Amazon Web Services ブログ

株式会社日立パワーソリューションズの AWS 生成 AI 事例: AWS の生成 AI を利用し、多岐にわたる保守知識を共有

本ブログは、株式会社日立パワーソリューションズと Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆しました。

株式会社日立パワーソリューションズは、風力や太陽光など再生可能エネルギー、火力・水力プラント、工場の電気設備、生産設備など社会インフラを中心に幅広い分野で保守サービス事業を展開しています。本ブログでは、同社が AWS の生成 AI 技術を活用して、社会インフラにおける保守業務の効率化と知識共有に取り組んだ事例をご紹介します。

課題:多岐にわたる保守業務の技術伝承

日立パワーソリューションズは、風力発電設備から工場の生産ラインまで、多岐にわたる設備の保守を行っています。また、日立グループの製品のみならず他社製品も対象とすることから、保守を行う上では幅広い機器に関する知識を習得することが重要となっています。しかし現在、シニア層が保守作業員の約 10 %を占めるなど高齢化が進んでおり、そういったベテランの退職による知識喪失の深刻化への危機意識があります。そのため、ベテラン保守作業員の知識を若手・中堅社員へ確実かつ効率的に継承し、サービス品質を維持・向上させるための仕組みを構築することが重要な課題となっていました。

ソリューション:AWS を活用した生成 AI 環境の構築

これらの課題に対し、同社は AWS のサービスを活用した、社内で活用するための生成 AI 環境「Power AI Ground(パワグラ)」を構築しました。パワグラは現場の保守員を支援することを目的としており、従来から推進しているナレッジマネジメントと組み合わせることにより、保守知識の定型化・高度活用を狙っています。フィールド作業支援、保守マニュアルや指示書からの必要な情報の検索・集約、保守作業員の教材作成というユースケースを想定し、実作業への適用に向けて保守現場とのコミュニケーションを重ねています。

パワグラの想定ユースケース

図1 パワグラの想定ユースケース

システムアーキテクチャは以下の通りです:

図2. システムアーキテクチャ

 

パワグラでは、自然言語検索サービスである Amazon Kendra を社内ナレッジベースとして活用し、生成 AI 基盤サービスである Amazon Bedrock を組み合わせることで、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を実現しました。これにより、一般的なチャットボットと比較し、ハルシネーション(生成 AI による事実と異なる文章の生成) を抑制しつつ、自社の業務に必要なマニュアルデータや過去の作業指示書、作業報告書などを効果的に活用した高品質な回答を生成できるようになりました。また、他社の類似サービスを用いて構築した場合と比較しても、価格メリットがあり、サンプルコードで構築が容易かつ、技術支援が充実しているといった点から AWS を採用するに至りました。

経営戦略本部 湯田晋也担当本部長は「AWS の各種サービスや支援を活用することで、当初は 6 ヶ月かかると思っていた、生成 AI ソリューションの構築・効果検証を 3 ヶ月で終えることができました。また、RAG の仕組みにより、社内にある専門性の高い保守知識に関しても高い回答精度を実現することができました。」と述べています。

導入プロセスと工夫

システムの開発にあたっては、AWS や生成 AI の知識を持った人財が不足しているという課題がありました。そこで、まずは AWS の RAG 構築ワークショップへ参加することで、迅速に検証環境を構築しました。

ワークショップでは GitHub 上にある RAG 構築のサンプルコードをもとに、実際のデータと連携してソリューションを構築する手順を学ぶことができただけでなく、様々な技術的な質問も行うことができ、その後の検証をスムーズに進めることができました。

次に、RAG の効果を測定するべく、過去の作業報告書や設備マニュアルのデータをもとに報告書作成を支援するユースケースに絞り、回答精度を検証しました。

開発当初は 40% ほどしか精度が出ませんでしたが、原因を調査したところ、特に Excel で記述された帳票データをもとにした回答精度が悪いことが判明しました。そこで、 Anthropic 社のユーザガイドを参考に、Claude モデルに合わせ、多様なフォーマットの報告帳票文書のうちテキスト部分を AWS Lambda で XML 形式に変換した上で、Kendra に取り込むといった工夫をしました。これにより、帳票データであっても回答精度を 40% から 90% へと大幅に向上させることができました。

帳票データを XML 変換するための仕組み

図3. 帳票データを XML 変換するための仕組み

導入効果

今回の検証では回答精度 90% という良好な結果が得られたことから、今後の開発によって、保守手順文書を作成する際に設備マニュアルから引用するための工数を削減し、文書作成に要する時間を削減可能な見込みとなっています。また、同じ部品が違う呼び名で書類に記載されている場合など、従来の文書検索では類似語辞書を用意しなければ対応できないようなケースでも対応できるようになり、より柔軟性の高い回答が得られることが確認できています。

これらの結果を踏まえ、ベテランエンジニアの知識共有という当初の課題についても解決できそうだとの見通しが得られました。

今後の展望

日立パワーソリューションズでは、生成AI環境を独自に構成することで、生成 AI を活用するためのノウハウを習得することにも繋がりました。今後に向けて、自社の業務内容に合わせた生成 AI 環境「Power AI Ground(パワグラ)」をより発展させ、実運用で役立てていく予定となっています。社内で培った経験をもとに、社外向けのソリューション展開も検討しています。

まとめ

本事例は、AWS の生成 AI 技術が、多岐にわたる事業領域を持つ企業の技術伝承と業務効率化に大きく貢献できることを示しています。特に、Amazon Kendra と Amazon Bedrock の組み合わせによる RAG の実現は、専門性の高い多様な知識を効果的に活用する上で重要な役割を果たしました。さらに、サンプルコードを活用することで、3 ヶ月という期間で迅速に実装でき、より自社の業務課題に合わせた形でカスタマイズを行うことができました。

本件に関してご質問がございましたら、株式会社日立パワーソリューションズ Web ページよりお問い合わせください。

AWS は今後も、お客様のビジネス課題解決に向けて、最先端の生成 AI 技術と柔軟なクラウドインフラ、そして活用のご支援を提供してまいります。生成 AI に関してご興味のある方は、ぜひ AWS にお問い合わせください。