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【開催報告】AWS メディア業界向け勉強会開催報告

2024 年 7 月 11 日(木)に、メディア業界のお客様向けに AWS 勉強会を開催いたしました。放送局のお客様にご登壇いただき、 AWS の活用事例についてご紹介いただきました。登壇者の所属部署および肩書きは登壇当時のものとなります。

AWS メディア業界向け勉強会 #5(2024 年 7 月 11 日開催)

AWS Media Services を用いて
クラウドマスターの現状・未来について検討してみた

朝日放送テレビ株式会社
技術局 放送技術センター 放送実施グループ
渡辺 雄介 氏 宮川 陸 氏

放送局には、放送番組及びCM等を放送時間に合わせて順番どおりに誤りなく送信設備へ送出する「マスターシステム」と呼ばれるシステムが存在します。経営および BCP の観点から、クラウドを用いたマスターシステムの構築を検討する動きが一部の放送局で始まっていることを受け、朝日放送テレビ(ABCTV)でもクラウドに関する知見を高めるべく定期的に社内勉強会を実施しています。メディア/配信サービスが充実している AWS を用いて簡易的なマスターシステムを実装することで、クラウドで実現できることと課題、その双方の確認を行いました。

クラウドマスター全体構成

今回構築した検証環境では、 AWS Elemental MediaLive が持つスケジュール機能や AWS Lambda など用いて、マスターシステムの中枢機能である、 APS 機能を実現しました。例えば、APS データの投入と差し替え、Q テイク/カットイン制御、局ロゴや速報スーパーの重畳などの機能です。また、AWS 上で処理されたこれらの映像信号が、オンプレミス上の OFDM 変調器を通してテレビ受像機で再生できることも確認しました。その一方で、主に Web 配信で用いられる AWS Media Services でシステムを構築した場合には、エンコード遅延や伝送遅延の影響を受けること、映像信号同士の同期方法を検討する必要があること、実現したい機能によっては AWS Media Services だけを利用するのではなく、 Amazon EC2 上で動くソリューションの検討も必要であることなどが課題として浮き彫りになりました。

系列クラウドマスターの将来像

この勉強会では、複数の放送局で1つのマスターシステムを持つ場合の検討も行いました。1つのリージョンに映像信号を集約、送出バンクなども複数局で共用化することで、運用効率やコスト効率を上げられるのでないか、また複数のリージョンを併用することで可用性を担保し、DR 構成を実現できるのではないか、などの意見が勉強会の中で挙がりました。また、マスターシステムをより効率化するという当初の目的を達成するためには、今あるマスターシステムをそのままクラウドに移行するのではなく、必要な場合のみ必要なリソースを使用できるようにしたり、共通化できる設備や運用を極力共通化するなど、従来の考え方の大幅なアップデートが必要であるとの意見も挙がりました。
ABCTV では、今年度もこの勉強会を継続しています。

AWS Deadline Cloud でクラウドレンダリングしてみた

株式会社毎日放送
総合技術局 制作技術センター
村井 亨 氏

CG レンダリング とは、3DCG ソフトで作成した CG 素材を、計算によって 2D の映像に描画する作業です。CG 素材の作成や修正を素早く行うためには、複数のサーバで構成されたレンダリングファームを活用するなどして、レンダリングスピードを向上させることが重要です。毎日放送(MBS)では従来のオンプレミス環境に代わって、2022年から AWS Thinkbox Deadline を用いたレンダリング環境を構築しています。AWS Thinkbox Deadline を用いることで、必要なときに必要な分だけコンピュートリソースを確保できるようになり、スポットインスタンスを用いた使用料の削減、ハードウェア更新の負荷軽減などの効果がありました。一方で、オンプレミスの管理サーバが依然必要であったこと、レンダリングサーバの起動や終了が作業負荷として残るなどの課題もありました。

