Amazon Web Services ブログ
jinjer 株式会社様の AWS 生成 AI 活用事例 「人事系 SaaS における人事問い合わせ AI 機能の開発」
本ブログは jinjer 株式会社様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの呉です 。
昨今、多くのお客様から生成 AI の活用についてご相談いただくようになりました。本記事では、 Amazon Bedrock と Amazon Kendra を活用した、RAG (Retrieval Augmented Generation) の事例をご紹介します 。
RAG は、大規模言語モデル (LLM) の既に強力な機能を、モデルを再トレーニングすることなく、特定の分野や組織の内部ナレッジベースに拡張します。ビジネスで既に活用しているデータやドキュメントを活かし、回答精度の向上やハルシネーション(事実に基づかない回答)のリスクを軽減できる点から注目されています。(RAG の詳細はこちら)
この記事では jinjer 株式会社様がユーザーの体験向上に役立つ機能を 3 ヶ月という短い期間で開発された事例をご紹介いたします。
お客様の状況と検証に至る経緯
jinjer 株式会社は、人事労務・勤怠管理・給与計算・ワークフロー・経費精算など、人事関連業務の効率化を支援するクラウドサービス「ジンジャー」シリーズを SaaS 型で提供されています 。
カスタマーサクセス部門がジンジャーを利用する企業からヒアリングした結果、下記のような課題が見えてきました。
・従業員が人事制度を確認する際に、就業規則から該当する情報を探す手間がかかる
・見つからない場合、それを人事担当者への問い合わせすることになるが、このような対応に少なくない工数がかかっている
前述の課題を解決するための機能を提供することで、ジンジャーを利用するユーザー体験の向上に繋げられると考え、人事問い合わせ AI 機能の開発をスタートしました。
ソリューション/構成
人事問い合わせ AI 機能はインフラストラクチャの管理、運用負荷の少ないマネージドサービスで構成されています。
(出展: jinjer 株式会社)
同機能の流れは以下です。
1. ジンジャーを利用する企業の管理者はジンジャーアプリ上で就業規則等のデータをアップロードする
2. 従業員からの就業規則等に関する質問を入力として Amazon Kendra へセマンティック検索でクエリする
3. 2 で得られた就業規則ドキュメント群を元にプロンプトを生成する
4. 3 のプロンプトを利用して Bedrock で回答文を生成する
上述の 2 で、就業規則ドキュメントを検索する際、検索対象を以下の条件に絞り込む必要があります。
- ユーザーが属する企業のドキュメントのみ
- ユーザーが参照権限のあるドキュメントのみ
この要件を満たすために、Amazon Kendra の Custom Document Enrichement 機能 を活用します。具体的には、下記のようなメタデータに企業情報などを追加しておくことで、検索クエリーにメタデータの条件を指定して検索対象ドキュメントを絞り込むことができるようになります。
return {
"version" : "v0",
"s3ObjectKey": <str>,
"metadataUpdates": MetadataUpdates: [
{
"name": "COMPANY",
"value": {
"stringValue": "c1234567"
}
},
{
"name": "DEPARTMENT",
"value": {
"stringListValue": [
"department-1",
"department-2"
]
}
},
{
"name": "USER",
"value": {
"stringValue": "u9876543"
}
}
]
}
導入効果
人事問い合わせ AI 機能のリリース後、以下の効果が得られると考えています。
- AI を活用した人事業務の効率化により、従業員が自身で疑問を解決するための手間と、人事担当者が問い合わせに対応する手間を合わせて、80%の工数を削減見込み
- フルマネージドサービスの活用による保守運用負荷の軽減
なお、人事問い合わせ AI 機能の他にも、生成 AI のマルチモーダルを活用した新機能の開発も進められており、今後もユーザーの利便性向上のために生成 AI の活用の加速が見込まれます。
まとめ
今回は、人事 SaaS における各企業の就業規則やその他規程に関するデータを Amazon Bedrock と Amazon Kendra を活用して、SaaS 利用ユーザーの業務効率化を実現したお客様事例をご紹介いたしました。
本ソリューションは「社内のドキュメントを活用した人的コスト削減」という観点で同様な課題をお持ちのお客様に役立てていただけると思います。他にも、お客様からのお問い合わせ窓口、社内サポートデスクなどにご活用いただけます。ご関心のあるお客様は、ぜひ AWS までお問い合わせいただければと思います。
jinjer 株式会社 : 小原 拓実様(左から 2 番目)、安東 聡一郎様(右から 2 番目)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 稲葉 治樹(右端)、ソリューションアーキテクト 呉 敏禎(左端)
ソリューションアーキテクト 呉 敏禎 ( X – @kkam0907)