Amazon Web Services ブログ

AWS と SAP の生成 AI サービスを活用しセキュアでスケーラブルなビジネス環境に

はじめに

最新の技術を採用し、イノベーションを起こす能力は、組織が継続的な成功を収めるために必須の要件で、贅沢品ではありません。数千社の顧客が Amazon Web Services (AWS) 上でビジネスにおいて重要な SAP ワークロードを実行しており、ビジネスオペレーションの強化のための革新的なソリューション作りに新しい方法を求めています。最近、主流になってきた生成 AI 技術の発展により、顧客は Amazon Bedrock などの Amazon 生成 AI サービスを利用して、受注から現金化、調達から支払い、採用から退職、設計から生産などのビジネスプロセスでイノベーションを加速することを期待しています。このため、先週 AWS と SAP は 戦略的パートナーシップの拡大を発表しました。これには新しい生成 AI 機能も含まれています。Amazon Bedrock モデルが SAP AI Core の SAP 生成 AI Hub で利用可能になりました。これにより、SAP ERP を利用する企業は、SAP Business Technology Platform (SAP BTP) と Amazon Bedrock の基盤モデル(FM) を利用して生成 AI 対応のアプリケーション拡張を構築できます。このようにコアシステムを維持しつつイノベーションを行えます。このブログでは、AWS と SAP の技術的ガイダンスとして、「ジョイントリファレンスアーキテクチャ」(JRA) を提供します。これは、SAP エコシステム内で Amazon Bedrock の FM を利用したいお客様向けのものです。

AWS の生成 AI による構築

ビジネスシーンでの生成 AI 活用を検討するお客様は、生成 AI が企業全体のモダナイゼーション戦略を実現する上での指針を求めると同時に、SAP ワークロードに対するセキュリティやインフラストラクチャの信頼性についても高い水準を期待しています。生成 AI 技術を活用したモダナイゼーション、自動化、イノベーションを支援するため、完全マネージドサービスである Amazon Bedrock を新たにリリースしました。Bedrock では、AnthropicAI21 LabsCohereStability AIMistralMeta LlamaAmazon Titanなど、有力 AI 企業による高性能な基盤モデルを幅広く提供しています。
Amazon Bedrock には、プライバシーとセキュリティを確保しつつ、生成 AI アプリケーションの開発を簡素化するための包括的な機能が備わっています。主な機能には、自社データの取り込みによるモデルカスタマイズ、特定タスクに対するファインチューニング、社内ナレッジベース活用による発話精度向上 (Retrieval Augmented Generation)、さらには企業システムとのインタラクションによるタスク自動化に対応したインテリジェントエージェントの構築などがあります。Amazon Bedrock には、データの暗号化と SOC、ISO などの規格準拠により、セキュアな環境が提供されるため、革新的な AI 活用アプリケーションの開発に最適なソリューションといえます。

Generative AI Stack on AWS

AWS は、他の生成 AI サービスに AWS TrainiumAWS Inferentia のようなインフラストラクチャを提供し、お客様がクラウド上で AI モデルを効果的に低コストで学習・推論を実行できるようにしています。
さらに、開発者は Amazon Q Developer を活用し、自然言語でのコメントや統合開発環境 (IDE) 内の前のコードに基づいてリアルタイムにコード候補を生成することで、生産性を向上させることができます。

AWS と SAP のパートナーシップ

SAP と AWS は、2008 年からパートナーシップを結び、お客様が SAP アプリケーションをより効率よく実行し、イノベーションをよりスピーディに行えるようサポートしてきました。
SAP と AWS は提携し、モダナイゼーションの傘下にある実務的なビジネスシナリオに対処するための一連のリファレンスアーキテクチャを提案し、お客様に SAP Business Technology Platform (SAP BTP) を通じて AWS サービスの力を提供しています。
クリーンコアモデルを採用することで、これらのジョイントリファレンスアーキテクチャ (JRA) は、アプリケーション開発のフレームワークと SAP S/4HANA への統合された拡張機能を提供し、ビジネスプロセスの自動化と最適化を実現します。
SAP と AWS が共同で構築したこの JRA は、新しいスケーラブルなアプリケーション、分析ダッシュボード、または機械学習モデルの構築に関して、お客様に専門家による指針を提供しています。
AWS と SAP は、将来 SAP と AWS から新しいサービスや機能がリリースされた際に、JRA を適応させる予定です。

