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e コマースと店舗を繋ぐーImmersive Commerce とその店舗への拡張

顧客にとって、買う前に試すことができるということは重要です。e コマース(以下 EC)と店舗のどちらにおいても、顧客の購入を後押しするためには、商品について十分な情報を提供する必要があります。その手段として近年注目されている技術の一つが、VR/AR/3D をはじめとする Spatial Computing 技術です。特にオンラインショッピングにおける Spatial Computing 技術の活用は Immersive Commerce とも呼ばれ、Amazon.com をはじめとした EC サイトで実装されています。この記事では、このような EC サイト上での 3D モデルによる購入前体験によって得られるビジネス上のメリットに加えて、ホログラフィックディスプレイのような物理デバイスを利用して、このメリットを店舗に拡張する方法をご提案します。

購入前体験における課題

顧客は、自分が今まで買ったことのない商品を購入するにあたり、その商品について十分な情報を得たいと考えています。流通・小売業界では、店舗で実物に触れるようにすることはもちろん、EC サイト上で写真やテキストでの商品説明、他の顧客による商品レビューを掲載することで顧客に商品の情報を伝えています。しかし、すべての商品タイプでこのような従来の手法による情報提供が十分だとは言えないでしょう。たとえば高額商品では店舗に実物を展示することで盗難等のリスクが懸念される場合がありますし、装飾品など繊細なデザインに価値がある商品の場合は EC 上の写真では詳細まで伝えきれないことがあります。もし受注生産でカスタマイズができる場合、カスタマイズの結果生まれる無数のパターンの在庫を店舗で保持することは在庫管理コストを考えると現実的ではありません。

EC における 3D モデルの活用

そのため、近年の EC サイトでは 3D 技術を活用して、商品を 360 度から詳細に確認することができる機能が取り入れられています。特に Amazon.com では Web AR 技術を活用して、Virtual Try-On として靴とアイウェア(眼鏡やサングラス)をカメラを通してバーチャルに試着する機能が利用できます。このような Immersive Commerce によるオンラインショッピングの体験向上は、EC サイトで先行して発展してきました。

https://www.amazon.com/b?node=23595320011

デジタルディスプレイを活用した店舗流入と Proto Hologram

スマートフォンや PC 等の端末で体験から購入までを完結できることは顧客体験の観点でとても良いことです。これに加えて、顧客が店舗に足を運ぶ機会を増やすことができればさらなる展開が見込めます。例えば店員の接客を通して、もともと購入しようとしていた商品との組み合わせで他の商品も併せて購入することもありますし、店舗における展示が新たな購買のきっかけとなることもあるでしょう。そこで、前述の 3D による商品情報の提供を店舗にも拡張することを考えてみます。

3D による商品情報の提供を行うためには店舗に物理的なデバイスを設置する必要がありますが、もしそのデバイスが一般的なディスプレイよりも 3D 展示に特化し、より実物らしい印象を与えることができれば購買促進の効果は高いです。EC を家庭用のデバイスで見ても十分な情報が得られないときに、専用のデバイスでデジタルに商品詳細を確認できることにより店舗への来店を促すことができます。このような用途に使えるデバイスとしては、頭に被るタイプのデバイス(ヘッドマウントディスプレイ)のほか、ホログラフィックディスプレイなどの立体表示効果をもつ平面ディスプレイがあります。

AWS パートナー Proto Hologram はホログラフィックディスプレイを提供する企業の一つです。OBJ フォーマットなどの 3D ファイルを表示することができるだけでなく、2D のビデオファイルもディスプレイのホログラフィック効果(これをProto は Holoportl 効果と呼んでいます)により立体的に表示されます。ゴーグルやヘッドマウンドディスプレイと異なりデバイスを頭に被るなどの事前準備なしに手軽に、かつ複数の人に同じビジュアルを見せることができると言う特長は、流通・小売業界の店舗に訪れる顧客に対して店員が商品の説明をするというユースケースに合致します。また、商品の展示という用途に使う場合は、複数のデバイスに対して複数のコンテンツを配信する上での管理の簡単さが求められますが、Proto は Proto Cloud というポータルサイトを提供しており、保有する Proto デバイスを複数登録した上で、2D ビデオファイルや 3D モデルファイルの一覧を管理し、それぞれのデバイスにどのコンテンツを配信するかを一括で管理することができます。

流通・小売業界の顧客が新しく Proto のようなデバイスを利用して店舗体験の向上を始める際、コンテンツをどのように準備するかと言う点もポイントです。既存の商品の 3D モデルを準備するためには、複数の角度から商品の画像を撮影した写真を合成して3D モデルを作成するフォトグラメトリや、CAD データから 3D モデルへの変換、もしくは専門のベンダーに手動のモデル作成を依頼するなどの方法が考えられます。フォトグラメトリや CAD データからの変換ソフトウェアで作成を行う場合、自動化のパイプラインは AWS BatchAmazon Elastic Container Service(Amazon ECS)AWS Step Functions 等を用いてスケーラブルに実現することができます。また、AWS パートナー Hexa は AWS Marketplace 上で 3D コンテンツの作成サービスを提供しています。インタラクティブな体験を提供するアプリケーションとして、babylon.js 等の Web ベースの 3D エンジンを利用して 3D Web サイトを作成し、Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)でホストするという構成が可能です。

