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【開催報告】AWS Summit Japan 2024 流通・小売・消費財業界向けブース展示

6 月 20 日と 21 日の 2 日間にわたり、幕張メッセにおいて 13 回目となる AWS Summit Japan が「AWSと創る次の時代」をテーマに開催され、会場では 3 万人以上、オンラインも合わせると過去最高となる 5 万人超の方の参加者を記録しました。
流通・小売・消費財業界担当チームでは「Accelerate Innovative Customer Journey(加速するカスタマージャーニーのイノベーション)」をテーマに展示を行い、多くのお客様に足を運んでいただきました。デモをご体験いただいたお客様から多くのフィードバックをいただき、私たちもまた新しいアイデアを考えることができました。このブログでは、流通・小売・消費財業界ブースの展示内容をダイジェストでご紹介します。展示内容に使われている AWS サービスやアーキテクチャの紹介については個別の解説ブログも発行しており、本ブログの中からそれらのブログもご案内しています。

流通・小売・消費財業界ブース 「Accelerate Innovative Customer Journey」

今年のブース展示ではカスタマージャーニーをコンセプトの中心に置き、「ユニファイドコマース」、「生成 AI」、「次世代 IoT 自販機」の 3 つのテーマでのデモ、そしてお客様事例を展示しました。終日、ご来場者が途切れることなく、展示の説明を担当したメンバーは午後には声が枯れてくるほどでした。3 つのテーマでの展示を通して、実店舗を意識した物理デバイスを活用しつつもイマーシブな(没入感のある)体験をご提案します。デモで使ったアプリケーションには特別なものはありません。それぞれのアプリケーションのデザインや実装についてブースでも解説していましたが、その内容を以下のテーマごとに個別のブログでもご紹介していきます。AWS のサービスを組み合わせることで、皆さまのビジネスにもすばやく取り入れることができるものばかりですので、ぜひご活用ください。

1)ユニファイドコマース: 実店舗と e コマースの融合による新たなカスタマージャーニーの実現

Web での閲覧時/来店時/購買時などで異なるチャネルをシームレスに繋ぐ「ユニファイドコマース」を、カスタマージャーニーに沿って体験してもらうことのできるデモをご用意しました。

まずお客様(デモ体験者)は「e コマースサイトで商品を下見」をします。e コマースサイトには、これまでにも何度かご紹介している Retail Demo Store(こちらのブログで解説しています) を活用しており、購買履歴に基づくものや検索キーワード連動など Amazon Personalize の提供する複数のレコメンデーションを確認することができます。

Retail Demo Store 画面イメージ

商品や購入用途によって「実物を見てから購入するかどうか決めたい」、ということは多々あると思います。そうして店舗を訪れたのに目当ての商品の在庫がない…といった体験はないでしょうか。色やサイズなどカスタマイズ可能な商品では、すべてのパターンを店舗に置くことが現実的に難しいという場合もあります。AR/VR などを活用して仮想空間上で見てもらうようなアイデアもあると思いますが、今回は 3D ホログラフィックディスプレイ「Proto M」で商品をご覧いただけるようにしました。Proto は今年の 1月の NRF における AWS 展示ブースでも紹介されたデバイスです(AWS re:Invent Recap インダストリー編「NRF 2024 現地レポート」)。まるで実物がそこにあるかのようなリアルな演出の可能なディスプレイで、拡大縮小回転も思いのまま。よりリアルに、実店舗におけるエンドレスアイルを実現することができます。

商品が決まれば購入です。クレジットカードでお支払いをし、ポイントカードを提示してポイントを付与してもらう、そんな当たり前のレジでの行動も今回のデモでは新しい体験をしていただけるようにしました。

