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寄稿:関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 (前半)

本稿は、 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みについて、執行役員である松浦 康雄様より寄稿いただきました。前半、後半の 2 回に分けてご紹介いただきます。本稿は、その前半となります。

連載記事として、以下も公開されておりますので、ぜひご参照ください。

はじめに
関西電力送配電株式会社(以降、当社)は送配電事業の一層の中立性を確保するための電気事業法の改正に伴い、2020 年 4 月、関西電力から一般送配電事業を継承し、事業を開始しました。当社が将来目指す姿を描き出し、その姿に向かって自ら変革していく デジタルトランスフォーメーション ( DX )に全社を挙げて取り組んでいく過程において、この度日本初となる、クラウドを中核としたスマートメーターシステムを開発することを決定致しました(※ 1 )

本取り組みに対するブログは全体で三部作シリーズでお伝えする予定です。今回は第一部として、スマートメーターシステムにおけるクラウドや AWS 採用に関わる意思決定に至る社内の議論経過をお伝えします。次回以降は、 AWS 活用を前提とした次世代スマートメーターシステムの具体的な方向性や取り組みについて、また現行スマートメーターシステム(※ 2 )のクラウドシフトに関する課題解決の経緯について、ご紹介します。

(※ 1 )
スマートメーターシステムとして日本初となるクラウドを中核としたシステム開発を決定」(当社のホームページ、 2023/3/31 )
(※ 2 )
当社の現行スマートメーターは 2023 年 3 月に設置完了。その後、現行スマートメーターの有効期間( 10 年間)が順次満了することに伴い、 2025 年度より次世代スマートメーターへの置き換えを開始予定。

図 1 当社ホームページのお知らせより抜粋

図 1 当社ホームページのお知らせより抜粋

スマートメーターシステムとは
スマートメーターシステムとは、お客さまの電気使用量を、通信網を介して遠隔・自動・定期的に収集・保存するシステムで、スマートメーターと通信ネットワーク、収集したデータを管理するシステム(メーターデータ収集・管理システム)、及び電気使用量にかかる業務を担うシステム(業務システム)により構成されます。スマートメーターは、お客さまの電気使用量を計測・記録する計量部と計測した電気使用量データを上位サーバへ伝送する通信部から構成されます。(図 2 )

図 2 スマートメーターシステムとは

図 2 スマートメーターシステムとは

従前の、毎月一回の目視検針から、 30 分毎の遠隔・自動検針に大きく進歩を遂げただけでなく、スマートメーターからお客さま宅内の端末機器(Home Energy Management System 、Building Energy Management System 等)に電気使用量データを送信することにより、電気使用量が多い時間帯などを把握して、より効果的な省エネが実現可能になりました。

日本全国では 2010 年代前半から導入が開始され、 2020 年代前半に全戸設置が完了する見通しの現行スマートメーターシステムに対して、仕様を見直して機能向上を図った次世代スマートメーターシステムが、2025 年度から導入が開始される予定です。

なお、スマートメーターは、計量器として正確・適正な装置であることを計量部の検定を以って担保しており、この検定の有効期間が 10 年であることから、メーター全数に対してスマートメーターに置き換えていくには、基本的に 10 年の歳月を費やすことになります。

導入経緯と実態
当社では、計量器周辺業務の効率化等を目指し、1990 年代末期から通信方式の研究開発を進めてきました。この開発コンセプトが、後にスマートメーターと呼ばれる汎用的な概念になります。当時は、携帯回線等の通信網のランニングコストが高かったため、自営通信網を主体にして、いかに接続性・信頼性の高い通信ネットワークを構築できるかという点が大きな課題でした。また、当時の計量器は機械式と呼ばれるアナログのものが主流でした。

計量器のスマート化に向けた研究開発に一定のめどが立った 2005 ~ 2006 年に、当社内で議論し、計量器のスマート化に向けた本格検討を開始することになりました。当時はスマートメーターという言葉が存在せず、当社内では計量システムのスマート化を「新計量システム」と呼び、開発を推進しました。当時は計量器の表示を目視確認して検針することや、引っ越し等に伴う送電時には計量器側で作業することが当たり前でしたが、新計量システムに置き換わることにより、これらの業務が大幅に変化するため、数十から百数十人の社内関係者が一堂に介し、議論を積み重ねて、ありたい業務の姿を一つ一つ決めていく議論を繰り返しました。その議論を踏まえ、システム開発としては、 2006 年に開発ベンダーを決定して、システム要件も確定、 2007 年に各ベンダーでの開発を実施し、同年末には通信ネットワークからシステムに至る間のマルチベンダー試験を行い、 2008 年 4 月より試験的導入を開始、 2012 年から全面導入を開始しました。

導入当初は、開発時には想定し得なかった通信ネットワークの通信輻輳の事象など、数多くの新たな課題に直面し、大変な苦労をしましたが、それらを解消することで、着実に新計量システムの信頼性向上を図りました。その後、日本全国においてスマートメーター導入の機運が高まり、2014 年からは当時の電力会社 10 社の本格導入が開始、順次展開され、当社では 2023 年 3 月に全戸導入を完了しています。これまでに当社においては、スマートメーターシステムを活用し、安全かつ確実な検針作業の実現やお客さまの利便性向上、蓄積された電気使用量データに基づいた配電設備形成の合理化などに積極的に取り組んできました。

電気使用量データの利活用
当社では 2012 年からスマートメーターの全面導入を開始し、 2023 年 3 月に全戸への導入を完了しています。導入途上から 30 分毎に収集される電気使用量データの利活用に取り組んでおり、配電設備の正常化や合理化など実践的にデータ利活用を推進してきました。

