Amazon Web Services ブログ

デジタルトランスフォーメーション:なぜ、誰が、どの様にそして何を – パート4「何を」

パート3 のブログ記事「どの様に」では、変革プロセスのベストプラクティスを取り上げ、効果的な変革をもたらすための、デジタルトランスフォーメーションプロセスフレームワークの活用方法について説明しました。今回は、デジタルトランスフォーメーションを実現するためのテクノロジーについて、より深く掘り下げて解説します。

現代のテクノロジー要件

IT のコンシューマライゼーションとユビキタス化により、顧客と社員の期待が高まっていることが、ビジネストランスフォーメーションの原動力となっています。Uber、Grubhub、Pinterest、Amazon などから提供されているアプリケーションに見られるようなシームレスな機能が期待されています。ビジネスは、より柔軟で、データドリブンで、持ち運び可能で、ソーシャルで、自動化されたものにならなければなりません。これらの変化により、企業は自社のツール、テクノロジー、プロセスを再評価し、既存のプロセス、製品、ソリューションを再構築し、競争力を維持することが求められています。

このような現代のデジタル化されたビジネス環境を支えているのが、新しい高度なテクノロジーです。クラウド、人工知能と機械学習(AI/ML)、モノのインターネット(IoT)、予測分析、データレイク、拡張現実、仮想現実、複合現実(AR/VR/MR) などが連携して、新たなビジネス成果をサポートするのです。

ここで強調したいのは、デジタルトランスフォーメーションとは、テクノロジーだけではなく、組織の文化や考え方のパラダイムシフトであるということです。テクノロジーは重要ですが、あくまで新しい目的を達成するためのツールであり、目的そのものではありません。

なぜ今、デジタルトランスフォーメーションが可能なのか?

なぜ今、デジタルトランスフォーメーションが説得力を持つようにになったのか、多くの人が疑問に思っていることでしょう。確かに、今使っているテクノロジーの多くは、何年も前に、中には20 から30 年前に開発され、導入されたものです。しかし、3 つの要因が同時に作用して、このようなことが可能になったのです。

  • コンピューティングパワーの継続的な成長
  • 上記に伴う接続性の向上とユビキタス化
  • 複数のソースからの豊富なデータ

1975 年に発表されたムーアの法則によると、コンピューティングパワーは2 年ごとに2 倍になり、コンピューティングパワーのコストは2 年ごとに半分になると言われています。この指数関数的な成長により、2015 年までにコンピュータの処理能力は1975 年の106 倍になりました。この成長により、アナリティクスやAI/ML など、膨大なデータ量を処理するために膨大なパワーを必要とするデジタルトランスフォーメーションテクノロジーが可能になったのです。

ムーアの法則と同様に、1998 年に発表されたインターネット帯域幅のニールセンの法則は、ネットワークの帯域幅とユビキタス性の大規模な成長を示しています。1983 年から2015 年にかけて、帯域幅は106 倍になり、産業機械に組み込まれた最小デバイスや個人のフィットネスデバイスがほぼリアルタイムで通信できるようになったのです。この増加により、大規模なデータの共有が可能になりました。

インターネットのユビキタスな接続性と発展は、膨大なデータを生み出し、同時に、数学の進歩は複雑なデータのパターンを特定しました。ビジネスでは、行動データ、社内システムデータ、センサーからのデータ、アプリケーションのユーザーから得られるいわゆる「デジタル排出データ」、位置情報、ソーシャルメディアデータなどを利用できるようになったのです。このようなデータは、何千ものソースから放出され、データの生成速度、量、種類はますます増えています。データの作成と消費は、2010 年から2020 年の間に5000% 増加し、2025 年にはさらに2 倍以上の180 ゼタバイトになると予想されています。クラウドは、膨大なストレージを継続的に低コストで提供し、データを迅速に収集、移動、処理するための基盤としての役割を果たすことで、加速度的に成長してきました。

デジタルトランスフォーメーションの動力であるクラウド

クラウドコンピューティングは、コンピュータとデータストレージの成長と可用性を促進しただけでなく、イノベーション、スピード、アジリティを促進する新しい重要な機能を実現しました。以前は、多くの取り組みが行き詰まり、数百万ドル規模の大規模なプログラムは再検討され、取り組むにはリスクが高すぎる、または費用がかかりすぎるというレッテルが貼られました。新しいアイデアも、ハードウェアの設計、調達、セットアップ、テストを待つ間に、数ヶ月が経過し、実を結ばない結果に終わりました。

クラウドは、このモデルを3 つの重要な方法で変えました。

迅速な実験

クラウドコンピューティングは、コンピュータリソースを使用したときに、使用量に応じた料金を支払うだけです。この従量課金モデルにより、大規模な複雑なプロジェクトにおいて、見積もりや正当化の根拠を欠いた状態で実験を行うことができます。この投資のステージングにより、少ないコストでより多くのアイデアを試すことができ、失敗した場合は簡単に取り除くことができ、うまくいった場合は急速にスケールアップすることができます。このモデルでは、クラウド上での実験は、実験環境を構築するための時間とコストが低く、失敗した場合には環境を戻して新たな実験を開始することが容易であるため、「寛容」であると言えます。かつて、トーマス・エジソンはこう言いました。「ネガティブな結果こそ、私が望むものだ。ネガティブな結果も、ポジティブな結果と同じように、私にとっては価値がある。失敗がなければ、何が最善なものかを見つけることはできないだろう」。