Day 2 基調講演より

Day 2 基調講演冒頭でも紹介された、昨年の re:Invent 2023 でプレビューとなったばかり、注目の手のひら認証のための新サービス、Amazon One Enterprise(2024 年 7 月 24 日時点 Preview)です。ブースでは、Amazon One Enterprise でまずは手のひら情報の登録(顧客 ID との紐づけ)をしていただき、次に購入のタイミングで Amazon One Enterprise に手をかざして手のひら画像をスキャン、登録済みの手のひら認証による会員情報認証を行います。そして、あらかじめ会員情報として登録してあった Amazon Pay で支払いを行います。ブースで Amazon One Enterprise を体験された皆さまからは、「早い」「直感的に使いやすい」といったご感想をいただきました。

ユニファイドコマースは、オムニチャネルのコンセプトをさらに進め、オフラインとオンラインの融合やフリクションレスな購買体験、イマーシブな顧客体験を目指すものです。今回の展示では、オンライン体験(e コマースや Amazon Pay)、店舗体験(3D ディスプレイや Amazon One Enterprise)がどのように繋がるのか、そのアイデアの一例をデモの形でご提案しました。オンラインではデータを活用した顧客インサイトをもとにパーソナライズされたサービス提供が当たり前になっていますが、これを店舗ユースケースにも拡げ、店舗でも手のひら一つで「あなたのためだけの」サービスが提供され、煩わしい「あのクレジットカード出して、このポイントカード見せて」といったことからも解放されます。店舗での購買履歴はオンラインにフィードバックされ、次にアプリにログインしたときにはさらに「あなたの行動や嗜好を理解した」サービスが提供されるようになるでしょう。

この「ユニファイドコマース」で使われているサービスや実現するためのアーキテクチャについては、ブログ「Amazon One Enterprise の機能とユニファイドコマースの実現」「e コマースと店舗を繋ぐ – Immersive Commerce とその店舗への拡張」で解説しています。

2) 生成 AI が切り開く新たな顧客体験

日本の e コマース市場は拡大している一方で、顧客体験向上と業務効率化がその拡大に追いついていないと言われています。e コマース業務担当者の 2 割が「運用リソース、サポート不足」を課題に感じており、4 割が「リソース不足で CRM 施策を実行できていない」との調査結果もあります。ブース展示、2 つ目のテーマにはグローバルトレンドとなった生成 AI を取り上げました。新たな顧客体験/従業員体験として、商品開発のアイディエーション、商品説明文や商品背景画像の生成、ショップアシスタント等の具体的デモや事例でご紹介します。

この展示は e コマースを展開されている企業を想定し、Amazon.com を含めた国内外事例から、生成 AI が課題解決に効果的に使われているユースケースに注目し、「商品企画」「商品登録」「広告」「販売」の4つの領域を特にホットなものとして選定しました。生成 AI には様々なモデルが存在し、業務において実現したいことに合わせてモデルを使い分ける、組み合わせるといったことが必要です。デモを通じて、ユースケースに応じて異なるモデルが利用されていることを体験いただけるようになっています。

まず商品企画段階では、生成 AI によりデザイン案を生成します。デザイナーは多くのスケッチを作りながら構想を重ねるのが一般的です。生成 AI によりデザイナーの言葉を解釈したスケッチの素案を一度にいくつも生成し、その中からイメージに近いものを選んで洗練させていくといったことがより簡単にできるようになります。

新たな商品につける商品説明文の準備も、素材や利用シーン、ターゲットセグメントへのアピールポイントなどを生成 AI に渡せば、生成 AI が支援してくれます。e コマースサイトでは魅力的な商品画像で顧客を惹きつけることも重要です。スタジオを用意し、イメージに合う背景やセットを選択することなしに、言葉で指示するだけで商品背景画像を生成することができます。このような一般に「ささげ業務」と言われる e コマース業務の領域では、生成 AI によって顧客体験を高めつつ、同時に業務効率を図ることができるようになります。

商品販売のシーンにおいても生成 AI は活躍します。自分の探す商品をキーワード検索でぴったり引き当てることはなかなか難しいものです。生成 AI がアシスタントとなり、探しものを手伝ってくれます。

