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Iberdrola が AWS の IoT/エッジサービスを活用して配電設備のインシデントを削減した方法
この記事は、「Iberdrola reduces incidents at power distribution facilities using AWS IoT and edge services」を翻訳したものです。
Iberdrola は、発電、配電、商業化の分野でグローバルリーダーであり、風力発電と再生可能エネルギーの先駆者です。i-DE は Iberdrola のスペインとポルトガルの電力配電網を担当する部門で、様々な性質の数百万にわたる資産を管理・運用しており、各資産の健全性と全体の配電パフォーマンスとの相関関係を把握するのが難しい状況にあります。この記事では、i-DE のイノベーションチームが開発した資産管理プラットフォーム「SmartPoint」について説明します。SmartPoint は、電線支持塔/電柱、変電所、配電用変電所、送電線、現場作業員など、さまざまなコンポーネントの健全性をモニタリングするためのものです。
i-DE のビジネス課題
電力配電網を所有する i-DE は、以下のように様々な資産の種類を効率的に管理するための技術的ソリューションを導入するなかで、さまざまな課題に直面してきました。例えば以下のような課題があります。
変電所は、電力システムの重要な構成要素であり、電圧を変換し、信頼性の高い電力供給を確保します。施設内の資産は屋外に曝されているため、物理的な脅威や異常を検出するためのビデオ分析が必要です。固定カメラで資産への画角を確保するには、多くの補助的なカメラが必要となりますが、死角はどうしても発生します。
配電用変電所は、送電線から低電圧に変圧し、配電に適した電圧に変換する施設です。この種の設備では、煙、侵入、温度、浸水などの様々な環境変数を監視するために、従来のセンサーからのデータの監視を実装することがキーとなる要件となります。
送電線と配電線は、電力を供給するための重要なインフラストラクチャです。これらには、火災を検出するためのビデオ分析と、植生に起因するリスクを検出するための衛星画像の活用が必要です。
電線支持塔と電柱は、電線を保持し支える物理的な構造物です。これらの資産には、地滑りに起因する傾斜変化などのさまざまなパラメータを測定するための最新の IoT (モノのインターネット) センサーが組み込まれています。さらに、火災発生時の早期検知のため、IoT サーモカメラが配備されています。
現場作業員は、電力網のインフラストラクチャの保守と修理を担当しています。現場作業の安全確保を目的として、SmartPoint では、転倒検知、ジオフェンシング、変電所内での位置制御、スマートキーなどのセンサーの使用が可能になります。
要約すると、i-DE は、このような多様な資産からデータを一元的に収集し、異常を検知し、インシデントを報告し、現場の作業員と協力して修復するためのプラットフォームを必要としています。
SmartPoint に求められる機能要件
i-DE は、従来のセンサーと最新の IoT センサーの両方に接続でき、ビデオから洞察を得て異常を検出し対応できるソリューションを探していました。Web アプリを通じて、Iberdrola 社の運用担当者は、変電所で発生するイベントについてアラートを受け取る必要があります。その一方で、プラットフォームは、イベントに関連するシステムのデータの相関分析、クロス分析を実施し、現場の運用担当者が問題を解決するためのインシデント報告レポートを提供します。
したがって、プラットフォームはデータを 2 つの異なる方法で表示する必要があります。1 つ目は、リアルタイムで発生するイベントのアラートという形式です。2 つ目は、資産の現在の状態を反映するためにオンデマンドで更新可能なチャートです。さらに、変電所のパフォーマンスに関しての KPI がありますが、これを分析・可視化するためには、設備の複数の要素間の相関関係を得る必要があります。
これを実現するため、Iberdrola 社と AWS ソリューションアーキテクトは、以下の設計原則を定義しました
- デバイス接続の標準化とクロスプラットフォーム互換性: 新しいユースケースはすべて、SmartPoint にシームレスに接続できる必要があります。そのため、SmartPoint は MQTT やその他の業界標準プロトコルのコネクタをサポートが求められ、Iberdrola 社は調達時に製造業者にリストを提示したり、機器開発チームと共有したりできます
- 目的別のデータリポジトリ: SmartPoint は、さまざまなプロトコルを使って変電所の制御システムとテレメトリシステムに接続し、データとイベントを、特定のデータ駆動型のユースケースに対応できる最適なクラウド上のデータリポジトリにルーティングする必要があります。IoT ユースケースのためのリアルタイムクエリ可能なデータベースと、ビジネスインテリジェンスやデータサイエンス目的でクエリ可能な中央データリポジトリが必要です。これらを適切に疎結合化することにより、プラットフォームはコスト効率よく分析ユースケースをサポートでき、必要な場合にのみ本番データベースを使用することで実行時のパフォーマンスを確保できます