クラウドコンピューティングが変えたソフトウェアの構築スタイル

かつては専門チームが互いに緊密に協力し、インフラストラクチャの購入とインストールに長い待ち時間を要し、それなりの費用とリスクを伴うものでしたが、今では規模や予算に関わらず、あらゆる企業が利用できるようになりました。クラウドでは、AI/ML 、IoT 、データレイク、アナリティクス、AR/VR/MR 、ソーシャルメディアツール、ハイパフォーマンスコンピューティングなど、数多くの高度な新機能を含む一連の事前構築済みサービスにアクセスすることができます。これらの新しいオンデマンドリソースは、実験と開発にかかるコストと時間が大幅に削減されるため、開発サイクルを短縮し、アジリティを劇的に向上させます。

デジタルトランスフォーメーションを実現するための新しいビジネス機能を一旦構築したら、クラウドの弾力性を利用して、ビジネスのニーズに応じて簡単にスケールアップもしくはスケールダウンすることができます。これは、オンプレミス環境では実現できません。

データセンターではなく、顧客にフォーカス

クラウドコンピューティングでは、サーバーのラッキング、スタッキング、電源配線といった重労働に時間とお金を費やすのではなく、お客様のためにビジネスの差別化するプロジェクトに集中することができます。

戦略から実行まで

デジタルトランスフォーメーションは、どこから、どのように始めればよいのでしょうか。ここでは、デジタルトランスフォーメーションを始めるにあたって、いくつかの実践的なアドバイスを紹介します。

  1. パート1 のブログで述べたように、「なぜ」から始めましょう。あなたが向き合っているビジネスニーズを明確に理解していることを確認します。私たちは、ビジネスニーズを1 文で表現できるようになるまで、掘り下げていくようお客様にアドバイスしています。もし、1 文以上の文章が必要であれば、それは複雑すぎるか、規模が大きすぎる可能性があります。
  2. 「なぜ」が決まったら、それを測定可能なものに変えます。ビジネスにとって有意義な方法で解決する方法を決定することが、不可欠です。単にこれは、うまくいってることを示すのみならず、問題に取り組むチームが優先順位をつけて仕事を進め、成功への軌道に乗ったかどうかを判断するのに役立つからです。「私たちの目標は製造時のエラーを減らすことです」という代わりに、「私たちの目標は製造時のエラーを5 %減らすことです」と変えましょう。目標を明確で、成果として得られる、定量的なものにするのです。
  3. トランスフォーメーションは、オール・オア・ナッシングではありません。最初から組織全体を変える必要はありません。重要な分野を選び、まずはそこにソリューションを実行し、学んだことを組織内の新しい場所に広げていけばよいのです。
  4. パート2 のブログで紹介したように、「なぜ」に取り組むためにチームをどのように整備していくかを決めます。繰り返しになりますが、私たちは、Two-pizza (2 枚のピザを分け合える規模) チームを使うことをお勧めします。注力するチームを選ぶ際には、最もオープンなチームを探すようにしましょう。
  5. クラウドとデジタルトランスフォーメーションについては、学ぶべきことがたくさんあります。私たちの問題に取り組むための適切なサービス、ツール、アプローチを決定するための支援を必要とする組織がよく見受けられます。一人で抱え込まないでください。競合に対する差別化要素を外部委託してしまうことに注意する必要がありますが、取り組む分野で経験のあるパートナーを採用して、スタートの体制を組むことは望ましいといえるでしょう。AWS プロフェッショナルサービスに加え、AWS には幅広いパートナーネットワークがあり、スタートを支援します。ぜひ活用しましょう。
  6. では、シンプルに始めましょう。何かを実装し、それが価値をもたらしているか、特定した問題を解決しているかを観察、測定し、より価値を高めるために改良を繰り返します。うまくいった場合は、その使用法を拡大、改良してスケールアップし、うまくいかなかった場合は、クラウドの利点を活用して、ソリューションをスケールダウンします。

この4 回のブログ記事シリーズでは、組織、プロセス、テクノロジーの観点からデジタルトランスフォーメーションについて説明してきました。そして、ハイレベルなフレームワークと実践的なアドバイスという形で、お客様がこれを活用し前に進むために、試行錯誤することを推奨してきました。このアドバイスは組織にとって良い出発点ですが、あくまで出発点にすぎません。提案されたフレームワークの概念に従いつつ、組織のニーズに合わせてカスタマイズしてください。最後に、クラウドのパワーとそれが生み出す新しいパラダイムを、デジタルトランスフォーメーションのためのイネーブラーとして、また先進技術を活用する手段として、効果的に利用していきましょう。

これはあなたが取り組みたいことでしょうか。そうでない場合、企業がなにをすべきかがまだ不明確ということでしょう。

Tom Godden

Tom Godden

Tom Godden は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のエンタープライズストラテジスト兼エバンジェリストです。AWS 以前は、Foundation Medicine の最高情報責任者として、FDA が規制する、がんゲノム診断、研究、患者予後プラットフォームを構築し、予後の改善と次世代精密医療への情報提供を支援しました。それ以前は、オランダのアルフェン アーン デン レインにある Wolters Kluwer で複数の上級技術責任者を務め、ヘルスケアおよびライフサイエンス業界において17年以上の経験を有しています。Tom はアリゾナ州立大学で学士号を取得しています。

Gene Shadrin

Gene Shadrin

Gene Shadrinは、アマゾン ウェブ サービス (AWS) の ソリューションアーキテクチャーのシニアマネージャーです。AWS 以前は、American Honda の CTO 兼 Director of Archtecture として、ローカル/リージョン/グローバルレベルで技術革新プログラムを確立し、エンタープライズアーキテクチャーを実践し、ビジネス成果の向上と技術的負債の軽減のために新しいデジタルビジネス機会を実現することに貢献しました。自動車、ソフトウェア、小売業界において20年以上の経験を持っています。

この記事は、ソリューションアーキテクトの平岩梨果が翻訳を担当しました。原文はこちらです。