Amazon Web Services ブログ

NTT ドコモが Amazon QuickSight を利用してマーケティング分析のスケールを実現

本ブログは、株式会社 NTT ドコモ(以下、ドコモ)の 周成氏, 宮木健一郎氏, 小柳歩巴氏と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。

本ブログでは、ドコモ がマーケティング分析をスケールさせるために Amazon QuickSight の ピクセルパーフェクトレポートの機能を使った事例をご紹介します。

背景 : ファンプロファイリングとは

ドコモ は、そのビジネス規模から多様で大量のデータを保持しています。そして、それらのデータを活用してユーザーを深く理解し、ターゲティングの最適化をするために、顧客理解エンジン「docomo Sense」(以下、Sense)と呼ばれるシステムを開発しています。例えば、Sense では緯度経度を直接指定して、指定したエリアに滞在したユーザー群(集団)の特徴を分析することができます。これは新規店舗の位置を検討しているマーケターにとって非常に有用な情報です。

Sense の機能の一つに、ファンプロファイリング分析という機能があります。これは、データ利用に同意を得たユーザーの位置情報や商品の購買履歴などを活用し、あるアーティストやある商品のファンの特徴を可視化するものです。特徴とは、訪問場所、興味関心領域、アプリ利用、性年代などを含みます。既存のファンを分析することで、新規顧客獲得や優良顧客化に向けた施策に活用することができます。

ファンプロファイリング分析のイメージ

図1. ファンプロファイリング分析のイメージ

初期のソリューションとその課題

このファンプロファイリング分析は、AWS サービスを用いて行われています。初期の頃は、図2のように、 AWS Batch 内でファンプロファイリングの処理を行い、その結果を Amazon QuickSight を用いて手動で可視化していました。

初期のファンプロファイリングアーキテクチャ

図2. 初期のファンプロファイリングアーキテクチャ

最終的に QuickSight で可視化されるアウトプットのイメージが図3です。

図3ファンプロファイリングの可視化イメージ

図3. ファンプロファイリングの可視化レポートイメージ

当時はリクエストが少数だったため、リクエストのたびに手動で実行していました。しかし、当機能の利用者が増加し、1日10件近いリクエストが来るようになると、手動対応では間に合わなくなり、システムの自動化が必要となりました。

自動化されたソリューション : QuickSight ピクセルパーフェクトレポート

本システムでは、自動化を目的として、QuickSightのピクセルパーフェクトレポート機能を活用しました。ピクセルパーフェクトレポートは、QuickSight上で可視化した分析結果をCSVまたはPDF形式で出力する機能です。これにより、印刷や配布に適した形で分析結果を共有することが可能になります。また、APIを利用することで、特定のS3バケットにレポートを出力でき、QuickSightのアクセス権を持つユーザー以外にもレポートを共有できます。

図4のように下記の流れでレポートを作成します。

  1.  Amazon S3 にある csv データから QuickSight のData Set を作成
  2. テンプレートを用いてダッシュボードを作成
  3. ピクセルパーフェクトレポートを利用し、ダッシュボードをPDFとして出力し、S3 に保存

図4ピクセルパーフェクトレポート機能によるレポート作成の流れ

図4. ピクセルパーフェクトレポート 機能によるレポート作成の流れ

全体の流れを表したのが図5になります。全体のワークフローは Amazon Managed Workflows for Apache Airflow (Amazon MWAA) で管理しています。

  1. 利用者が所定の S3 バケットに入力のためのファイルをアップロードします
  2. AWS Batch が利用者の入力をもとに分析結果を作成し、S3 バケットに保存します
  3. AWS Batch が QuickSight に PDF 作成のリクエストを送信します
  4. 図4に示した流れで可視化の PDF を作成し、S3 バケットに保存します

図5ファンプロファイリングの全体の流れ

図5. ファンプロファイリングの全体の流れ

以下は今回のソリューションによる工夫のポイントです。

1. 複数タスクの並列化

複数のタスクが並列で実行されるため、相互に影響が出ないように工夫が必要となります。今回は、データソースの作成、データの加工、可視化、PDFへの変換といった複数のタスクを、一意の識別子を渡して処理することで、処理を分離し、並列化できるようにしました。これにより、処理時間が短縮されました。

2. データライフサイクル管理の自動化

一般的には、データソースやデータセット、ダッシュボードを残して中身を更新することが多いですが、本システムでは、データが毎日更新されるため、すべてを新たに作成する方式を採用しています。この方法により、データ更新時の管理負担が軽減され、効率的な運用が実現します。さらに、不要なリソースの蓄積を防ぐため、データライフサイクル管理を適用し、ストレージコストも削減できました。これにより、システムの安定性と効率性も向上しました。

成果

本システムを導入することで、従来の手動作業による時間と労力の負担が自動化によって大幅に軽減され、可視化件数が大幅に増加しました。自動化の結果、手動作業は完全にゼロになり、1レポートの作成にかかる全体の実行時間が約1時間から10分に短縮されました。また、ピクセルパーフェクトレポート機能とAWS APIを活用することで、データの格納からPDFへの変換までの一連の作業を自動化し、大規模な対応が可能となりました。その結果、従来の手動対応では月間数件の可視化件数であったところが、自動化により月間数百件の出力を実施できるようになりました。

開発を手がけた ドコモ サービスイノベーション部顧客理解 AI 担当の澤田流布一氏は、今回の取組に対して次のようにコメントしています。

「私たちは、プロダクトの提供を小さく始めて試行錯誤を高速で繰り返し、利用者の声を聞きながら大きくしていくというやり方を大切にしています。その際、小規模で機能提供している際には課題にならなかった部分が徐々に顕在化してくることが多く、今回はその課題を AWS の機能により上手に解決できました。プロダクト成長段階に応じて機能が使い分けられるのも AWS の豊富な機能提供のおかげですので、今後も上手に活用させていただきながら機能と運用の両面の質が向上するような開発を行なっていきたいと考えております。」

まとめ

本ブログでは、ドコモ がファンプロファイリングというマーケティング分析において、QuickSight の ピクセルパーフェクトレポートの機能を用いて自動化と利用者管理の簡素化を実現した方法をご紹介しました。他の AWS ユーザーの皆様にもこの使い方が参考になれば幸いです。

著者について

近藤健二郎 AWS Japan 合同会社
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 ソリューションアーキテクト

周成 NTT ドコモ Data Scientist
2021~現在 デジタルマーケティングツール開発/広告配信の最適化開発(NTTドコモ サービスイノベーション部)

宮木健一郎 NTT ドコモ Principal Data Scientist
2018~現在 デジタルマーケティングツール開発/レコメンドエンジン開発(NTTドコモ サービスイノベーション部)

小柳歩巴 NTT ドコモ Data Scientist
2019~2023 データ活用を軸にした新規事業開発(NTT東日本)
2023~現在 デジタルマーケティングツール開発/サーバーサイド開発(NTTドコモ サービスイノベーション部)