Amazon Web Services ブログ
2025 年に注目のトレンド:小売業界向け生成 AI
来年の小売業界のトレンドに関して、様々な論客が予測を競い合っています。去年は小売業界のトップテクノロジー動向をリストアップしましたが、今年は生成 AI に焦点を当て、注目すべきトレンドを取り上げたいと思います。2023 年が生成 AI が登場した年で、2024 年がその試験運用的な期間だったとすれば、2025 年はこのテクノロジーがさらに成熟する年になるでしょう。Gartner の言う「啓発期」に近づいていますが、まだそこには達していません。
生成 AI の話に飽き飽きしている人もいるでしょう。生成 AI というと、Nirvana というグランジ系ロックバンドを思い出します。それ以前にも多くのグランジ系ロックバンドが登場していましたが、Nirvana はそうした他の素晴らしいバンドを引き離し、圧倒的な注目を集めました。Nirvana がそうであったように生成 AI が世界に大きな影響を与えたことは誰も否定できません。
そこで、2025 年に注目すべき、小売業向けの 3 つのユースケースと 3 つのテクノロジーを紹介します。
- バーチャルショッピングアシスタント(ユースケース)
- ハイパーパーソナライゼーション(ユースケース)
- バーチャル試着(ユースケース)
- AI エージェント(テクノロジー)
- ドメイン固有の基盤モデル(テクノロジー)
- Computer Use(テクノロジー)
バーチャルショッピングアシスタント
このソリューション開発のコンセプトはシンプルです。店舗での買い物であれば、何を買ったらよいかわからなければ店員に専門的なアドバイスを求めることができます。では、オンラインショッピングの場合はどうすればよいのでしょうか? そこで登場するのが、スプリンクラーの配管から、デジタルネットワーク、寒い日のファッションコーディネートなどさまざまなトピックに精通した AI を駆使したバーチャルショッピングアシスタントです。地中に埋め込まれたスプリンクラーシステムの修理に必要なツールは? 屋外で最もうまく機能する Wi-Fi ルーターは? スタイリッシュなスキーグローブを選ぶ際には何を考慮すべき? こうした質問への回答を得られるようにすること、それが Amazon が立ち上げたバーチャルショッピングアシスタント Rufus の開発の背景です。
Rufus を特に便利にしているのは、会話形式であることです。これにより買い物客が回答に満足するまで会話を続けることができます。店舗にいる店員のように、バーチャルショッピングアシスタントは買い物客のニーズと好みを理解しようと問いかけを行います。これを会話型検索と考える人もいるでしょう。
これは確かに従来の検索を置き換えるものではありません。小売業者はまず Search & Product Discovery ソリューションをモダナイズし、次に Chatbots & Virtual Assistants が自社にとって意味があるかどうかを判断する必要があります。それでもこうしたソリューションを使用することで、買い手はその商品の購入をさらに納得できるとともに売上向上と返品の減少につながるでしょう。
ハイパーパーソナライゼーション
機械学習を用いたパーソナライゼーションは、似通った顧客の嗜好に基づいて個々の顧客の嗜好を予測する協調フィルタリングを Amazon がはじめて使用してから25 年が経過しています。次のトレンドは、機械学習と生成 AI を組み合わせることで買い物客ひとりひとりに個別の体験をもたらすことです。これには、マーケティングコミュニケーション、検索結果、商品詳細ページ、さらにはチャットボットの会話まで、個人の嗜好に合わせてハイパーパーソナライズすることが含まれます。
最終的には、各ウェブストアセッションを個々の買い物客のためにカスタマイズできるようになり、魅力的なテーマ、カスタマイズされた商品構成、そして各個人の嗜好に基づいた選りすぐったサービスを提供して商品を表示できるようになるでしょう。このようなきめ細かなケアを提供するホワイトグローブサービスはかつて富裕層に限られていましたが、一般の買い物客にも広がっていくことでしょう。小売業者は、過去の販売データ、商品データ、第三者の顧客データなどを活用し、個々の買い物客とのすべてのインタラクションをその人に合わせてベストにハイパーパーソナライズする方法を検討する必要が出てくるでしょう。
バーチャル試着
オンライン販売は、特にファッションの分野では伸び悩んでいました。というのも、買い物客がオンライン上の商品に対してこれでいいと購入に踏み切る確信を持ちにくかったからです。商品が自分のイメージどおりかどうかわからないと、購入をためらう可能性が高く、色やサイズが違うものをそれぞれ注文して合わなかったものを返品することがあります。生成 AI によって商品をコンテキストに合わせて視覚的に描写でき、買い物客が商品をバーチャルに試着できるようになります。これは、人物とセーター、椅子と居間といった 2 つの画像を組み合わせることで再現されます。買い物客はそれを見て購入するか否かを判断できます。
