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AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights を活用したサプライチェーンの俊敏性向上

はじめに

サプライチェーンの俊敏性は、組織が競争力を維持するために不可欠です。消費者の需要、新しい技術、経済の状況によって、需要と供給のバランスが崩れる可能性があります。需要計画、つまり顧客需要を満たすために必要な製品、原材料、部品の数量を正確に見積もることは、サプライチェーンの主要な課題の 1 つです。効果的な需要計画を立てることで、組織が在庫切れを回避し、過剰在庫を最小限に抑え、リソースの活用を最適化するのに役立ちます。この課題は幅広い業界に影響します。医療分野では、クリニック、病院、医療流通網全体にわたる分断されたデータと制限された可視性により、消費量と在庫レベルを正確に把握することが問題となっています。これにより、倉庫スペースへの過剰な投資や、在庫管理の不備による回収対象商品や期限切れ製品を使用してしまうなどのコストがかかる可能性があります。小売業界でも、動的な消費者行動と需要のシフトに対する準備不足もあり、実際の顧客需要の規格化されたエンドツーエンドの可視性を実現し、適切な製品在庫を適切な場所に配置することが困難です。製造業や自動車産業では、さまざまなパートナーが運営する多様ななシステムにまたがった部品・完成品のグローバルサプライチェーンネットワークにより、時間の遅れ、データの断片化、データ形式の不一致が生じます。これにより、正確な在庫の見通しが曖昧になり、最適な在庫レベルと配置を決定することが非常に困難になります。その影響は深刻で、出荷の遅れ、部品不足、輸送の混乱が損失を発生させ、混乱を引き起こす可能性があります。

ある医療技術企業は、供給計画で使用されていた不正確な契約ベンダーのリードタイムデータが在庫水準、供給計画の精度、および顧客注文の充足率に悪影響を及ぼすという事業上の課題に直面していました。ベンダーのリードタイム検出を改善するための社内イニシアチブが進行中でしたが、これらの手作業の取り組みには多大な時間と投資が必要で検証されていませんでした。AI 活用のビジネス戦略に沿って、同社は AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights を導入しました。これにより、機械学習 (ML) モデルを活用して、運用に影響を与えるベンダーのリードタイム問題を特定する検証済みで実証された迅速なソリューションが提供されました。

この企業は、サプライチェーン運営の可視性を向上させるために、AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights を選択しました。明確な ML ベースの洞察により、最も問題のあるベンダーが明らかにされ、供給計画の改善に向けた集中的な対策が可能になりました。調達した製品の平均で、契約上の予定リードタイムを大幅に超過し、予定よりも遅れて納品されていることが判明しました。この貴重な洞察により、企業は契約リードタイムを大幅に超過したケースの大部分を占めるベンダーを特定することができました。このデータ主導のインテリジェンスを活用し、この企業は計画システムのマスターデータの更新や、より大きな影響力をもってベンダーと交渉するなど、対象を絞った対策を講じることができます。

この企業は、供給計画プロセスのための正確で最新の情報を維持するため、最新の取引データを四半期ごとに追加して、Vendor Lead Time Insights を継続的に更新します。さらに、同社は自社内のリードタイムにも同様の可視性を提供するために AWS Supply Chain の拡張を検討しており、これによりサプライチェーンの回復力がさらに強化されます。

このブログ記事では、AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights がベンダーのリードタイムの可視性を向上させ、供給計画の精度を高め、サプライチェーン運用を合理化する方法について説明しています。また、Vendor Lead Time Insights の概要を簡単に紹介し、この機能が在庫管理の最適化と顧客満足度の向上につながる役割を果たすことを明らかにしています。

Vendor Lead Time Insights を活用した供給計画の改善

AWS Supply Chain は、サプライチェーン全体でのリードタイム変動を検出することで、計画の精度を向上させるクラウドベースのアプリケーションです。これにより企業は顧客満足度を損なうことなく、より良いコスト管理戦略を実施できるようになります。AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights は、過去の受注データ、出荷、在庫移動、季節性パターンなどの関連要因を分析することで、実際のベンダーリードタイムに関する洞察をデータに基づいて作り出します。ML モデルはこのデータから継続的に学習し、予想リードタイムからの逸脱を検出し、特定のサイト、製品、輸送方法に合わせて契約書面上の大まかな見積りに頼らず、データに基づく最新の予測を提供します。

従来、プランナーは供給業者からの平均リードタイムと需要予測を使用して、必要在庫レベルを決定してきました。しかし、この方法では、輸送の遅延、港湾の混雑、または供給業者の活動停止による実際の変動を考慮できません。これを補うため、プランナーは多くの場合、任意の安全在庫バッファを追加しますが、これは企業に過剰在庫を抱えさせることになり、非効率的で費用がかかるアプローチとなっています。平均値に依存すると、リードタイムが予想より長くても短くても、正確な計画を立てることができません。ベンダーリードタイムインサイトの ML 対応機能により、企業の担当者は詳細な洞察を得て、的確な意思決定を行い、計画プロセスを改善できるようになります。例えば、過去のデータから特定の配送センターへの出荷で、ベンダーが常に見積もりより 5 日遅れて納品していることがわかれば、ML モデルはリードタイム見積もりを適宜調整することを推奨します。組織は、製品 – サイト – ロケーションの組み合わせすべてについて、ワンクリックでベンダーリードタイム推奨値を生成およびエクスポートできるため、データに基づいたサプライチェーン計画と実行が可能になります。

