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不朽のレースペース:IMSA が GTP テレメトリをリアルタイムでファンに配信する方法
この投稿は、IMSA (International Motor Sports Association) のシステムテクノロジーシニアディレクターである David McSpadden と共同で執筆されました。
はじめに
モータースポーツの世界では、トラック上での車のスピードに合わせてデータも追従する必要があります。IMSA (国際モータースポーツ協会) は、AWS と協力してファンにリアルタイムで車両テレメトリを提供しました。
北米で最高の権威をもつスポーツカーレース団体である IMSA のレースは、4 つの車両クラスが同時にコース走行するという独自の特徴があります。フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなど多くのメーカーが並走し、最長で 24 時間に及ぶレースで競います。Grand Touring Daytona (GTD) および GTD PRO クラスは一般道を走る車両が選ばれますが、Le Mans Prototype 2 (LMP2) と Grand Touring Prototype (GTP) クラスは最高速度を実現するためのハイパーカーデザインが採用されています。本記事では新たに設けられた GTP クラスの車両、テレメトリ、そして IMSA や AWS がリアルタイムデータを配信する仕組みについて説明します。
GTP クラスの車両 – 自動車の限界を押し広げる
GTP クラスの車両は 2023 年に IMSA に導入されました (図 1)。最新のクラスで、ハイブリッドパワートレインを特徴としています。これは従来型の内燃機関 (ICE) と電気モーターとバッテリーの組み合わせです。GTP クラスの車両はグリッド上で最速で、ピットではエンジンの音はなく電気モーターで無音で発進し、ピットロードを進んだ先で内燃機関がバンプスタートし轟音を上げます。この電気駆動からガソリンエンジン始動への移行が、レースファンにとって独特で満足感のある音の調べを生み出します。
毎シーズン、WeatherTech スポーツカー選手権は、最大レースのひとつであるロレックス 24 時間デイトナレース (24 時間のマルチクラスレース) (図 2) から始まります。このロレックス 24 時間レースはマシンとチームの耐久性を試し、限界に挑みます。GTP クラスのハイブリッドシステムの導入により、新しい戦略的課題が生じ、生データへのより速いアクセスが必要となりました。そうです、トラック上の車の速さがが目を引くかもしれませんが、その車から送られるデータの方がさらに速いのです。
ソリューションの概要
テレメトリデータの取得の第一歩は、ソースからです。GTP クラスの車両には 180 を超えるセンサーが装備されており、車両のパフォーマンスのあらゆる側面をカバーするデータを収集しています。これには、エンジン回転数、ハイブリッド車の残り電力、車速、トランスミッションギアなどの指標が含まれます。このデータは、4G LTE 無線モデムを使ってリアルタイムで Amazon Kinesis Data Streams に送信されます (図 3)。
Kinesis Data Streams は、高可用性でフルマネージドの、データ量に応じてスケーリングするサーバーレスのストリーミングデータサービスです。
この場合、データプロデューサーである GTP クラス車両からのデータ量にも対応できます。車両からのテレメトリデータは AWS Fargate 上で実行されるアプリケーションによって Data Stream から取り出されます。Fargate はサーバーレスコンピューティングエンジンで、コンテナイメージをコンピューティングインフラストラクチャを管理する必要なく、スケーリング可能です。
この構成では、Fargate がインバウンドのデータレコードを解析、処理、および補強するためのアプリケーションロジックを提供します。結果として得られるのは、テレメトリデータだけでなく、タイミング、スコア、エントリデータを含む、単一の使いやすいデータストリームです。この処理が完了すると、AWS AppSync を利用して、データストリームをすべてのコンシューマに向けてファンアウトします。
AWS AppSync は、サーバーレスの GraphQL と Pub/Sub API で、アプリケーションはリアルタイムでデータを照会、更新、発行できます。AWS AppSync は、以前にテレメトリデータを補強した Fargate アプリケーションから更新を受け取ります。加えて、AWS AppSync は、車/レースの過去のメトリクスをいくつか Amazon DynamoDB テーブルに保存します。DynamoDB テーブルには、各周回のリーダーボードのポイントインタイムスナップショットなど、過去のチェックポイントが保管されています。これはライブダッシュボードを補完します。
最後に、Angular アプリケーションは AWS AppSync からアップデートを購読し、ファンがサーキットからでも世界中のどこからでも、リアルタイムでデータを閲覧できるようにします。このウェブページとコードは、Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) バケットにホスティングされ、Amazon CloudFront でフロントエンドが構成されています。これにより、ダッシュボードページを堅牢で高い可用性を持った静的ウェブホスティングで提供でき、アプリの利用者を数万人単位までスケールすることができます。さらに、Amazon CloudFront がユーザからアプリケーションバックエンドまでの全体的な地理的パスを短縮することで、ライブダッシュボードの待ち時間を削減します。静的サイトが CloudFront ディストリビューションを通して提供されるだけでなく、AWS AppSync API も別の管理された CloudFront ディストリビューションを通して提供され同じ利点を活用します。
車からファンへのデータの流れ全体は 1 秒以内で完了します。ロレックス 24 時間レースでは、650 万件のメッセージが正常に処理され、配信されました。その結果、車のパフォーマンスを把握でき、またファンとのエンゲージメントを深めることができました。
図 4 はデイトナ国際スピードウェイでモバイル端末に表示されているダッシュボードの実際の様子です。LTE 接続を介して、1秒未満のレイテンシーでファンにリアルタイムの車両テレメトリデータが提供されていました。これにより、レースに非常に没入できるファン体験が提供されました。サイドラインに立つファンは、アプリを使ってリアルタイムでピットストップを監視し、エネルギーの補給状況、タイヤ交換の指示、車両のジャッキアップ状況を確認できました。
会場外の観客は、IMSA.com を訪れると同様の画面を見ることができました (図 5)。今年の ロレックス 24 時間レースでは、このダッシュボードに対する反応は非常に良好でした。レース開始直後にこのアプリケーションが一般に公開されると、数時間のうちにテレメトリダッシュボードには 11,500 人のユニークユーザーから 28,000 件を超えるページビューがありました。レース中に 106 カ国からユーザーがデータを確認したことで、IMSA の国際的な広がりを裏付けることができました。
テレメトリダッシュボードはテレビやラジオの放送室でも大好評でした。リリース直後から、放送スタッフがテレメトリのストリームを分析し、実況に取り入れ始めました。
このようにリアルタイムでデータを利用できると、世界中のレーシングファンに対してより詳しい状況説明ができ、すでにスリリングなストーリーラインに一層の彩りを添えることができます。ロレックス 24 時間レースでデビューして以来、IMSA のレース中継に定着しています。
今後の展望
IMSA と AWS がともに取り組んだ結果、構想から実現まで 4 か月足らずで完了しました。これにより、AWS サービスと既存のワークフローがお互いにいかに簡単に補完し合えるかが証明されました。AWS AppSync と Kinesis Data Streams を活用したこのようなアーキテクチャは、他のスポーツリーグでも簡単に取り入れられ、チームとファンにできるだけ早くデータを届けられるようになるでしょう。2024 年シーズンが進むにつれて、このソリューションのさらなる更新とアップグレードが予想されます。追加のデータソースからの情報や、サステナビリティに関するより深い分析が期待できます。お楽しみに!
本記事は「Enduring Race Pace: How IMSA delivers real-time GTP telemetry to the fans」を翻訳したものです。