しかし、これらの 3D コンテンツ作成には少なからずコストがかかります。Proto では 2D ビデオを立体的に表示できるという機能によって導入の障壁が下がるため、手持ちの 2D ビデオによって試験的に導入を開始し来店顧客の体験向上の効果を確認した上で、3D モデルの作成やよりインタラクティブな体験、たとえばディスプレイをタッチしながら商品のカスタマイズを行う専用のアプリケーション開発への投資を行うという進め方も可能です。

ブランドのイメージを伝え、店舗内外の顧客の興味を引くためのコンテンツを用意する用途では、生成 AI を利用することもできます。AWS の生成 AI ソリューションである Amazon Bedrock を利用して Amazon Titan Image Generator モデルによって、ブランドのイメージを記載したテキストから画像を生成し、さらに Stability AI Developer Platform API を通して Stability AI’s Stable Video Diffusion を利用して画像から 2D ビデオを生成して Proto ディスプレイで立体的に再生する様子は AWS ブログ テキストからホログラムへーAWS の生成 AI とProto ホログラムで創造性を解き放つ(英語)をご覧ください。

AWS Summit Japan 2024 EXPO 流通・小売・消費財業界向けブースにおける展示内容の紹介

2024 年 6 月に幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2024 では、流通・小売・消費財業界向けブースにおいて上記のユースケースをイメージしていただくためのデモを展示しました。
会場では aws-samples として GitHub で公開されている EC サイトのリファレンス実装であるリテールデモストアをベースにした EC サイトの上で、受注生産のジュエリーが出品されている例を示しました。今回、ジュエリーは店舗に置く上でセキュリティ上の懸念がある高額商品であり、かつ全パターンの組み合わせを在庫として店舗に保持することが難しいカスタマイズ品の例として取り上げました。

そして、ECサイトで興味を持った顧客がより実物に近いものを購入前に確認するために来店した際にお見せする例として、前述の AWS パートナー Proto 社によるホログラフィックディスプレイの卓上モデル Proto M を用いて、EC サイトの上で出品されているものと同じジュエリーの高解像度 3D モデルを展示しました。タッチディスプレイによって自由に拡大・回転ができ、EC サイトでは見ることができなかったジュエリーの裏側の意匠や細部の質感を確認することができます。また、Proto M のWebブラウザ機能を利用して 3D Web サイト経由での表示を行うことで、ジュエリーのカスタマイズ、今回は例として指輪の宝石の種類を変更することができるようになっており、カスタマイズ商品において全パターンを在庫として店舗で確保するというコストをかけずに顧客に十分な情報を提供することができます。

3D Web サイトは今回 Amazon S3 の静的 Web サイトホスティング機能を利用して実現しました。Web ベースで 3D モデルをレンダリングすることができるライブラリ babylon.js を用いて、React で作成した Web サイトで 3D モデルを表示しています。ジュエリーの宝石の色を変更するといった 3D モデルの制御についても React で実現しています。

まとめ

本記事では、流通・小売業界における顧客体験の向上の手段としての Spatial Computing 技術に焦点を当て、一例として EC における 3D モデルの活用、さらにホログラフィックディスプレイを利用して EC 上の 3D 体験を店舗に拡張するユースケースをご紹介しました。

AWS は、流通・小売業界における Spatial Computing 技術の活用について、ユースケースの特定から実装サポートまで一貫したご支援を提供しています。今回 AWS Summit Japan 2024 で展示した AWS パートナーの Proto など、AWS における Spatial Computing 技術のエコシステムも活用してぜひ貴社の顧客体験の向上を実現してください。

このブログをご覧になってもう少し内容を詳しく聞きたいというお客様がいらっしゃいましたら、AWS 担当営業もしくはこちらの窓口までご連絡ください。

以下本記事に関連するブログをご紹介いたします。ご興味ありましたらこちらもぜひ併せてご覧ください。
地球環境を救う:Hexa on AWS による大規模な没入型店舗体験の実現
没入型テクノロジーが小売業界にもたらす変革

著者について


阿南 麻里子は、アマゾンウェブサービスのソリューションアーキテクトです。エンタープライズの流通・小売・消費財業界のお客様を支援しています。また、技術領域としては AR/VR/3D 等の Spatial Computing 領域を担当し、Immersive Commerce や店舗における Spatial Computing 技術を活用した顧客体験向上を日本の流通・小売・消費財業界のお客様に実現していただくための活動をしています。