Stable Diffusion や Amazon Titan Image Generator などの AI モデルは、インテリジェントに画像を組み合わすことで、買い物客にそれが期待に合ったものであるかどうかを示し、確信をもって購入できるようにします。アパレル、ファッション、アクセサリー、家具やビジュアル化の恩恵を受けるその他の商品を販売する小売業者は、この機能の導入を検討する必要が出てくるでしょう。
AI エージェント
チャットボットやバーチャルアシスタントと会話することで情報は得られますが、ほとんどの場合、次のアクションへと導くことなく終了してしまいます。一方、エージェントは目標達成に能力を発揮します。通常、自律的であり、特定のタスクの達成を可能にするツールを用意しています。目標達成に貢献し、案件を前に進めてくれるので、エージェントをチームの一員とさえ考える人もいます。Amazon Bedrock Agents などのサービスでは、連鎖的な推論を使用して、複雑な問題を切り分けて解決できます。たとえば、価格設定エージェントは、競合他社のウェブサイトをスクレイピングして価格を探り、商品マージンを調べ、定義されたルールに基づいてベストな価格を提案します。
例えば、需要予測ソフトウェアに予測エージェントが組み込まれていて、必要に応じてあなたの予測を更新および配布できるとしましょう。そうすると、小売業者としてはチーム全体の生産性を高めるために自動化できるタスクを探したくなるにちがいありません。
ドメイン固有の基盤モデル
ほとんどの基盤モデル (FM) や大規模言語モデル (LLM) は、一般知識を会得できるように公開データのコーパスで訓練されていますが、特定のドメインに焦点を当てるモデルをゼロから構築することも可能です。Amazon Science チームは、購入体験の向上を目的として、膨大な商品カタログ、顧客レビュー、その他の類似データで訓練された、 Rufus が使用する小売業向けの LLM を作成しました。 小売業界に特化することで LLM が必要とするパラメータ数を抑え、運用コストを低くできるにも関わらず、優れたアウトプットをもたらすことが期待できます。
もちろん、LLM を構築することは途方もない取り組みであり、ほとんどの小売業者には手の届かないものです。したがって、ほとんどの小売業者は自社のデータを使って既存のモデルを微調整することを選択するでしょう。小売業者は、このコスト効果の高いアプローチを使用して、生成 AI の出力を改善することを検討する必要が出てくるでしょう。
Computer Use
まだ初期段階ですが、Claude 3.5 などの FM を使ってコンピュータを制御し、自分がコンピュータを使うのと同じように FM を駆使させることが可能になりました。例えば、注文書を作成するように依頼すると、FM が画面を「見て」、マウスを操作して注文フォームに必要事項を入力します。生成 AI はリグレッションテストにも使用でき、ウェブストアを更新したあとに期待した通りに機能することを確認することができます。
消費者側からすると、例えば最も安い Apple AirPod Pro を見つけて購入するように依頼することができます。そうすると FM は調査を行い、最終的には購入する商品を選択してくれます。
FM がソフトウェア、特にブラウザの操作ができるよう訓練されるにつれ、一部のルーチン作業を自動化できるようになり、人間はより創造的な活動に時間を費やすことができるようになります。現在、このテクノロジーを採用するには少し早すぎますが、2025 年に一般提供されるかどうか注目しておきましょう。
NRF の AWS ブースにお越しください
2025 年に生成 AI を採用しようと意思決定を行うにあたって情報面でお手伝いできるよう、2025 年 1 月に開催される全米小売業協会(NRF) イベントショーの AWS ブースにお立ち寄りください。こちらに立ち寄っていただければ、AWS、Amazon、当社パートナーの専門家と会話ができますし、エキサイティングな生成 AI デモを体験し、スマートストアテクノロジー、デジタルコマース、小売業務など、この分野の最新のアイデアを含む多くのイノベーションについて学ぶことができます。
さらに、以下のリソースから小売業界における生成 AI の素晴らしい発展を確認できます:
著者について
David Dorf は AWS のグローバルリテールソリューション部門をリードしています。そこでは、小売業向けの専用ソリューションを開発し、小売業のイノベーションを支援しています。AWS 入社前は、Infor Retail、Oracle Retail、360Commerce、Circuit City、AMF Bowling、Schlumberger の小売・銀行部門で、小売技術ソリューションを開発していました。数年間 NRF-ARTS と協力して技術標準化に取り組み、MACH Alliance のアドバイザリーボードに名を連ねる一方で、Retail Orphan Initiative のチャリティを支援しています。バージニア工科大学とペンシルベニア州立大学の学位保持者です。
本稿は PMO の村田が翻訳を担当しました。原文はこちら。