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AWSも加盟する”経団連”と”JICA(国際協力機構)”の協働で『Society 5.0 for SDGs』提言が策定されました
AmazonとAWSも加盟する経団連と、JICA(独立行政法人 国際協力機構)の協働により、『Society 5.0 for SDGs 国際展開のためのデジタル共創』が公開されました。AWSを含む、複数の民間企業からのアイディアを取りまとめたこの「提言・報告書」は、「>SDGs の達成に向け、日本が有するハード・ソフト面の高い技術力やノウハウを活かしながら、各国・地域における質の高いインフラシステムの整備に貢献する」という目的のために策定されたものです。この提言のなかには、新興国・開発途上国版 “政府共通プラットフォーム”(後述)等の画期的な構想が数多く含まれています。
以下、AWSジャパン・パブリックセクターより、2020年6月に経団連の「Policy(提言・報告書) 国際協力」として発表された本件の概要紹介と、実現するインパクトについて解説します。
経団連・JICA・AWSの目指す「デジタル技術を活用したインフラシステムの海外展開」
AWS は2018年 12 月、経団連への加盟を発表しました。
経団連ではデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に向けた各種取り組みを進めており、「デジタル技術を活用したインフラ整備」というアジェンダを日本政府・各国政府の取り組みに反映させていくことを、これまでも目指して来ました。そうした活動の一環として、経団連とJICAの2団体は協力し、「デジタル技術を活用したインフラシステムの海外展開を推進」すべく、 AWSジャパンを含む日本企業の有するデジタル技術を活用した各種ソリューションと、JICAが実施する政府開発援助(ODA、円借款、技術協力、民間支援各種調査等)を組み合わせた政策提言集『Society 5.0 for SDGs 国際展開のためのデジタル共創』(以下、『Society 5.0 for SDGs』提言)の作成が進められてきました(経団連HPより)。
経団連の開発協力推進委員会政策部会長・谷和彦様は、次のように『Society 5.0 for SDGs』提言策定に関する、一連の活動の意義を述べています。「>現在、日本では、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって社会的課題を解決し、価値を創造する社会「Society 5.0」の実現に向けた取り組みを官民一体で展開しています。こうしたなか、経団連では、デジタル技術を活用した Society 5.0 を通じて国連の掲げる「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を達成する「Society 5.0 for SDGs」を提唱し、その推進に取り組んでおります。」(経団連HPより)
提言紹介①:新興国・開発途上国において、多数の政府機関・行政機関を横断する「共通基盤」をパブリック・クラウドで構成
一例として、「開発途上国版の共通プラットフォーム」という提言が採用されています。『ユースケース集』のp.23-p.24には「開発途上国版「政府共通プラットフォーム」構築 ~パブリッククラウドを用いた開発途上国政府・行政機関向け IT 基盤構築支援~」との提言が記載され、掲載資料によれば、”クラウドサービスを用いた、開発途上国の企業・政府機関所有の情報システムの近代化支援”が目指されています。
では、この構想のメリットは何でしょうか?
