Amazon Web Services ブログ
サルソニード様の AWS 生成 AI 事例「Amazon Bedrock と Amazon Kendra の RAG 環境で法律関連オウンドメディア記事作成を効率化」のご紹介
本ブログは株式会社サルソニード様と Amazon Web Services Japan が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの小林大樹です。
昨今、生成 AI を活用して業務効率化を図るお客様が増えています。特に、大量のテキストデータを扱うマーケティング業務では、記事作成や校正、リライトなどのタスクを生成 AI に任せることで、人的リソースを削減し、本来のマーケティング活動に注力できるようになってきました。
今回は、Web マーケティングのワンストップソリューションを提供されている株式会社サルソニード様が、Amazon Bedrock と Amazon Kendra を活用して法律関連オウンドメディアの記事作成を効率化し、記事のリライト業務にかける時間を 70 % 削減された事例をご紹介します。
お客様の状況と検証に至る経緯
サルソニード様のマーケーターはマーケティング業務だけでなく、記事執筆業務や WEB サイト制作業務も一貫して担当しています。業務拡大にマーケティングチームの増員が追いつかず、マーケティングチームのリソース不足が続いていました。
そこで、生成 AI を活用した業務効率化基盤の構築を検討していましたが、1名のエンジニアのみで社内システムや複数の自社サービスの開発・運用を担当していたため、生成AIの環境構築に充分なリソースを割くことが困難な状況でした。その一方で、機微情報を扱っていることから、社員の方々が外部の生成 AI ツールを各々契約して勝手に利用する、いわゆるシャドー IT を防ぐためにも喫緊の対応が必要となっていました。
こうした課題を解決するため、Amazon Bedrock と Amazon Kendra を活用した RAG(検索拡張生成; Retrieval Augmented Generation) チャット環境を社内マーケター向けに提供し、記事のリライト業務を生成AIによってサポートする取り組みを始めました。
ソリューション/構成内容
環境構築にあまりリソースを割けない状況の中、セキュリティを担保した生成 AI 環境を構築するために、AWS が OSS (オープンソースソフトウェア) として提供している「GenU (Generative AI Use Cases JP) 」を活用しました。GenU は以下のようなアーキテクチャで構成されており、生成 AI を用いたチャットボットや、要約や文章構成、画像生成など様々なユースケースを体験することができるアプリケーションとなっております。また、上記のユースケースに加え、RAG による社内情報に基づいた AI チャットボットなども利用することができます。
RAG について少し補足します。RAG では、ユーザーが知りたい内容に対してまず Amazon Kendara に対して検索を行い、得られた検索結果を参考情報として生成 AI が回答を生成します。RAG を利用することで、生成 AI モデルが知らない社内のマニュアルや規定といった情報についても回答を生成することができます。Amazon Kendra は Amazon S3 やウェブサイトなど、複数のデータソースからデータを簡単に取り込み、検索に適したインデックスを作成してくれます。今回の実装では、社内の過去の記事データやマニュアル類を Amazon Kendra に同期するために ECS Scheduled Task を利用し、以下のような処理を定期実行するジョブを作成しています。
- ECS Scheduled Task でジョブを実行
- 1-1. 自社プロダクトのDB (Amazon Aurora PostgreSQL) から対象データを抽出
- 1-2. データをプレーンテキストに整形
- 1-3. AWS SDK で S3 にアップロード
- 1-4. Amazon Kendra の S3 Connector を利用してインデックスを同期
上記の実装を行うことで、自社 DB やその他のデータソースから検索対象データを柔軟に抽出し、RAG のデータソースとして利用することが可能となっています。加えて、GenU では生成 AI ツールを社内展開する際に便利な以下の機能を備えています。
- Amazon Cognito を利用したユーザー認証機能
- AWS WAF を利用した IP 制限等のアクセス制御機能
サルソニード様では、社内に生成 AI ツールを展開するにあたって、セキュリティを確保するために上記機能を有効化していただき、ユーザー認証やアクセス制限機能を備えたセキュアな環境を短期間で構築することができました。このように、GenU を利用することで、簡単かつ迅速に環境構築を行うことができたため、1 名のエンジニアがわずか 2 日で環境構築から社内リリースを行うことができました。
導入効果
前述の通り、サルソニード様は GenU を活用した生成 AI ツールを社内ユーザー向けにリリースされました。具体的には、Web メディア記事の制作や校正に Amazon Bedrock から利用可能なモデルを使った通常の生成 AI チャットを利用し、社内情報や専門知識が必要なマーケターの質問への回答には Amazon Bedrock と Amazon Kendra を組み合わせた RAG チャットを利用しています。この生成 AI ツールの導入により、サルソニード様では以下のような効果が得られました。
- 記事のリライト業務にかける時間を70%削減でき、マーケターはマーケティング業務に集中できるようになった
- 会社公認の生成 AI ツールを使える環境を GenU で提供することで、生成 AI のシャドー IT 利用の防止につながり、AWS 内で稼働する環境のため、情報漏洩のリスクもコントロールできるようになった
今回は「マーケターの記事執筆業務の効率化」という切り口で導入いただきましたが、「従業員が利用できるセキュアな生成 AI ツールを会社として提供したい」といったお客様や、「社内の知見と生成 AI を組み合わせて利用したい」というお客様にもおすすめできるソリューションとなっています。
まとめ
今回は、Amazon Bedrock と Amazon Kendra を活用した生成 AI ツールを活用し、記事執筆業務を効率化する、というサルソニード様の挑戦についてご紹介いたしました。
生成 AI は単体でも便利なツールですが、今回のように社内の過去の知見やマニュアル、規定類といった情報と、生成AIを組み合わせることで、業務効率化を実現しているお客様も多くいらっしゃいます。
セキュアかつプライバシー保護されたソリューションを簡単に構築・運用できる GenU を利用して、生成AIの社内活用を推進してみるのはいかがでしょうか。
AWS を利用した生成 AI の活用にご興味をお持ちのお客様は、お気軽にご相談いただければと思います。
ソリューションアーキテクト 小林 大樹 (X – @kobayasd)