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【開催報告】建設不動産 DX セミナー 建設業界パート 開催報告

こんにちは!アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニア ソリューション アーキテクトの岩野です。本ブログでは、2022年8月4日(木)に開催した アマゾン ウェブ サービス (AWS) 「建設・不動産 業界向けDXセミナー」の建設業界パートのサマリーをお届けします。

開催趣旨

建設業界は人手不足や長時間労働の常態化、インフラ老朽化といった課題に直面しています。このような中、i-Construction を初め ICT を活用して建設を変革し、生産性や働き方を改善する建設デジタルトランスフォーメーションに大きな注目が集まっています。本セミナーでは、オープニングにてAWSからデジタルツインを交えたデータと建設の DX についてご紹介したのち、株式会社大林組様、清水建設株式会社様、日本工営株式会社様の三社から建設に関わるデジタルトランスフォーメーション事例を発表いただきました。

  1. 建設(土木工事)におけるデータマネジメントシステムの開発
  2. 運用のデジタル変革を支援する建物OS「DX-Core」について
  3. 建設コンサルタンツにおけるAWSを活用したDX化の取り組み

オープニング – AWSで始めるデータと建設のDX

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 岩野 洋平

オープニングでは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のシニアソリューションアーキテクト岩野より“AWSで始めるデータと建設のDX”と題し、建設バリューチェーンにおけるデジタルツインの4つのレベルとデータ活用についてお話ししました。

グローバルな環境下では、都市化が進む一方、都市部での建設需要が高まる中で二酸化炭素排出量削減といったサステナビリティへの関心の高まりや技能労働者不足に伴う建設アクティビティの複雑化といった課題をどうクリアしていくかに注目が集まっています。一方、日本の建設業でも長時間労働の常態化やサステナビリティへの関心の高まり、深刻な技能労働者不足にインフラの老朽化といった課題を抱えており、これらをクリアするために IT技術を活用した ICT 施工に注目が集まっています。このような中で建設バリューチェーンにおいてデータを活用し、デジタルツインと共に IoT / AI / 機械学習 / ビッグデータ分析で建設の体験を向上させていくことが必要であるとお話しさせていただきました。

また、デジタルツインにおいては、その4段階のレベルをそれぞれ L1 Descriptive、L2 Informative、L3 Predictive、L4 Living Digital Twin として説明し、それぞれの段階におけるハイレベルなアーキテクチャも示させていただきました。そして、数あるグローバルの事例の中から米国にある空調と冷凍ソリューションの大手プロバイダーである Carrier 様のスマートビルディングにおけるデジタルツイン事例と豪州にある大手建設会社の John Holland 様の施工現場におけるデジタルツイン事例について紹介させていただきました。

最後に、建設のデジタルトランスフォーメーションでは IoT や AI といった言葉が先行してしまい、それを全体の中でいつどのように活用していけばよいか悩まれているお客様は多いかと思います。オープニングでご説明したデジタルツインの4つのレベルとその構想が皆様の参考になれば幸いです。

株式会社大林組 – 建設(土木工事)におけるデータマネジメントシステムの開発

株式会社大林組 技術研究所 上級主席技師 古屋 弘 様

大林組 上級主席技師の古屋様からは、“建設(土木工事)におけるデータマネジメントシステムの開発”についてお話しいただきました。

建設の中でも土木は、キツい汚いといったイメージがありますが、現在は非常に大きな変革の中におり様々なチャレンジをしています。新工法の開発や、GNSS・現場の無線LAN・データベース・タブレット端末を含むPCの活用・建設用ロボットの開発といった技術革新を促す ICT の活用、BIM に代表される 3 次元データの活用や解析手法の高度化による設計の高度化です。また、古屋様自身が最近開発しているものとして建設ロボットがあり、建設ロボットは単体で動くことはできずデータを基に様々なものを動かすものとなります。そのため、データ活用とそのデータマネジメントの観点が非常に重要となります。

