHF帯タグが選択されます。読み取りのWebアプリケーションは Amazon CloudFront + Amazon S3 の静的ホスティングを利用しています。

入庫処理用の画面

② 在庫確認(倉庫側)

倉庫側の在庫確認する仕組みとして Amazon QuickSight を利用しています。Amazon QuickSight は様々な業界やユースケースで利用可能なビジネスインテリジェンスツールです。デモは在庫数の割合や各拠点の在庫数の分布等をダッシュボードで表現しました。Amazon QuickSight はマルチデバイスに対応しているため、常設のモニタに KPI を投影したり、倉庫内を頻繁に移動する社員がモバイルデバイスで状況を確認したりと、幅広い活用が可能です。このようにダッシュボードを利用し、在庫切れリスクの早期発見、適正在庫数の維持、需要予測と備蓄計画の立案に活用いただけます。

また、Amazon QuickSight の大きな魅力はデータソースの選択肢が豊富なことです。AWS サービスである Amazon S3 や Amazon Redshift はもちろん、リレーショナルデータベースの Oracle や PostgreSQL、SaaS のデータプラットフォームである Snowflake など、様々なデータソースをサポートしています。今回は WMS の リレーショナルデータベースである Amazon Aurora をデータソースとして参照し、データベース内の入庫情報と出庫情報を基に、リアルタイムで在庫状況をダッシュボード上に表示しています。

③在庫確認、発注指示(店舗側)

店舗のスタッフが店舗内の在庫状況を確認したり、倉庫に対して店舗への発注指示をするための仕組みとして Agents for Amazon Bedrock を活用したチャット用のWebアプリケーションを開発しました。今回はわかりやすくデモをお見せするために、簡略化して発注完了=出荷完了としています。
この機能の実装にあたっては Agents for Amazon Bedrock を活用しています。Agents for Amazon Bedrock では「アクショングループ」という形で機能を定義しておくことで、Agent 経由で定義された機能を呼び出すことができます。
今回は事前に Agent が質問に応じて適切にアクションができるようアクショングループに以下5つの処理を登録しました。

  • 倉庫に対する発注リクエストは、WMS の Amazon Aurora に アクセスして、発注希望数<在庫数の場合は満たす場合は発注と倉庫在庫数の更新を行い、発注完了のメッセージと、発注番号を返す。発注希望数>在庫数となる場合は、在庫が足りていないため発注不可を返す。
  • 商品の情報確認リクエストは、WMS の Amazon Aurora にアクセスして商品情報を返す。
  • 店舗在庫の確認リクエストは、店舗用の Amazon DynamoDB にアクセスして在庫情報を返す。
  • 過去の発注履歴リクエストは、店舗用の Amazon DynamoDB にアクセスして発注履歴情報を返す。
  • 発注番号をもとにした配送状況確認リクエストは、配送状況マップの URL を返す。

それぞれのアクションは各 AWS Lambda で実行されています。
自然言語で質問をすると、Agent が質問内容を解釈して、どのアクションを実行するのが適切か判断し、そのアクションの実行結果を返してくれます。

もし、アクションを実行するのに足りない情報がある場合(例えば、発注に関するリクエストが来た際に、商品名または、発注希望数の値が不足している場合)、必要な情報をユーザから収集します。

この仕組みにより、これまで店舗のスタッフが業務ごとに複数のインターフェースを使って作業を行っていたことが、1 つのインターフェースだけで完結することができます。
現在は発注処理を行うには、人が発注内容を確認して出荷処理を行うことが一般的ですが、Agents for Amazon Bedrock をうまく活用することで生成 AI によって発注内容の確認から出荷処理まで自動化することで省人化、出荷までのリードタイムの短縮化を実現できます。
また、発注完了後は、地理空間情報に関する処理を提供する Amazon Location Service によって、輸送状況をリアルタイムで確認することができます。AWS Summit Japan の会場である幕張メッセを倉庫とし、ドラッグストアである AWS 目黒オフィスまでの輸送をデモとして紹介しました。
輸送車のデジタコやモバイル端末から位置情報を取得し、Amazon Location Service のマップ上に表示させることで、渋滞など交通状況を踏まえた最適ルートを案内させることで輸送業務の最適化に繋げることができます。

まとめ

このブログでは、AWS Summit Japan 2024 物流業界向けブースのデモ 「倉庫x生成AIからの物流DX」の内容をご紹介しました。物流業界は2024年問題を始め解決すべき課題が山積しています。これら課題を解決する有力な手段が生成AIと考えます。今回のデモでお示したように、生成AIを活用した自然言語によるインターフェースで、デジタルに詳しくない作業員でも、簡単に在庫管理システム等を操作できるようになり、生産性の向上が期待できます。さらに生成AIは、使い方によってはレガシーシステムの刷新やシステム開発の効率化にも貢献できます。物流が抱える課題の解決に向けて、生成AIの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

このブログは、デモを開発したソリューションアーキテクト (横山、宇加治、稲田、駒野、三宅、山本) が執筆しました。