このデモでは、Amazon Bedrock を使用しています。Amazon Bedrock は、主要な AI スタートアップや Amazon が提供する高パフォーマンスな基盤モデル (FM) を、統合 API を通じて利用できるようにするフルマネージド型サービスです。さまざまな基盤モデルから選択して、ユースケースに最適なモデルを見つけることができます。
今回の展示デモで利用されている基盤モデルや、使いこなすためのプロンプトの工夫などは、個別ブログ「生成 AI で加速する e コマースの変革 その 1 – EC 業界における 4 大ユースケース紹介」「生成 AI で加速する e コマースの変革 その 2 – AWS Summit Japan 2024 で展示した Amazon Bedrock デモの解説」で詳細に解説しています。

3) 新価格体験を実現する次世代自販機

展示テーマの 3 つ目は、IoT サービスを活用する次世代自販機です。全国の自動販売機は飲料自販機だけでも 220 万台(2023年末時点)で、スーパー 23,000 店や、コンビニ 56,000 店よりはるかに多く、最大の顧客接点と言えます。消費財企業にとって重要な D2C (Direct to Consumer) の販売チャンネルである自動販売機の技術は進化して多様化が進み、飲料にとどまらず、お菓子や冷凍食品、様々な商品が売られるようになっています。空き店舗や店舗の空きスペースでも自販機を活用できると考えられます。自販機は無人店舗のソリューションとして消費財メーカー、小売業の両方において、いろいろな場所で、いろいろなものを販売する試みがなされています。

そんな自販機を題材に、今回は、在庫や周囲環境の状況に合わせて販売価格を最適化する、ダイナミックプライシングのアイデアをデモ用自販機で実演しました。

前述のように最大の D2C チャネルでありながら、自販機は、小売店舗での販売よりも収益向上のための施策の実施が困難だと言われてきました。これは、価格が固定のためにキャンペーンなどによる収益向上が難しい、商品販売以外の新しいビジネスモデルが生まれない、補充するために長距離の訪問が必要となり、また訪問計画の最適化も難しいのでコスト負担になりがちといった要因が挙げられます。近年、センサーなどの技術進化とネットワークの充足により、自動販売機がオンライン化されつつあります。それによって例えばキャッシュレス決済や在庫のリアルタイム把握など、双方向通信などが実現されることによる、デジタルサイネージやロイヤルティプログラムの展開などのアイデアが生まれています。高度な在庫管理に基づいた訪問計画が実現できれば、在庫がもう 1 日は持ちそうな自販機に急いで補充に向かう必要がありません。デジタルサイネージによって広告という新たな収入源を増やすことができたり、自社製品の認知度向上につなげることができます。定価サブスクリプションや特価と連動するロイヤルティプログラムによって、お客様に「意識的に」「優先的に」自社の自販機を選んでもらうことができるようになります。

今回展示する自販機(メンバーお手製です!)には、気温、混雑状況、機内在庫、倉庫在庫の加重平均に基づき動的に販売価格を決定する、ダイナミックプライシングが実現されています。搭載したカメラで混雑状況を把握、内蔵センサーで機内在庫を管理、気温だけは Summit 会場という事情もありセンサー測定ではなく疑似値を利用していますが、リアルタイムデータを収集し、クラウド側で維持する倉庫在庫情報などと組み合わせることで価格を変動させます。ダイナミックプライシングにより、例えば、イベント会場には価格を上げてイベントのない日には安くする、寒い日には冷たい飲み物は価格を下げてみるといった販売戦略をとることで収益向上を図ることができます。

AWS の IoT サービスを駆使したこのようなダイナミックプライシングのアイデア、今回は「自販機」を接点チャネルとして採用しましたが、このデモで実現している「カメラの前の人通り」や「設置場所の温度」によって売値を変える、いわゆる「ダイナミックプライシング」のアイデアは、自販機に限定されるものではありません。店舗内で人の多い・少ないを判断して広告を出し分けるリテールメディアネットワーク、時間帯や温度で値引き品を変えたり特売の判断を行うなど、ベースとなる仕組みは同じです。