今回ご紹介するデータマネジメントシステムは、AWS 上で構築されており、盛土工事をターゲットとしたものとなります。本システムの重要なポイントとして、土木ではモノを作っている最中に様々なデータが発生しており、高度なセンサーで今までにやったことのないようなシステムを用いてセンシングし、そのデータをデータマネジメントシステムの中で再構築し品質管理の高度化をリアルタイムに実施しています。一方、土木では広い範囲で作業を行うために膨大な情報が堆積してしまい、品質管理のスケーラビリティという点において難しさがあります。AWSを採用した理由にはこの難しさへの対応があり、データマネジメントシステムでは次に述べる2つの方針を軸としました。

  • クラウド (AWS) にデータを集約する
  • クラウド上でデータを解析し、ユーザーにそのデータを迅速に提供する

具体的なシステムの全容としては、ローラー車に付けた GNSS センサーと振動センサーから締め固め作業の位置と振動情報を新型 α システム(独自開発の車載器)を介して収集し、締め固め後はその品質を評価するためにレーザースキャナーを用いた点群情報の取得と自動走行する RI ロボットを用いた含水比(土の湿り具合)の自動取得を行っています。クラウドでは、これらのデータを統合して統計的に算出し、その結果生まれる様々なデータをシステム利用者が評価できるようになっています。

最後に、今回のデータマネジメントシステムにあるような品質データは様々な形で今後利用されることが想定され、その中でもデジタルツインがデータ活用のキーになると考えています。特に日本では国土強靭化の中でこれらの品質データを活用することが重要になってきます。また、近年はデータ活用において Common Data Environment (共通データ環境) の有効性が ISO 19650 で提唱されており、運用コストの低さ、高度なセキュリティと安全性、豊富な機能を併せ持つ AWS を採用したとお話しされていました。

清水建設株式会社 – 建物運用のデジタル変革を支援する建物OS「DX-Core」について

清水建設株式会社 エンジニアリング事業本部 情報ソリューション事業部 プロジェクト計画部 システム開発グループ長 越地 信行 様

清水建設 システム開発グループ長の越地様からは“建物運用のデジタル変革を支援する建物OS「DX-Core」について”をお話いただきました。

建物の寿命が伸びていく中でハードウェアに着目したアップデートだけでなく、ソフトウェア面でも常にアップデートする必要があると考えています。DX-Core は建物 OS としてビル内の建設設備や各種クラウドサービスと連携してビルの付加価値向上やビル運用管理の効率化を図り、今までは出来なかったことが出来るようになる建物のスマートフォン化を実現するものとなります。また、建物 OS として機能するには対応するハードウェアとソフトウェアが増えていく必要があり、建物設備やクラウドサービスとの連携を常々拡大しております。

DX-Core の導入するメリットとしては3つあります。まず、1つ目は接続性です。従来は設備間やシステム間の接続連携を個別にやっていてコストと手間がかかっていましたが、DX-Core を導入することで DX-Core の API で簡単に接続連携できるようになります。2つ目は拡張性で、DX-Core を導入することで建物設備とクラウドサービスを容易に連携させることができます。これにより、クラウドから提供されるAI解析サービスやBIツール、課金決済サービスなどと容易に連携でき、発想次第で新たなサービスを構築可能となります。そして、3つ目は柔軟性です。例えば大規模建物の場合はオンプレ DX-Core とクラウド DX-Core を連携させてネットワーク障害時でもオンレプ DX-Core だけで動き続ける堅牢な構成にできる一方で、小中規模建物の場合はクラウド DX-Core と直接連携してコストを抑えるような構成にもできます。

DX-Core を導入することに大きなメリットがある一方で、DX-Core には建物設備だけでなくテナントやユーザーや建物オーナーなどの様々ものがアクセスすることになります。このような中で、DX-Core を AWS に適用した主な理由として次の二つが挙げられます。

  • Amazon Virtual Private Cloud (VPC) を利用したセキュアな接続
  • アカウント管理や権限管理、拠点管理、警報履歴管理とその認証条件を管理できる Amazon Cognito

また、清水建設としては DX-Core に先駆けて建物中央監視システム (BECSS) にて AWS を利用しており、このシステムと連携する必要があったことも理由の一つでした。