掲載資料によれば、”各国の政府機関・行政機関・教育機関および非営利組織は、複雑なミッションを限られた財政リソースと情報システム資産で達成するという、共通の課題に直面しています。政府機関および公共部門のリーダー達は、市民に対してより効果的に奉仕し、科学の分野での躍進を成し遂げ、より広範囲の市民に手を差し伸べ、より多くの時間やリソースを本来重要な主要なミッションに充てるために、数百万を超える利用者を擁し、サービス開発への投資の規模も大きい「パブリッククラウド」のパワーとスピードに大きな関心を寄せて”いる旨、背景が紹介されています。
掲載資料では、以下のように「クラウドを用いた集約・共通化が可能な、政府系業務システムの典型例」に関しても例示されています。
掲載資料では、”>開発途上国の政府機関は共通して、1)自国の保有する情報システムの全数及び各性能、つまりは「全体図」が把握できていない”という戦略的な棚卸ろし・資産把握が未済である問題や、”2)それらをどのように近代化すべきか、戦略的なクラウド移行のロードマップが描けていない”────という問題が指摘されています。
「パブリッククラウドを用いた開発途上国政府・行政機関向け IT 基盤構築(開発途上国版「政府共通プラッフォーム」構築)の補助事業においては、上記課題を、A)各省庁等の機関が横断的・共通的に用いる情報システムの「基盤」リソースを特定、B)そこにパブリッククラウドを用いた環境構築を行うことにより、周回遅れの状況にあった途上国の情報システムを、先進各国と用いられるのと同等のクラウドサービスを活用することで、開発途上国政府は高度なセキュリティ水準と IT ガバナンスのもと、政府・行政サービスを世界最先端の水準で構築・運用することが可能となります。実際の利用シーンとしては、「災害対策サイトの構築」や「アジャイル開発の促進」、「開発/テスト環境の構築」など多様な事例に対応することが可能です。なお、こうした構想は、日本政府が従来から追求してきた「質の高いインフラ輸出」「デジタル・インフラの構築」等の政策と軸を一にするものです。世界各国の多数の民間企業、政府及び行政機関により利用いただいているパブリッククラウドサービスを用いて、開発途上国の政府・行政機関に対して、各省庁等の機関が横断的・共通的に用いる情報システムの「基盤」リソースを構築・運用することを目指します。
────との方向性が示されています。 従来、”個別”の各府省庁、”個別”の原課、”個別”の政府情報システムがバラバラに行っていた調達・構築・運用の手間を戦略的に集約・統合し「規模の経済」と「範囲の経済」を追求することで、これまで多大な手間を要していた設備投資・工数投入・人員配置のいずれに関しても、圧倒的な効率化が可能となります ──── つまりは、真にミッションクリティカルな市民サービスにのみ、行政官は政策資源を集中させることができるのです。
なお、上記提言に関心のある新興国・開発途上国の政府機関・公的機関は、経団連・JICAの窓口にファーストコンタクトを行い、そこから詳細なディスカッションが開始されます(個々の提案企業は、この段階から議論に参加します)。 その後は、「現地政府機関・行政機関としてクラウドサービスのアカウントを保有いただき、そこから派生する親子関係にあるアカウントを1)開発途上国のスタートアップ企業、2)現地で活動を予定する日本のスタートアップ企業、もしくは3)現地の政府行政機関、4)現地政府行政機関の情報システム構築を請け負う日系企業もしくは現地企業等に振り出し、限定的な権限を付与」、「そのアカウントに紐づくクラウドサービスの利用は、JICA による資金協力により部分的(もしくは全額)が補填され」る旨、今回の公表資料には概要が記載されています。
日本政府の政策とも合致
なお、上記の経団連・JICAの『Society 5.0 for SDGs』提言における新興国・開発途上国版 “政府共通プラットフォーム”の構想は、従来、日本政府が目指してきた政策の方向性とも、以下3点において明確に合致するものであることを、ここで合わせて紹介しておきたいと思います。
- 【1】G7伊勢志摩サミットで発表された「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」:JICAなど「関係機関の体制強化と財務基盤の確保」の他、「民間企業の投融資奨励」の一環として、「JICA 海外投融資の出資比率規制の柔軟な運用・見直し」「公的機関の資金調達額の増大 」等の施策が打ち出されています。
- なお、経団連においても「戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて(2020年3月)」と題した政策要望を行っており、「強力なトップセールスとホスト国からの情報収集の強化」「 デジタル技術を活用したインフラ整備の促進」等を日本政府・各府省庁に要請するとともに、「インフラシステムの海外展開に取り組む会員企業の要望に基づく提言を取りまとめ[中略]政府の戦略改定による一層の充実した各種施策の支援を得ながら、質の高いインフラシステムの海外展開を通じたSDGsの達成にわが国政府とともに強力に取り組んでいきたい」としています。