利用されている AWS サービスや詳細アーキテクチャは個別ブログ「【開催報告】 オンライン化によって進化する次世代自販機のご紹介」で解説しています。

4) お客様事例展示:サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社様

最後に、お客様事例のご紹介です。サントリーグローバルイノベーションセンター(以下、SIC)は、サントリーグループ様の基盤研究を担う会社です。サントリーグループ様は飲料食品だけでなくセサミンなどのウエルネス事業でもビジネスを展開されていますが、そこに AI や IoT といった先端テクノロジーを組み合わせたヘルステックの領域でも次々と新しい試みを進められています。テクノロジーによって目には見えない身体の状態が可視化さることで、人々がより健康的な生活を送るためのアドバイスなどが可能になり、それを通して行動変容が起こりやすくなります。そんな研究を進めている、SIC が開発した腸活サポートアプリ「腸 note」。今回の展示ブースでは、この腸 note アプリを展示いただきました。

腸 note アプリ画面イメージ(公式サイトより)

アプリをインストールしたスマホをおなかにあてるだけで腸の音を取得し、独自開発した AI がその音を解析して腸の健康状態を判断し、おすすめの腸活など健康管理についてのアドバイスを受けられるヘルスケアアプリです。サントリーグループ様は消費財メーカーとして必要とされる基幹システムの領域でも大規模に AWS を活用いただいていますが、この腸 note アプリのように、顧客と共に “研究” する新たなビジネスの創造にも力を入れられており、このような領域では新しいアーキテクチャを積極的に取り入れられていらっしゃいます。

腸 note アプリは AWS 上で稼働するサービスで、今回はそのアーキテクチャもご紹介いただきました。

腸 note アプリのアーキテクチャ図(SIC 様提供)

サーバーレスアプリケーションとなっていて、Amazon API GatewayAWS LambdaAmazon DynamoDB という鉄板と言える構成です。腸音を解析するモデル、この軽量モデルはコンテナで動作するのですが、このランタイムには Amazon Elastic Container Service (ECS) ではなく、AWS Lambda を利用されています(参考記事: 「コンテナランタイムとしての AWS Lambda」)。堅牢さや安定性を重視する基幹システムのアーキテクチャから、腸 note アプリケーションのようなモダンアーキテクチャまで、そしてそれらのアーキテクチャどうしを繋げるためのデータレイクもまた AWS のモダンデータアーキテクチャを採用と、サントリー様が AWS を「使いこなして」いらっしゃることの一端が垣間見られる展示になっていました。

私ももちろんアプリをインストールして腸活に勤しんでいます。今日の腸活レベルはランク A…。アドバイスに従ってランク S を目指します!

まとめ

このブログでは、AWS Summit Japan 2024 流通・小売・消費財業界ブースの展示内容をご紹介しました。ブース展示以外にも、Summit では、基調講演に加えて 2 日間で 150 を超えるセッションが行われました。次のブログではお客様セッションから 5 つ、AWS セッションから 1 つ、流通・小売・消費財業界向けのものをピックアップし、ダイジェストでご紹介する予定です。

流通・小売・消費財業界におけるテクノロジーによるイノベーションは急速に多様化しつつあります。新しい技術を次々と取り込まなくては行けないように思われるかもしれませんが、今回のデモではそれだけでなく、これまでに皆さまの中に蓄積されてきた知識と経験があればすぐに始めていただけるアイデアを考えました。AWS サービスを使えば簡単に実装、展開できる!と実感いただけたのではないでしょうか。ご参加いただけなかった皆さまでも「試してみたい!」と思われた方は、すぐに AWS アカウントチームにご相談ください。来年の Summit でまた、お会いしましょう。

今後も、流通・小売・消費財業界の皆さまに向けたイベントを企画し、情報発信を継続していきます。ブログやコンテンツも公開していきますのでご覧ください。

流通小売業界向け参考情報

[1] AWS ブログ ”流通小売” カテゴリー

[2] AWS ブログ “消費財” カテゴリー

[3] AWS 消費財・流通・小売業向け ソリューション紹介ページ


このブログは、ソリューションアーキテクト 杉中 が担当しました。