Amazon Web Services ブログ

流通・小売・消費財企業のイノベーションを生成 AI で促進する

生成 AI が流通・小売・消費財業界にもたらす年間付加価値は 4,000 〜 6,600 億 USD と試算されています。多くの企業が生成 AI の導入を開始し、イノベーションや生産性向上を目指しています。2024 年には、マーケティング、カスタマーサービス、サプライチェーンなどの分野で AI ツールへの投資が検討されています。Amazon Web Services(AWS)は 25 年の経験を基に、エンタープライズグレードの生成 AI アプリケーションとインフラストラクチャを提供し、専門企業と提携して業界向けの AI ソリューションを展開しています。この e-book では、関連性の高いユースケースと導入のステップを紹介しています。本ブログはその概要と具体的なユースケースと関連する技術のハイライトを解説するものです。

生成 AI の導入を始めるには

AWS は生成 AI を広く利用可能にし、流通・小売・消費財企業の変革を支援しています。生成 AI の効果的な導入には適切な戦略が必要で、以下の手順が推奨されます:

  1. 明確な目標を設定する
  2. 具体的で現実的なユースケースを特定する
  3. 最適な基盤モデル(FM)を選択する
  4. AWS のエキスパートやツールを活用する

これらのステップを通じて、組織は生成 AI の導入を円滑に進め、イノベーションを促進できます。AWS は、AWS Learning Needs Analysis ツールや AWS Skill Builder コースといった学習ツールを提供しています。AWS または AWS パートナーは、お客様が実行可能なロードマップを作成するお手伝いもしています。

生成 AI の導入における課題を検証する

流通・小売・消費財業界で生成 AI の競争が始まっています。導入には指針が必要で、技術とその影響の両面を考慮し、選択基準や成功指標、プロジェクト計画に反映させることが重要です。

生成 AI の活用事例: 流通・小売・消費財業界のユースケース

AWS は小売業者と協働し、まず問題の最終的な解決策を構想し、そこを起点に逆算して考え、ビジネス目標を達成するために必要なタスクを特定します。この e-book では、さまざまなユースケースについて詳しく紹介しています。

ユースケース 1:消費者起点

生成 AI は、マーケティング、ショッピング、カスタマーサポートの各分野で顧客体験を向上させる強力なツールです。 マーケティングでは、消費者データの分析や、パーソナライズされたコンテンツ作成に活用できます。 ショッピングでは、AI スタイリストやバーチャル試着、ボイスコマースなどを通じて、最適な製品選びをサポートし、返品率の低減にも貢献します。 カスタマーサポートでは、AI チャットボットやエージェント支援システムにより、迅速な問題解決と顧客満足度の向上を実現します。 事例として、Amazon Rufus があります。これは生成 AI を活用した自然言語で対応の可能なショッピングアシスタントで、Amazon の豊富なデータを基に、商品に関する質問への回答や比較、提案などを行い、消費者のショッピング体験を効率化・最適化します。シーンや目的に応じた買い物や商品カテゴリの比較、最適なおすすめ商品を見つけたり、商品詳細ページにいながら特定の商品について質問することができます。例えば、「ドリップ式とプアオーバー式(いわゆるハンドドリップ式)のコーヒーメーカーを比較してほしい」とユーザーが入力すると、それぞれの長所などを回答します。ユーザーがさらに「洗いやすいのはどっち」と質問すると「一般的にはドリップ式のほうが簡易」などと答えます。

ユースケース 2:製品起点

生成 AI は消費財企業の製品開発と市場投入を革新しています。顧客センチメント分析から新製品アイデアの創出、プロトタイプ作成、パッケージデザイン、品質確認、価格設定まで、幅広い用途があります。The Very Group は、AWS の生成 AI イノベーションセンターと協力し、AWS の技術を活用して高い精度で製品説明を作成するシステムを構築したことで製品の市場投入の速度を向上させました。adidas は、大量の靴の画像データを用いて拡散アルゴリズムをトレーニングし、特定基準に基づく新しいランニングシューズデザインの生成を可能にしました。これにより、デザイナーは革新的なアイデアを得られ、創造性を高めることができます。 これらの事例は、生成 AI が製品開発プロセスを加速し、消費者ニーズへの対応を改善する可能性を示しています。

ユースケース 3:従業員起点

生成 AI は企業の日常業務を自動化し、効率性、従業員の定着率、品質を向上させることができます。特に、データレイクを持つ小売・消費財企業では、従業員への迅速な情報提供が可能になります。 従業員は自然言語でチャットボットに質問することで、在庫状況、機器の修理方法、過去の売上データなどの情報に簡単にアクセスできます。これにより、データに基づいたより良い意思決定が可能になります。また、生成ビジネスインテリジェンス(BI)を活用することで、実用的なインサイトやレポートの即時作成・共有も可能になります。
具体例として、adidas の事例が挙げられます。同社は新入エンジニアが仕事を円滑に進められるようにチャットボットアシスタントを開発し、AWS 関連の質問に迅速に回答できるようにしました。Amazon Titan Embeddings や Amazon Bedrock、 LangChain を使用してアシスタントを構築しました。 さらに、Amazon Q Developer を用いたパイロットプログラムも実施し、エンジニアのコーディング支援を提供しています。 adidas の Markus Rautert 氏は「Amazon Bedrock の導入により、インフラ管理の負担が軽減され、大規模言語モデルの開発プロジェクトの核心部分に集中できるようになりました。Amazon Bedrock を使用して、adidas のエンジニアは単一の会話型インターフェースを通じて、幅広い情報や回答を得ることができるようになりました」とコメントしています。