- スケーラビリティ: AWS クラウド上でサーバーレスサービスのみを使用することで、市場投入までの期間短縮、運用負荷の軽減、プラットフォームの総コストの削減が可能になります。サーバーレスは、インフラストラクチャ管理の複雑さを排除しながら、重要な時にサービス品質を保証できるため、コスト効率の良いスケーリング戦略となります
- 直観性: これにより、UX/UI チームは、デザインとユーザビリティのベストプラクティスに従って、バックエンドやデータチームから独立して作業を行うことができ、Iberdrola 社の運用担当者がプラットフォームの機能を最大限に活用できるようになります。SmartPoint のフロントエンドホスティングは、バックエンドインフラストラクチャから完全に分離されているため、フロントエンド開発者は、ユーザビリティをテストし、より直観的な体験に向けて自律的に変更を展開し、反復できます
- 拡張性と将来性: このプラットフォームでは、デジタルツイン、VR/AR、生成 AI、BIM (ビルディングインフォメーションモデリング)、量子コンピューティングなどの新しいワークフローを簡単に統合し、有効化できる必要があります
ソリューション概要
これらの設計原則を定義した上で、Iberdrola は SmartPoint を作成しました。これは AWS IoT スタックを使用して、さまざまなフィールド機器やセンサーに接続できます。次に、取り込まれたデータに基づいてリアルタイムで動作するためのストリーミング分析を適用し、さらなる分析のためにデータを目的別のデータリポジトリに永続化します。これにより、ビジネスインテリジェンスとデータサイエンス機能が可能になります。SmartPoint のデータパイプラインは、デバイスが追加され続ける中でシステムのスケーラビリティとパフォーマンスを保証するために、AWS サーバーレスサービスを使用しています。設置する機器の性質と数から、エッジコンピューティング機能を使用してセンサーからユニットデータを取得し、必要に応じて現場で判断を下します。これらのエッジゲートウェイは、northbound 方向(エッジからクラウドへ)のテレメトリ収集トラフィックと、southbound 方向(クラウドからエッジへ)のビジネスルール・更新プログラムなどの管理トラフィックの両方で SmartPoint との接続が必要です。
プラットフォームのアーキテクチャは、すべてのタイプのアセットに対して同じ接続性とデータ処理パイプラインを使用するように設計されました。
- MQTT 対応のセンサーが AWS IoT Core ブローカーにメッセージをパブリッシュするためのサブスクライブ
- MQTT をサポートしていないレガシーセンサーからの読み取りを行い、読み取り値をAWS IoT Core に注入してすべてのデバイスの統合ビューを作成するための、スケジューリングされた拡張可能な AWS Lambda にコーディングされた同期ロジック
- スタートアップパートナーの Star Robotics によって導入された、自律ロボット上で実行される機械学習ビデオ推論機能。この機能により、i-DE は異常を検出し、イベントを MQTT ブローカーにパブリッシュし、業界をリードする拡張性、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを備えた AWS オブジェクトストレージサービスである Amazon Simple Storage Service (S3) にオブジェクト (画像とビデオ) をアップロードできます。デバイスソフトウェアの構築、デプロイ、および管理のためのオープンソースエッジランタイムとクラウドサービスである AWS IoT Greengrass が、Over-the-Air (OTA) デプロイメントと共に、ロボットのビデオ推論と自律ナビゲーションランタイムプロセスで使用されています。詳細は次のセクションを参照してください
- ルールにより、トピックメッセージを目的に合わせたデータ永続化サービスにルーティング
- 履歴ストレージ、分析、および、機械学習の適用のためのイベントの生データの S3 バケットへの保存機能
- AWS Glue は生のイベントに対して Extract、Transform、Load (ETL) ジョブを実行し、Amazon Athena でサーバーレスでクエリできるようにし、SQL アドホックで Amazon S3 に直接クエリできるようにし、Amazon QuickSight BI ダッシュボードにデータを供給します。このスタックにより、複数のシステムの相関関係が確立され、配電設備全体のパフォーマンスのベンチマークが確立され、ビジネス意思決定をサポートします。さらに、これはリアルタイムな本番環境用途向けに、専用のトランザクションデータベースに影響を与えることなく行われます