- 【2】日本政府の「デジタルインフラ」の整備方針:”デジタルインフラとは、「政府全体で共通的に利用するシステム、基盤、機能等」”であると定義し、” 現行の府省共通システムを中心にデジタルインフラと位置づけ、一括して整備。府省独自システムは、原則としてこれを利用していく”────との指針が、内閣官房IT総合戦略室から出された「デジタル・ガバメント実行計画の改定に向けた対応状況」の資料において謳われています(2019年10月)。
( ↓ 参考:内閣官房の上記資料より抜粋)
- 【3】日本政府のDX知見の、戦略的な国際発信:『デジタル・ガバメント実行計画 (2019年12月閣議決定) 』のp.80においては、「戦略的な国際対応(◎内閣官房、◎総務省、◎経済産業省、関係府省)」との項目が設けられています。そこでは、”2013 年(平成25 年)の政府CIO の設置以降、実績を挙げつつある府省の壁を越えた取組(政府情報システムについて、2013 年度(平成25 年度)比で、運用等経費3割減見込み等)や地方公共団体・民間とも連携した取組(自治体クラウド、農地情報公開システム、マイナンバー制度等)等から得られた知見及び成果を広く発信し、国際社会にその効果分析等を提供することは、類似の課題に取り組む諸外国のデジタル・トランスフォーメーションを促進し、持続可能な社会の実現という国際目標にも貢献するものである”────このように記載されており、日本の政府情報システムのDXと海外政府機関のそれとを、相互に車の両輪として発展的に整備していくイメージが語られています。
提言紹介②
他にも、今回の『Society 5.0 for SDGs』提言には、新興国・開発途上国の公的機関に広く用いられることを念頭に、「公的機関向けデジタル・アセスメント」「サイバー攻撃防御演習」「保健医療分野のデジタル・アセスメント及びソルーション・マッチング」「デジタル農業プラットフォームによる持続的食糧生産エコサイクル」など、最新のテクノロジーを活用したインフラ整備の構想が、多数盛り込まれています(リンクは前掲に同じ)。
これらの提言に関し、多くの発展途上国・および・新興国の政府機関・公的機関からの問い合わせが寄せられますことを、切に願っています。(*事務局において、海外機関から広く参照いただけるよう、英訳作業が進行中とのことです)
Read More: AWSのサステナビリティ戦略
以下に、今回の取り組みとの関連性の高いAWSのサービスやイニシアティブを、幾つかご紹介させていただきます。
- 米国国務省との取組みに関し、こちらのブログで紹介しています:「AWS Joins the U.S. Department of State and the Unreasonable Group to Support the UN Sustainable Development Goals」
- 2019のre:Inventにおける、「サステナビリティ x クラウド」をテーマとしたセッションです:「AWS re:Invent 2019: AWS & sustainability: Unlocking impact at scale」
- オーストラリアでの太陽光発電に投資する取り組みを紹介しています(米国・ヨーロッパ”以外”の地域では初の取り組み):「Taking action to increase our sustainability」
- Amazonは将来的に100%の再生エネルギー利用に基づいた経営を目指しており、分けてもAWSは「米国の平均的なデータセンターに比して3.6倍ものエネルギー効率の良い運用を達成」するなど、その先陣を切る取り組みをしています:「Sustainability in the cloud」
- SDGsの全ての指標に関し、Amazonは「Sustainability in the cloud」「Tech for good」などの自社業務に置き換えた個別の目標設定を行っています。
日本の公共部門の皆様へのご案内
AWSでは、今回の取り組みの趣旨に賛同いただき、上記提言に載っているデジタルインフラ整備に取り組む各国の公共機関を支援して参ります。
また、政府機関・教育機関・研究機関・非営利団体の皆様に、ぜひともご参照いただきたいコンテンツとして、
❖「ワシントンDC パブリックセクター サミット Online」のご案内
◆AWS Public Sector Online Summit開催概要
会期:2020 年 6 月 30 日 (火) 午後23時(現地米国東部時間午前10時)
費用:無料
お申込みURL: こちら
今後ともAWS 公共部門ブログで AWS の最新ニュース・公共事例をフォローいただき、併せまして、「農水省DX室」「気象庁の衛星ひまわり8号のデータセット」や「情報処理推進機構(IPA)」など日本の関連機関との取り組みを紹介した過去の投稿に関しても、ぜひご覧いただければ幸いです。
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このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が執筆し、「クラウドを用いた集約・共通化が可能な、政府系業務システムの典型例」に関しては、ソリューション アーキテクトの的場大祐が監修しました。