一方で、後述するように現行スマートメーターシステムは、開発当時にクラウドシステムの概念が無かったためにオンプレミスでデータ収集システムを構築しています。このため、順次拡大するスマートメーターを収容するためのサーバシステムの拡張性に関する課題がありました。また、マルチベンダーによるシステム構築に伴うベンダー間の詳細にわたる仕様調整が必要であり、さらに、ベンダー独自仕様で構成されていることから、ニーズに応じた柔軟なデータの抽出や加工には課題があり、徹底的なデータ利活用の実現にはハードルがありました。この状況の中、昨今のレジリエンス強化に対する関心の高まりや、再生可能エネルギーを始めとする分散型エネルギーリソースの導入拡大の進展等を踏まえて、 2020 年 9 月に資源エネルギー庁が、スマートメーターシステムの高度利用に関する議論の場として次世代スマートメーター制度検討会を設置し、カーボンニュートラル時代に相応しいスマートメーターシステムの新しい仕様や備えるべき新しい機能について議論・検討されました。

現行システムの課題と次世代スマートメーター制度検討会の議論を踏まえて、当社ではスマートメーターから得られるデータを柔軟に高度利活用し、電力ネットワークをご利用いただくお客さまへのサービスレベルアップや社会のレジリエンス向上を図ることを目指し、現行システムと次世代システムを AWS をベースとしたフルクラウドで実現することを決定致しました。(図 3 )

図 3 現行システムと次世代システムのフルクラウド化

図 3 現行システムと次世代システムのフルクラウド化

本稿で取り上げるスマートメーターシステム
スマートメーターシステムの全体概要は一般的に図 2 の通り、各家庭に設置されたスマートメーター、通信ネットワーク、データを収集・保存するデータセンター、及び関連業務を担う業務系の各種システムで構成されます。

本稿では、AWS 上に構成するシステムに焦点を当てた内容を取り上げますので、本稿においては、図 4 の通り、スマートメーターシステムのうちスマートメーターからのデータ収集を担うヘッドエンドシステム( Head End System 。以下、 HES )、ならびに収集されたデータの活用やメーター管理を担うメーターデータマネジメントシステム( Meter Data Management System 。以下、 MDMS )に特化して記載します。このため、特に断りの無い限り、本稿では HES と MDMS のみをスマートメーターシステムと表現します。

図 4 本稿で取り上げるスマートメーターシステム

図 4 本稿で取り上げるスマートメーターシステム

現行のスマートメーターシステムにおける課題
当社では、スマートメーターという言葉が存在しない時代から、新計量システムと呼んで開発を進めてきました。現在のようにスマートメーターのパッケージシステムなど存在していませんので、複数のシステムベンダーの協力を頂き、試行錯誤しながらシステム構成や機能配置を模索してきました。結果として、オンプレミス環境に、ベンダー固有の技術・仕様でシステムを構成し、システムを実現することに成功しています。このシステムの運用開始以降、スマートメーターの設置数量の拡大に伴ってサーバ規模も順次拡大し続けながら、継続的な安定稼働を実現しています。

当社の現行スマートメーターシステムは、こうした経緯で作り上げられたシステムのために、独自 OS や商用データベース、ミドルウェア採用に伴う経済性や将来持続性の課題、システムベンダーへの一元的な委託も背景とした、システムのブラックボックス化、業務処理ロジックの隠匿化などの課題に直面していました。これらの課題は、スマートメーターの 100% 導入完了を受けて、収集される膨大な電気使用量データの高度利活用を指向する当社にとっては、非常に大きな課題となっていました。

また、 10 年かけて導入拡大していくスマートメーターに対して、収容数増加に伴うサーバ数の増大、関連する OS ・ミドルウェアの保守切れ、ライセンス更新、及びサーバリプレース作業が毎年発生していることも大きな課題でした。これらの課題については、その都度、検証作業などが発生するために、経済性の課題だけではなく、当社のサーバ保守関係に従事するメンバーの業務負荷が増大しているという課題でもありました。更に近年では、半導体枯渇によるサーバハードウェア調達納期の遅延など、将来の不確実性も含めた様々な課題が顕在化してきていました。

おわりに
本稿では、当社のスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みについて、「現行のスマートメーターシステムにおける課題まで」をご紹介致しました。後半については、「寄稿:関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介 (後半)」をご参照ください。


執筆者

Yasuo Matsuura

松浦 康雄
関西電力送配電株式会社 執行役員(配電部、情報技術部)

2000 年代初期より、次世代配電網に適用する通信メディアの技術開発に携わり、 2010 年よりスマートメーターシステムの開発・導入プロジェクトを担当。
この経験を踏まえ、 CIGRE (国際大電力会議)にてスマートメーターのデータ利活用に関するワーキンググループを立ち上げて報告書をまとめるなど、スマートメーターシステムの全体像からデータ利活用にかかる論点を国内外の場で調査・発表し、脱炭素社会の実現、レジリエンス向上や効率化の実現に欠かすことのできない重要なキーデバイスとして、日本におけるスマートメーターの認知度向上に貢献。
2020 年には、資源エネルギー庁の声掛けのもと再開された次世代スマートメーター制度検討会に委員として参画し、次世代スマートメーターに求められる構造、機能や性能などについて、現行スマートメーター導入の経験や諸外国調査の知見を活かして議論をけん引。
2022 年度には、同社の現行スマートメーター全数導入を成し遂げるとともに、データプラットフォームとなり得る次世代スマートメーターシステム構想を描き、同社における検討を推進。
現在に至る。