オールクラウド環境
そこで MBS では、2024年4月に提供が始まった AWS Deadline Cloud を用いたレンダリング環境のオールクラウド化にいち早くチャレンジしています。AWS Deadline Cloud は、クリエイティブチームが数分でレンダーファームを簡単に設定し、より多くのプロジェクトを並行して実行できるようにスケールしながら、使用したリソースについての料金のみを支払うことを可能にする新しいフルマネージドサービスで、レンダーファームの作成と管理、進行中のレンダーのプレビュー、レンダーログの表示と分析、およびこれらのコストの簡単な追跡を行う機能を備えたウェブベースのポータルを提供します。管理サーバが不要、かつレンダリングサーバの管理も不要となるため、現在使用している AWS Thinkbox Deadline よりもさらに運用負荷を軽減できるのではないかと MBS では期待をしています。

AWS Deadline Cloud

実際に AWS 上に検証環境を構築しテスト運用を実施したところ、CG デザイナーからは「レンダリングサーバの管理から解放された」「操作感に問題はない」「費用を可視化できるようになり嬉しい」との感想が寄せられました。またシステム管理者からは「簡単に環境が構築できるようになった」「ライセンスの購入が AWS に一元化されて支払いが楽になった」「ポート番号の管理が簡単になった」などの感想がありました。
現状の AWS Thinkbox Deadline を用いたレンダリング環境と比べて費用削減効果も期待できることから、MBS では AWS Deadline Cloud への移行を今後進めていく予定です。

中京テレビ版「データ基盤」の構築について

中京テレビ放送株式会社
技術DX 推進局 ICT 推進グループ
山本 卓也 氏

中京テレビ(CTV)では、社内の全ての人が、必要なときに、必要なデータにアクセスできる環境を実現するため、これまで個別管理されていた社内のデータを一元管理すべく、AWS 上にデータ基盤を構築しました。
このデータ基盤は様々なデータを扱いますが、「データソース」は Amazon RDS など様々です。データ連携をすることが難しく、Web からダウンロードするしか手段が無いものや、PDF データなどは、RPA ツールやローコードツールを活用したり、名寄せ用の簡易アプリケーションを作成したりして、データ基盤にデータを取り込んでいます。例えば同じ番組であっても動画配信プラットフォームによって 番組 ID が異なるため、共通の ID を付与して名寄せを行う作業などが必要でした。
次に AWS に取り込まれたデータは、AWS GlueAmazon S3AWS Step Functions などを介して ETL 処理が行われます。Amazon S3 にデータがアップロードされた場合には、Amazon S3 イベント通知をトリガーに複数のサービスを経由して、Amazon RDS がデータソースであった場合には、AWS Database Migration Service(AWS DMS)を経由して Amazon Redshift にデータが登録されます。

データ基盤全体構成
「マート化・可視化」においては、 Amazon Redshift の肥大化を防ぐために一部のデータを Amazon Athena を用いて直接クエリしたり、生データではなく AWS Glue で集計したあとのデータを Amazon Redshift に入れるなどの工夫を行い、Amazon QuickSight でデータの可視化を行いました。
また「データ品質管理」では、各テーブルの監視周期を登録し、最新のデータが取り込まれているかその周期ごとに確認する仕組みを入れたり、Amazon CloudWatch で当該のメトリクスを監視することで、データソース監視者がすぐに異常に気づける仕組みを構築しました。

大容量データ処理

このデータ分析基盤は複数名でチーム開発しているため、適切な権限付与やアクセス管理が重要でした。Control Tower 導入時に有効化した IAM Identity Center を用いて、チームメンバーに対して適切な権限付与を行い、データソースとデータ基盤の AWS アカウントは分離しました。また Amazon QuickSight には社内の様々な部署の利用者がアクセスするため、複数作成したロールと共有フォルダとを紐づけて、必要なダッシュボードだけを利用者が見れるようにしました。
今後は Amazon QuickSight の社内利用の推進と Amazon Q in QuickSight の機能調査を行う予定です。