以前のブログをご覧いただき、AWS Supply Chain インスタンスの作成前提条件と初期設定手順についてご確認ください。また、モジュールの詳細な設定情報については、Insights のユーザガイドを参照してください。次のスクリーンショットは、Lead Time Insights のダッシュボードを示しており、ベンダーの輸送方法や発注元の位置など、重要な要因に着目して、製品のリードタイム逸脱をお知らせします。このアプリケーションでは、特定の洞察ウォッチリストで設定されたすべての製品 – サイト – ベンダーのリードタイム推奨事項を可視化し、エクスポート可能なファイルも提供されます。ダッシュボード上の任意の行を選択すると、詳細情報を確認できます。

vendor lead time recommendations dashboard

行をダブルクリックすると、部品やサプライヤーの購買発注納品実績の詳細が表示される画面に移動します。また、アプリケーションには、製品、サイト、ベンダーに合わせて、過去の実績に基づいて ML で生成されたリードタイム推奨値が提供されます。AWS Supply Chain の Lead Time Insights を使用すると、より正確にリードタイムの変動を検出できるようになります。 

PO performance dashboard

まとめ

今日の絶え間なく進化するビジネス環境において、効果的なサプライチェーン管理は重要な差別化要因となっています。企業は、急速に変化する消費者の需要、技術の進歩、経済の変動、そして激しい競争に適応しなければなりません。平均リードタイムに依存する従来の供給計画手法では、これらの動的な課題に対処することが困難です。しかし、機械学習 (ML) を供給計画プロセスに統合することで、運用効率を向上させる AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights の恩恵を受けることで企業はデータ主導の意思決定を可能になります。

前述の医療技術企業は、AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights から大きな成果を上げており、サプライヤーとの効果的な交渉と計画システムにおける正確なリードタイム データの実現に注力できました。また、以下の分野で継続的な改善が期待されています。

  • 在庫の最適化と運転資金の効率化: リードタイムの変動を正確に把握することで、在庫水準の改善と過剰在庫を削減し、運転資金を他の戦略的投資に振り向けることができます。
  • サプライヤーの契約遵守とパフォーマンス管理: データに基づくベンダーのリードタイム実績の分析により、遵守違反の問題を積極的に特定し対処することで、サプライヤーとの良好な関係と説明責任を育むことができます。
  • 計画の信頼性向上による顧客サービスレベルの向上: ML によるリードタイム予測の精度と信頼性が高まることで、顧客サービスレベルが向上します。

AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights は、供給計画に変革をもたらすアプローチです。強力な機械学習アルゴリズムを利用可能なデータに適用することで、組織がリードタイム平均に基づく計画に依存しないようにします。そして組織はリードタイム予測に関して、より正確なデータ主導のアプローチを採用できます。このアプローチは在庫水準を最適化し、可視性と説明可能性の向上を通じてベンダーとの強固な関係を育みます。組織は過剰在庫と関連コストを削減することで収益性を高めることができます。最終的に、AWS Supply Chain の Vendor Lead Time Insights によって可能になるサプライチェーン能力の向上は、顧客満足度の向上につながります。

AWS Supply Chain を始めるのは簡単で、前払いのライセンス料や長期契約は必要ありません。以下の 3 ステップで始められます。

  1. AWS Supply Chain について学ぶ: AWS Supply Chain のウェブサイトを訪れ、製品の機能と能力を理解する。
  2. 技術的な概要を知る: AWS Workshop Studio で自分のペースで進められる技術的なウォークスルーを探索する。インスタンスの作成、データの取り込み、ユーザーインターフェースの操作、インサイトの作成、需要計画の生成方法を学ぶ。
  3. AWS Supply Chain を使い始める: 準備ができたら、AWS Console にアクセスし、AWS Supply Chain の効率的でデータ主導の管理ツールを使って、サプライチェーンの運用を合理化する。詳細な設定手順と追加のガイダンスについては ユーザーガイドにアクセスしてください。

本ブログはソリューションアーキテクトの水野 貴博が翻訳しました。原文はこちら

著者について

Shree Vivek Selvaraj

Shree Vivek Selvaraj は、AWS Supply Chain のシニアスペシャリストソリューションアーキテクトです。彼の役割は、サプライチェーン幹部と技術アーキテクトと協力し、顧客の問題を理解し、意図したビジネス成果を達成するための適切なソリューションを提案することです。彼は、重工業、バイオ製薬、ハイテク、小売りEコマースなど、フォーチュン 500 企業の幅広い業界で、オペレーション、サプライチェーン、リーン & シックスシグマ、コア製品管理を通じて14年以上の業界経験を持っています。Shree はグレーターオースティンエリアに拠点を置いています。