- Amazon IoT Events は、プロセスとデバイスの状態を検出するために複数のソースからデータを取り込みます。これは、障害や運用の変更に対してアラームをトリガーし、運用のパフォーマンスと品質を可視化し、より長い時間ウィンドウ同士を相関させることで、より複雑なパターンを認識するために使用されます
- フロントエンドは Angular で構築され、S3 バケットにデプロイされ、Amazon CloudFront のコンテンツ配信ネットワークを通して提供されます
- バックエンドはサーバーレスアプリケーションとして定義され、イベントがリアルタイムでユーザーアプリケーションで利用可能になるようにキーバリューペアデータベースである Amazon DynamoDB に永続化されます。また、低レイテンシーで SQL を使ってセンサーデータに対してローリングタイムウィンドウでクエリできるマネージド時系列データベースである Amazon Timestream にも永続化されます。バックエンドとやり取りする API は Amazon API Gateway によってサーバーレスでホストされ、セキュアな認証は Amazon Cognito によって有効化されています
エッジでのビデオ推論
Star Robotics はスペインのスタートアップ企業で、さまざまな用途や業界向けにカスタマイズされたソリューションを構成するため、メカニクス、エレクトロニクス、自律ナビゲーション、人工知能 (AI) のモジュール技術を提供しています。SmartPoint は、Star Robotics によって可能になったインテリジェントな監視および詳細検査タスクの 2 段階検出ソリューションを使用しています。初期の推論段階では、Nvidia Edge ツールと AWS IoT Greengrass を Amazon SageMaker でクラウド上で学習されたモデルの OTA 配信と組み合わせており、完全に管理されたインフラストラクチャ、ツール、ワークフローを使用して ML モデルを構築、学習、デプロイするのに AWS サービスを利用しています。
このアプローチにより、ロボットに搭載された 360 度カメラモジュールからキャプチャされたデータに対する即時の推論が可能になり、迅速かつローカライズされた意思決定が保証されます。
異常が検出されると、アラートが生成され、AWS IoT Core を介してクラウドへ送信されます。そこで IoT ルールがメッセージを処理し、DynamoDB と Timestream に保存します。同時に、イベントが発生すると、PTZ カメラ (Pan-Tilt-Zoom、Pan: 左右方向にカメラレンズの向きを動かせる、Tilt: 上下方向にカメラレンズの向きを動かせる、Zoom: 映像をズームイン/ズームアウトできる) がターゲットを捉え、複数の画像を撮影し、S3 のメディア保存用バケットにアップロードします。クラウド上の 2 番目の推論段階がトリガーされ、結果がユーザーレビュー用のアプリケーションバックエンドに送信されます。
このデュアル階層の推論パイプラインを実装することで、プラットフォームはエッジコンピューティングの俊敏性とクラウドベースの分析の深さの両方を確保しています。さらに、このアプローチにより、ユーザーフィードバックと以前のアラートからの誤検知 (False Positive) フィードバックを組み込んで、システムの精度を時間の経過とともに洗練させることができます。
結果と効果
SmartPoint をプロダクション環境に導入したことで、配送施設で報告された事故が 40 % 減少し、以下のカテゴリーで i-DE 事業運営に大きな影響がありました。
- 事故発生時の施設への移動回数が 50 % 減少
- ジオフェンシング(特定エリアに仮想的な境界を作り、位置情報をもとに境界の出入りの際にアクションを実行する仕組みのこと)と位置情報追跡ソリューションを使用することで、危険エリアへの不正アクセスが 30 % 減少
- スマートキーの導入により、施設への不正アクセスがほぼゼロに
- 現場のカメラやロボットを使った日常点検により、環境上の脅威を早期に検知できるようになり、主要変電所での熱故障が 50 % 減少
- 火災検知器、転倒検知器、その他のセンサーを導入したことで、緊急時の電力供給停止時間が短縮
追加リソース
詳細を知りたい場合は、AWS Solutions for Energy をご覧いただき、運用上の優秀性と持続可能性の向上に役立ててください。また、AWS IoT と Edge Computing を活用して、リアルタイムデータと予測分析を行うことができます。スマートでより効率的なエネルギー未来への第一歩を踏み出すには、AWS Energy Experts にご連絡ください。
本ブログは、ソリューションアーキテクトの高橋が翻訳しました。原文はこちらです。