ユースケース 4:IT 起点

生成 AI は、プログラマーのコーディング効率を向上させます。大量のデータでトレーニングされた AI は、リアルタイムでコード案を生成し、複雑な作業を支援します。また、類似コードの検出や脆弱性のスキャン、修正提案も行い、開発プロセスを最適化します。

開始に適したツールとインフラストラクチャの選び方

目標を設定し、ユースケースを絞り込んだら、 次のことが可能になります。

  • 生成 AI を活用したアプリケーションでユー ザー体験を変革する
  • セキュアかつプライベートな生成 AI アプリケーションを簡単に構築してスケールする
  • 最も高性能で低コストな生成 AI 向けインフラストラクチャのメリットを享受する
  • データを差別化要因として活用する

1. 生成 AI を活用したアプリケーションでユーザーエクスペリエンスを変革する

AWS には生成 AI を組み込んだ様々なアプリケーションが用意されており、今も開発が続けられています。自社にとって実現したいことが、すでに用意されているアプリケーションで解決されるのであれば、これを活用することは一つの選択肢です。例えば主要サービスの一つである Amazon Q は、コード生成、テスト、デバッグ機能を備え、複数ステップの計画・推論機能により開発者の要求に応じたコード生成が可能です。また、企業データリポジトリに接続し、データの要約、分析、対話を行うことで、従業員がより簡単に業務関連の情報にアクセスできます。この Amazon Q を使用した製品について、この e-book で紹介されているので、ご参照ください。

2. セキュアかつプライベートな生成 AI アプリケーションを簡単に構築してスケールする

AWS は、あらゆる規模の組織や開発者が、生成 AI を組み込んだセキュアなアプリケーションを構築し、それをスケールさせるための環境を提供しています。主要なサービスである Amazon Bedrock を使うと、API を利用してさまざまな基盤モデルをアプリやシステムに組み込むことができます。モデルは複数の AI 企業から提供され、用途に合わせて簡単に切り替えられますし、自社のデータを用いたカスマイズやその評価、不適切な出力をフィルタする機能などが整っています。
実例として、OfferUp の CTO Melissa Binde 氏は、Amazon Bedrock が提供するモデルの一つである、Amazon Titan Multimodal Embeddings を活用したセマンティック検索機能の実験について言及しています。「この新しいマルチモーダルモデルにより、キーワード検索の関連性が大幅に向上しています。 この進歩により、ユーザーマッチングの成功が大幅に促進され、買い手と売り手の両方に利益がもたらされます。」

3. 最も高性能で低コストな生成 AI 向けインフラストラクチャのメリットを 享受する

AWS は、生成 AI を支える基盤モデル自体を自社で開発するのに最適なインフラストラクチャを提供しています。高性能の GPU ベース Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)インスタンスや、専用アクセラレーターの AWS TrainiumAWS Inferentia を用意しており、これらを用いることで高性能で低コストな生成 AI 環境を作れます。

Databricks の事例では、AWS Trainium を使用して Mosaic MPT モデルのトレーニングを行い、高性能かつ低コストでスケーラブルな環境を実現しています。また、Trainium2 の導入により、モデル構築の高速化と規模を拡大し、顧客が生成 AI アプリケーションの市場投入を加速させています。

4. データを差別化要因として活用する

生成 AI アプリケーションは大規模言語モデルだけで成立するわけではありません。自社で蓄えたデータを組み合わせて最適化することが必要になります。他社との差別化のために組織のデータを資産として活用します。そのためにはデータを蓄えるストレージやデータレイク、自社の様々なデータを統合するためのツールが必要です。そしてデータは資産であるため、セキュリティやガバナンスを確保することも重要です。AWS にはこれらのためのサービスが揃っています。

AWS パートナーとともに 生成 AI を活用する

AWS の小売・消費財コンピテンシーパートナーは、生成 AI の実装を支援し、生産性向上、差別化された顧客体験の構築、イノベーションの加速を促進します。これらのパートナーは、製品開発、製造、サプライチェーン、ユニファイドコマースなど、多様な分野で AI を活用したビジネス価値創出を支援します。 効果的な導入のために、重要なユースケースの優先的な取り組み、ビジネスチームとテクノロジーチームの連携、AWS ワークショップの活用、PoC の実施、開発者のトレーニングが推奨されます。既に PoC を開始している場合は、ビジネス価値と ROI の測定、長期的な最適化計画、適切なインフラ導入、責任あるテクノロジー使用のためのコンプライアンスとガバナンスの確立が重要です。

まとめ

流通・小売業界、消費財業界のビジネスを成長させる方法については、 AWS にお問い合わせください。

また、AWS のパートナーは以下から探すことができます。

この e-book では AWS で生成 AI の導入を開始し、 変革とモダナイゼーションを加速する方法があることをご紹介しました。ぜひ、その他の e-book もご覧ください。

本ブログはソリューションアーキテクトの松本が執筆しました。