 クラウド編集の取り組み

讀賣テレビ放送株式会社
技術局 技術開発部
西村 聡 氏

讀賣テレビ(ytv)では、場所に制限されずに作業が可能となるなどの利便性の向上、メンテナンス費や設備更新等に関するコストの削減、物理メディアの持ち運びをすることなく素材の受け渡しを実現するためなどの理由から、クラウド編集環境の構築に取り組んでいます。AWS が提供するコンピュートサービス内で任意の編集ソフトウェアを実行することでクラウド編集環境を実現することができ、ytv ではソフトウェアの実行環境として AWS のフルマネージド VDI サービスである Amazon Workspaces を採用しています。

クラウド編集

従来のオンプレミス編集環境と AWS 上のクラウド編集環境との間は、ストレージサービスを介して常に素材の共有と同期が行われているため、オンプレミス上で行なった編集作業の続きを、例えばロケ先などから Amazon Workspaces に接続し、クラウド上で継続して行うことが可能です。ytv では実際に「鳥人間コンテスト2024」における VTR の準備や本編の編集でこのクラウド編集環境を活用しています。また Amazon Workspaces のスケジュールツールを自社で開発中で、社内の UI からクラウド編集環境を簡単に立ち上げられるだけでなく、将来的には社内の他のシステムと連動してクラウド編集環境の構築を自動化することも検討しています。
現在行なっているチャレンジはもう1つあります。AWS が提供するフルマネージド型のエンドユーザーコンピューティング (EUC) サービスである Amazon AppStream 2.0 を用いたクラウド編集環境の構築です。Amazon AppStream 2.0 は非永続的なストリーミングインスタンスであることから、ユーザが接続する度に新たな環境が立ち上がるという特徴があり、Amazon Workspaces で実現できていたライセンス認証などの処理に一工夫加える必要が生じます。その一方で Amazon Workspaces よりもインスタンスタイプが多く、かつ ytv の利用形態では料金が大幅(4分の1)に下がるというメリットもあります。現在、Amazon AppStream 2.0 上で EDIUS 9 が動作するところまでは実現できており、 EDIUS X 以降のバージョンについてもソフトウェアの対応状況を見ながらチャレンジしたいと考えています。

Amazon AppStream 2.0 を用いたクラウド編集

なお、クラウド編集環境を簡単にデプロイ可能な Edit in the Cloud on AWS と呼ばれるソリューションを AWS では提供しています。ぜひこちらもお試しください。

放送局向けデータ分析ダッシュボード

近年放送局では、視聴率データや動画再生数、営放システムや会計システム上のデータなどを複合的に分析する Business Intelligence (BI) のニーズが高まっています。そこで AWS では、高速 BI サービスの Amazon Quicksight と生成 BI サービスの Amazon Q in QuickSight を組み合わせた、放送局向けデータ分析ダッシュボードのハンズオンコンテンツとそのデモ環境をご用意しています。本勉強会ではこのハンズオンコンテンツの一部を実施しました。

Amazon Q in QuickSight を用いると、自然言語のプロンプトを用いて数分で BI ダッシュボードを作成し、可視化や複雑な計算を容易に行うことができます。このダッシュボードではプロンプトから参加者が質問を投げかけ、視聴率が最も高かった放送日を特定することができます。このダッシュボードをご覧いただいたお客様からは、これらの機能を自社で導入すれば自分の担当番組に関連するデータをすぐに見つけることができるのではないか、などの声をいただいております。

データ分析基盤の構築と BI ツールの利用は、お客様が抱える大量のデータからビジネス上の課題を抽出したり、有益なインサイトを得る手助けとなります。またこれらのインサイトを起点として新たなイノベーションを起こしたり、既存のワークフローを改善することも可能です。本ダッシュボードにご興味のあるお客様は、メディアチームまでお気軽にお問い合わせください。

まとめ

メディア業界向け勉強会の開催概要をご紹介させていただきました。引き続き業界の皆様に役立つ情報を、セミナーやブログで発信していきますので、どうぞよろしくお願い致します。

参考リンク
AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)

AWSのメディアチームの問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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この記事は SA 小南英司が担当しました。