最後に DX-Core の今後の展望として、オフィスビルやホテルだけでなく病院、公共施設、工場、物流設備への展開。サービスとして既にある働き方改革サービスやビル運用効率化サービスだけでなく、省エネルギーサービスやBCPサービスの展開も計画しているとお話いただけました。

日本工営株式会社 – 建設コンサルタンツにおけるAWSを活用したDX化の取り組み

日本工営株式会社 基盤技術事業本部 社会システム事業部 統合情報技術部 課長 村上 あすか様

日本工営 統合情報技術部の村上あすか様からは“建設コンサルタンツにおけるAWSを活用したDX化の取り組み”についてお話しいただきました。

建設業界が人手不足やインフラ老朽化、公共事業費の縮小、過酷な労働環境という課題を持つ中で日本工営様はテクノロジーと科学技術を活用し、次のような新たなサービスの創出やビジネスモデル開発をおこなっています。

  • 分散している雨量や水位といった情報を地図情報をベースに集約して表示、独自技術を用いて洪水予測とその3次元表現を行うサービス
  • 光学衛星とSAR衛星のリモートセンシング技術を用いた災害時の浸水域や土砂崩壊域の把握、平常時には橋梁や建設部や堤防、植生、斜面変動の把握による減災と防災のためのサービス
  • 深層学習を用いた地形判読技術により地すべりや土石流発生前の現象形態把握の自動化と災害リスク低減に向けた活用
  • シミュレーションをもとに物流ネットワークを考慮した物流拠点等のインフラ整備計画
  • SDGs の取り組みや事業機会を可視化する診断システム
  • 太陽光発電と蓄電設備を活用したエネルギーの地産地消を進める地域エネルギーマネジメントシステム

開発する中で情報共有や利活用体制の課題、開発環境整備の課題が見えてきました。これらの課題を踏まえて立ち上げたのが今回お話する AWS による NK プラットフォーム構築プロジェクトです。NK プラットフォームを整備するメリットとしては、各種 DX プロジェクトの推進過程において収集・整備・蓄積されるビッグデータを全社横断的に利活用すること、契約と運用を集約することによるコスト削減とセキュリティ担保、サーバーレスなシステム開発やローコード開発環境の提供による環境設定の早期完了が可能になります。

NKプラットフォームの構築に際しては次の4つのステップに分けて8ヶ月程度で実施しました。それぞれの Step で様々なことを検討しましたが、この中で最も苦労したのは 4 つ目の運用検討でした。運用検討の際には、運用体制、ユーザー管理方法、コスト監視と最適化、バックアップルール、監視設定ルール、ログ設定ルール等々を検討していましたが、前の三つのステップは AWS を勉強しながら進められたのに対し、運用検討は社内ルールや調整が必要となり検討開始後に検討事項が多く出てしまったこと、ユースケースに従って運用してみると上手く機能しないことが分かり、今後も改善していく必要のあるものとなりました。

  • AWS アカウント体系の整理
  • ネットワーク構築・設定
  • 共通機能の整備
  • 運用検討

最後に、NK プラットフォームの今後の展望として三つお伝えいただきました。一つは、管理部署を編成して運用していくことを検討する。二つ目として、効率化と利用促進のためのページを実装したり、人材育成という点においてSEやプログラマーだけでなくコンサルタントに対してもセミナーを実施してスキルアップを行う。三つ目として、オンプレとの接続も行い、構築するアプリケーションもサーバーレスな仕組みを利用したものをスタンダード化していき、データレイクだけでなく各組織で整備したコンテンツを車内中横断的に活用した新たなサービスや付加価値の創出を目指していくとお話されていました。

今後の展望

今回のセミナーには建設と不動産に関連した大変多くのお客様にご参加いただき、その反響の大きさを実感しております。登壇されたお客様からは、土木施工やスマートビルディング、インフラ運用の中でクラウドがどのようにビジネス変革や新たな価値創出の中で利用されているかを語っていただき、これがセミナーに参加した皆様のヒントに少しでもなれば幸いです。また、AWS のミッションの一つとして、お客様と共にイノベーションを促進していくことがあります。何かお困りのことやご相談などあれば、お客様・パートナー各社様向けの相談の時間帯を随時設けておりますので、ぜひ AWS までご相談ください。