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クラウドへの道しるべ:成功のための重要業績評価指標(KPI)とは

この記事は、”Navigating the Cloud: Key Performance Indicators for Success” を翻訳したものです。

世界のパブリック・クラウド市場は、今後数年間で大幅な成長が見込まれており、「エンドユーザーの支出額は2024 年に6790 億ドルに達すると予測されています[1]」。この急成長は、企業による既存ワークロードの継続的な移行、新しいクラウドネイティブアプリケーションの開発、そして生成AI のような革新的なユースケースの出現によって促進されています。

AWS のクラウドエコノミクスチームは、コスト削減、スタッフの生産性、オペレーショナルレジリエンス、ビジネスの俊敏性、サステナビリティなど、さまざまな柱にわたってクラウド・コンピューティングのビジネス価値を訴求するクラウドバリューフレームワーク(CVF)を開発しました。私たちは、組織と密接に協力し、変革の道のりに寄り添いながら、CVF の柱に沿って成果を定量化することで、5 年間の包括的な総所有コスト(TCO)予測を提供しています。しかし、ビジネス状況の変化に応じて進捗状況を追跡し、ROI (Return on Investment, 投資対効果)の進捗状況を追跡し確実にすることは、極めて大事なことです。

そこで重要な役割を果たすのが、KPI(key performance indicators, 主要業績評価指標)です。KPI は、インプットに基づく標準化された手法を提供し、テクノロジーとビジネスの側面から組織のクラウド成熟度を評価します。このブログでは、テクノロジー分野のKPI について詳しく説明し、後続にリリースするブログではビジネス分野のKPI について説明していきます。

KPI を理解する

KPI は、特定の目標や目的に対する組織のパフォーマンスを評価するための貴重なツールです。ユニットメトリクス(訳注:単位あたりの経済性や採算性)は、特定の活動をきめ細かく測定し、コスト削減イニシアチブの影響を測定するのに有用なのに対し、KPI は、包括的な視点を提供し、組織が戦略的優先事項に集中することを可能にし、全体的な影響についてより広い視野を提供することができます。その重要性と複数の利害関係者からのインプットが必要であることを考えると、KPI の導入は非常に困難を伴います。とはいえその重要性は、そこに必要な労力を正当化するのに十分だといえるでしょう。これらの指標を活用することで、組織は、継続的な改善や是正措置の必要性について、十分な情報に基づいた意思決定を行い、戦略を軌道に乗せることができます。

適切なKPI を選択する

適切なKPI を選択するには、慎重な検討が必要です。以下にいくつかのガイドラインを示します。

  • 簡潔にする: ステークホルダーを圧倒しないよう、KPI は5 つ以内にする。
  • SMART 基準を使用する: KPI は目標設定のフレームワークであるSMART(具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Attainable)、経営目標に関連した(Relevant)、時間制約がある(Time-Bound))を基準にする。
  • 実行可能なものにする: 特定のアクションの影響を測定するために、インプットパラメータとアウトプットとの相関関係に焦点を当てる。

どのKPI を追跡するかを決定する際には、社内の調整、データ収集の合理化、ガバナンスの確立に重点を置くべきです。KPI は、関連する経営幹部や利害関係者によってレビューされるべきであり、データ収集は標準化されるべきであり、報告と是正措置のプロセスが確率されるべきです。また、選択した KPI が時間の経過とともに有効であるかどうかを評価する、継続的な回顧的メ カニズムを検討することも重要となります。

ビジネス価値の柱ごとにみるKPI の例

ビジネス価値を測定するためのKPI の選定は、顧客満足度、業務効率、収益成長などへの影響を直接測定する分野に焦点を当てるべきです。万能のアプローチは存在しませんが、事例をとおしていくつかの共通テーマが見いだせてきています。以下は、ビジネス価値の柱ごとにみるKPI の例になります。

コスト削減

  • コスト削減のトレンド分析では、クラウドのコスト増がオンプレミスのコスト減よりも低い割合で増加しており、クラウドのコストが正しい方向にトレンドしているかどうかを測定する。
  • クラウド効率とは、クラウド費用を売上高で割ったものである。これは、クラウド費用のコスト効率と、時間経過による収益の変化を測定し比較するものである。
  • インフラの平均利用率は、AWS のコンピュート、データベース、データウェアハウスのサービスがどれだけ効率的に利用されているかを測定する。組織の成熟度が高まるにつれて、リソースの利用率は上昇傾向になる。
  • 生成AIのトレーニングやファインチューニングのコストは、企業がROI を計算するための基本的な部分として、計算リソース、データ取得、人間のアノテーション作業など、生成AIに関連するコストを測定することを可能にする。

スタッフの生産性

  • 新しいアカウントとインフラストラクチャコンポーネントの展開にかかるリードタイムは、組織の財務、セキュリティ、およびアーキテクチャのガイドラインを満たす一般的なインフラストラクチャコンポーネントで新しいアカウントをプロビジョニングする時間を測定する。さらに、コンピュート、データベース、ストレージなどの導入時間を測定することもできる。
  • 管理者一人あたりが管理する仮想マシンの数は、管理者の責任範囲の縮小による運用効率の向上を測定する。この KPI を成功させるためには、企業は組織変更管理のための追加的な対策を実施する必要がある。
  • 欠陥密度(コード単位当たりの欠陥数を測定)は、コード単位当たりに発見された欠陥の数を測定する。コード単位とは、特定の関数やコード行などを指す。
  • 生成AIによるコスト回避は、チャットサポート、要約、一般的なコンテンツ生成、反復的なソフトウェアコードや単体テストなど、以前は手作業や従来の方法によって行われていたタスクやプロセスを自動化することによって達成されるコスト削減を測定する。

