Amazon Web Services ブログ
AWS で実現するゲーム開発体験授業 – カプコンと近畿大学の産学連携
株式会社カプコンは、近畿大学の学生を対象に、AWS のクラウドサービスを活用したゲーム開発の体験型授業を提供します ( プレスリリース )。この授業ではカプコンの自社開発ゲームエンジン「RE ENGINE」を AWS 上で利用し、ゲームの企画から実装まで一連の開発工程を実践的に学びます。産学連携によるこの取り組みを通じて、教育機関の発展と優秀な人材の育成を支援し、ゲーム業界全体の活性化につなげることを目指しています。
この記事では AWS のクラウドサービスが、体験型授業をどの様に支えているかについてご説明します。
「RE ENGINE」とは
カプコンの自社開発ゲームエンジン「RE ENGINE」は、実写に匹敵するフォトリアルなグラフィックスを実現しながら、複雑な技術を開発者が簡単に扱えるよう工夫されています。これにより開発の効率化と品質の向上を両立し、世界で競争力のあるゲームタイトルの開発が可能となっています。常に進化を続けるこのエンジンは、カプコンの高品質なゲーム開発を支える中核的な存在です。
図 1: RE ENGINE ロゴ
図 2: RE ENGINE 画面
AWS の採用理由
ゲーム開発の体験学習には Unity など市販のゲームエンジンを使う事もありますが、今回の施策を開始する際、カプコンは「カプコンならではの授業はどの様な形が良いか」を考えました。その結果、普段自分達が実際の開発業務に利用し、常に改善を続けている「RE ENGINE」を授業に使うのが最良であると結論付けました。また実際のゲームに使われているアセットデータを利用し、ゲーム開発のプロフェッショナルと同じ開発工程を体験してもらおうと考えました。
しかし「RE ENGINE」は非公開のゲームエンジンであり、また実際のゲームに使用されているアセットを利用する為には、セキュリティや情報漏洩に細心の注意を払う必要がありました。そこでカプコンはクラウドサービスを利用する事で、安全にリモートアクセス可能で、更に参加者の PC スペックに依存せずに「RE ENGINE」を提供できる環境を構築する事にしました。カプコンでは以前から AWS を利用しており、AWS のクラウドサービスを用いてビルドプラットフォームを構築した経験 ( AWS Summit Tokyo 2023 セッション ) がありました。その際スケーリングやモニタリング、セキュリティの設定を柔軟に行えた実績があった事から、本件にも AWS が採用されました。
アーキテクチャ
体験型授業は以下のアーキテクチャで構成されています。
参加者は以下の手順で「RE ENGINE」を利用します。
- 参加者は自宅あるいは大学の教室から、 AWS Client VPN を利用してプライベートネットワークと安全な接続を確立します
- 次に管理用の Web ページから「RE ENGINE」をインストールした Amazon Elastic Compute Cloud ( Amazon EC2 ) を起動します
- EC2 が起動したら NICE DCV を使用して EC2 にリモートデスクトップ接続し、「RE ENGINE」を起動して学習を行います
- 使用するアセットは、同じプライベートネットワークで動かす Perforce サーバや FTP/SVN サーバから取得します
図 3: 体験型授業のアーキテクチャ図
以下で利用されている AWS サービスの詳細について説明します。
AWS Client VPN
参加者の PC からプライベートネットワークへの接続には AWS Client VPN を利用しています。これは AWS が提供するフルマネージドのリモートアクセス VPN ソリューションで、インターネット経由で企業の AWS リソースやアプリケーションに安全にリモートアクセスできます。接続数に応じて自動的にスケールアップ / スケールダウンする柔軟性も備えています。またアクセスログは AWS CloudWatch に記録され、外部からの不正アクセスを監視します。
Amazon EC2
実習用端末のインスタンスタイプは、「RE ENGINE」を動作させるのに必要な GPU を搭載した G4 インスタンスを使用しています。学習を快適に行える様配慮し、動作に十分なスペックを持つインスタンスサイズを指定しています。また多くのアセットデータを使用する為、ブロックストレージである Amazon Elastic Block Store ( Amazon EBS ) を 1TB 作業領域として追加しています。
アセットを保持するサーバには C5 インスタンスを使用しています。また高い性能を求められないサーバについてはより低コストな T3 インスタンスを使用しています。参加者の人数から同時接続数や負荷を想定し、コスト効率の良いインスタンスタイプ・インスタンスサイズを選定しています。
NICE DCV
リモートデスクトップ接続には AWS が提供するソリューションである NICE DCV を利用しています。グラフィックスを最適化する独自のストリーミングプロトコルを持っており、HPC シミュレーションの視覚化から低レイテンシーを必要とする 3D グラフィックスを多用するアプリケーションまで幅広い用途に使用可能です。通信は暗号化されており、ファイル転送やクリップボードの共有機能を無効化する事で安全性をより高める事も可能です。
AWS Lambda
EC2 の起動には AWS のサーバーレスコンピューティングサービスである AWS Lambda を利用しています。体験型授業の期間中は参加者が同じ EC2 インスタンスを継続して使用出来る様、管理端末から指定した EC2 インスタンスを起動する仕組みを構築しています。実行結果のログは AWS CloudWatch に記録されます。
セキュリティサービス
実習用端末と Client VPN のユーザ認証には AWS Managed Microsoft AD を利用しています。
Amazon GuardDuty で悪意のあるアクティビティや不正な動作を継続的に監視し、AWS Config や AWS CloudTrail を利用して AWS インフラに施された変更や API 呼び出し履歴も追跡します。これらの監視結果は AWS CloudWatch に集約され、プライベートネットワーク内のあらゆる挙動を可視化しています。
まとめ
カプコンと近畿大学の産学連携プロジェクトでは、AWS のクラウドサービスを活用することで、カプコン独自の「RE ENGINE」を用いたゲーム開発の体験型授業を実現しました。セキュリティを確保しつつ、スケーラブルで費用対効果の高いアーキテクチャを構築することで、優れた教育環境を提供できるようになりました。
今回の取り組みを通じて得られた知見を活かし、カプコンでは「RE ENGINE」を社内外問わず使える環境を目指しています。この産学連携はそのための第一歩となり、「RE ENGINE」の更なる発展と活用が期待されます。
AWS では多くのゲーム会社様が AWS のクラウドサービスを使ってゲームを開発・運用するための技術支援をしています。またこのブログを始め、CEDEC や GDC などのゲーム業界イベントや AWS 主催のイベント ( Game Tech Night ) などでゲーム会社様向けの情報を発信しています。私たちの活動がゲーム業界の発展に貢献できる様、今後も技術とビジネスの両面から全力でお客様をサポートしていく所存です。