オペレーショナルレジリエンス

  • ダウンタイムの総量(またはインシデントごとの平均ダウンタイム)は、インシデントごとの計画外ダウンタイムまたは計画外ダウンタイムの総量を測定する。自動化された検知・監視メカニズムを採用することで、インシデント発生後の対応の迅速性を測定することができる。
  • 設定ミスに起因するセキュリティインシデントの件数は、リソースの設定ミスやセキュリティ態勢の脆弱性に起因するセキュリティインシデントの件数を測定する。
  • 平均解決時間は、組織がクラウドネイティブメカニズムを使用してより迅速な復旧・対応時間を開発するにつれて、平均修復時間が短縮されるかどうかを測定する。
  • 平均検出・対応時間は、プロアクティブな通知・対応メカニズムによってインシデント対応時間が短縮されるかどうかを測定する。
  • SLA 違反ペナルティ(顧客との契約や規制上の義務の一部として SLA が定義されている組織の場合)は、SLA 違反ペナルティの合計を顧客総数で割った値が、さまざまなセキュリティと回復力のメカニズムによって時間の経過とともに減少するかどうかを測定する。

ビジネスの俊敏性

  • リリースの頻度と、リリースごとの新しい更新/機能の平均数は、特定の期間における新しいリリースの数と、リリースごとに導入された新機能の数を測定する。
  • リリースごとのコードレビューの回数と、コードレビューごとに費やされる平均時間は、リリースごとの手作業によるコードレビューの削減と、コードレビュー会議ごとのスタッフの効率改善を測定する。
  • マイクロサービスアーキテクチャを使用するアプリケーションの数は、相互依存性を排除するためにモノリシックアーキテクチャからマイクロサービスアーキテクチャに移行するアプリケーションの数を測定する。
  • 生成AIを使用したイノベーション率は、ビジネスチャンスや競争上の優位性につながる、生成AIによって生み出された新しいアイデア、コンセプト、ソリューションの数を追跡する。

サステナビリティ

  • グリーンコンピューティングイニシアチブは、オンプレミスのIT オペレーションの削減、再生可能エネルギーの使用とクラウドのインフラ効率の組み合わせ、およびマネージドサービスの使用によって節約できるカーボンフットプリントの削減を測定する。
  • 廃棄物削減の指標は、オンプレミスのインフラストラクチャの廃棄物のうち、リサイクルされたものの割合や、埋立による処分ではなく環境に優しい方法で処分されたものの割合を測定する。

ガバナンスと結論

KPI のガバナンスには、経営陣との連携、一貫したデータ収集プロセス、ネガティブな傾向が発生した場合の是正措置が求められます。トレンド分析と定期的な改善に注力することで、組織はクラウド導入のペースを正確に把握し、効率を最適化し、利害関係者に具体的なメリットを強調することができます。

クラウド移行のビジネス価値を測るために適切なKPI を選択するには、熟慮することが必要です。インフラのフットプリントを最適化し、クラウドでコスト削減を実現することは必須ですが、クラウド移行の進捗状況や、社内関係者や社外顧客への影響を追跡することも、競争力を高めることにつながります。業種を問わず、5 つの価値の柱を中心に共通のKPI があると考えられます。一方で、各組織独自の状況や優先事項を加味することによって、組織ごとの最適なKPI が導出されます。成功のためには、利害関係者と連携し、一貫したデータ収集を体系化することが不可欠です。

状況が変化するにつれて、既存のKPI を定期的に再評価し、改良する必要があります。トレンド分析は、単独のデータポイントで判断するよりも有意義な洞察をもたらします。最終的に、適切なKPI は、その組織のデジタルトランスフォーメーションが戦略的目標のために進んでいるかどうか、また長期にわたって差別化されたビジネス価値をもたらすかどうかを示します。

KPI は、デジタルトランスフォーメーションの健全性をユニークに測定し、成功の積み重ねを可能にします。

[1] Gartner® Press Release, Gartner Forecasts Worldwide Public Cloud End-User Spending to Reach $679 Billion in 2024, November 13, 2023, https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/11-13-2023-gartner-forecasts-worldwide-public-cloud-end-user-spending-to-reach-679-billion-in-20240.GARTNER is a registered trademark and service mark of Gartner, Inc. and/or its affiliates in the U.S. and internationally and is used herein with permission. All rights reserved.

著者について

Chris Hennesey

hris Hennesey はAWS のエンタープライズファイナンスストラテジストです。エンタープライズファイナンスストラテジストとして、世界中の企業幹部と連携し、クラウドを活用することでスピードと俊敏性を向上させ、顧客により多くのリソースを割けるようにするための財務管理経験や戦略を共有している。AWS 入社以前は、Capital One で複数のシニア・テクノロジー・ファイナンスを担当。ファイナンスの理学士号と経営学の修士号を取得している。

Bhavin Desai

Bhavin Desai はAWS のプライベート・エクイティ・チームのバリュークリエイションストラテジストです。プライベート・エクイティ企業やその投資先企業と協働し、プリスクリプティブアプローチを用いてクラウドの価値を理解、創造、測定することを支援している。AWS 入社以前は、クラウド・センター・オブ・エクセレンス(CCoE)の構築を主導し、ナスダックの長期クラウド戦略策定チームの中核を担った。過去15 年にわたり、さまざまなデジタルトランスフォーメーションや買収統合イニシアチブでチームを率いてきた。ペンシルベニア州立大学で電気工学の学士号を、リーハイ大学でMBA を取得。

この記事は、ソリューションアーキテクトの平岩梨果が翻訳を担当しました。原文はこちらです。