Amazon Bedrock の生成 AI モデルを SAP と統合 – ジョイントリファレンスアーキテクチャの概要

SAP では早い段階から生成 AI 技術を採用しており、SAP BTP 上で Generative AI Hub をリリースしています。SAP AI Core の Generative AI Hub は、目的別の AI 開発ツール、主要な AI 基盤モデルに対するエンタープライズグレードのアクセス、AI 搭載アプリケーション作成のための堅牢なデータ管理機能を提供しています。SAP AI Core の Generative AI Hub を通じて、Amazon Bedrock の生成 AI モデルを統合することで、SAP のお客様は Anthropic Claude3Amazon Titan などの基盤モデルにアクセスできます。このジョイントリファレンスアーキテクチャにより、SAP 顧客は生成 AI の採用を加速し、SAP ソリューションに基づく主要なビジネスプロセスをモダナイズできます。これらの革新的な機能は、RISE with SAP やインテリジェントシナリオライフサイクル管理機能の組み込みユースケースとして、または SAP BTP 上で直接統合コンポーネントやサイドバイサイドで利用できます。顧客は Generative AI Hub と AWS サービスを活用して、SAP のクラウドソリューションやアプリケーションポートフォリオ内でカスタム AI 機能を強化する生成 AI ソリューションを構築できます。これにより、財務、人事など、さまざまなビジネス機能で新たな洞察と最適化が可能になります。SAP と AWS は、SAP のクラウドソリューションとアプリケーションポートフォリオ内に AI 機能を組み込むため、Generative AI Hub における Amazon Bedrock 機能の活用を拡大する計画です。これには、財務やプロダクトライフサイクル管理など、さまざまな分野でのユースケースが含まれます。

より詳しくアーキテクチャと関係する様々なコンポーネントを見ていきましょう。

AWS for SAP Generative AI Hub

Amazon Bedrock: Amazon Bedrock では、API を通じて幅広い大規模言語モデル (LLM) から選択できます。この JRA では、AWS で大量のデータセットで事前学習された基盤モデル (FM) ファミリである Amazon Titan と Anthropic の Claude を利用しています。これらは様々なユースケースをサポートできるように設計された、強力で汎用的なモデルです。そのままでも使えますし、独自のデータで私的にカスタマイズしても利用できます。

SAP AI Core 内の Generative AI Hub: SAP AI Core サービスは、大規模な言語モデルなどの AI アセットを顧客に公開し、SAP BTP エコシステム上で実行される SAP アプリケーションに統一されたインターフェイスを提供します。このジョイントレファレンスアーキテクチャでは、SAP AI Core 内の Generative AI Hub を、Amazon Bedrock へのアクセスと、ライフサイクル管理レイヤーとして利用し、アプリケーションがファンデーションモデルを消費できるエンドポイントを提示しています。Generative AI Hub を通して、SAP は中央で、さまざまなコンテンツフィルタリング、SAP 特有のリスク軽減策、セーフティーガードレールなどを実施し、SAP 全体でのビジネス上、法的リスクに対するスケーラブルかつコンプライアンスを重視したアプローチを提供しています。

SAP AI Core の Generative AI Hub では、開発者が管理下の商用及び法的フレームワークを通じて、さまざまなプロバイダの幅広い大規模言語モデル (LLM) に即座にアクセスできるようになります。このアクセスにより、開発者は複数のモデルを編成できます。Generative AI Hub は、SAP HANA Cloud のベクトル機能にも接続されます。これにより、開発者はハルシネーションの問題を低減し、コンテキストデータを埋め込むことで、特定のユースケースに合わせてより適切な結果を提供できるようになります。

データの保存と取得: SAP HANA Cloud はマルチモデル データベース管理システムで、インテリジェントなデータアプリケーションを大規模に構築およびデプロイするのに役立ちます。SAP HANA ベクトルエンジンは、Retrieval Augmented Generation (RAG) をサポートして、LLM からより良い結果を得られます。

アプリケーション開発: Cloud Application Programming (CAP) モデルは、SAP Build を利用してクラウドアプリケーションを開発するアプローチの 1 つです。
CAP は、データモデリングをより構造化され、シームレスなフレームワークにし、他のサービスとの統合を強化します。
CAP はオープンソースと SAP のフレームワークを開発者に提供し、加速度的なイノベーションを通して開発を合理化します。
この JRA では、CAP を SAP UI5 フロントエンドにフロントされたアプリケーションのエンティティ層として使用しています。

認証と識別: 大規模言語モデルはできるだけ多くのデータが必要ですが、クエリ時のユーザー認証は無視されるため、統合が困難です。この問題を回避するため、SAP BTP と SAP Identity Provisioning サービス を使用して、モデルのプロンプトに SAP と非 SAP のアイデンティティライフサイクルを管理します。

これらのコンポーネントを統合して利用することで、お客様は Amazon Bedrock と SAP BTP サービスを活用してスケーラブルで信頼性の高い 生成 AI 対応の SAP アプリケーションをフルスタックで構築できるようになります。
この JRA パターンは、エンタープライズグレードの SAP ランドスケープ内のビジネスプロセス拡張に広く適用できるだけでなく、SAP が推奨するクリーンコアアプローチの維持にも役立ちます。

まとめ

このブログでは、SAP と AWS がお客様に提供する Amazon Bedrock の生成 AI 機能を SAP BTP で使用するためのリファレンスアーキテクチャに関するガイダンスについて説明しました。このアーキテクチャを使うことで、SAP ワークロードにこれまで大規模言語モデル (LLM) とトランスフォーマーモデル機能を補完し、SAP データの力を発揮してコストを抑えながらインサイトと運用効率を向上できるようになります。SAP と AWS は現在、ビジネス問題を解決し、自動化とイノベーションを通じてカスタマーエクスペリエンスを改善するために、SAP BTP 経由で Amazon Bedrock の生成 AI 機能を活用できる特定のユースケースを特定する取り組みを行っています。
続報をお待ちください。

2022 年〜 2023 年に AWS 上の SAP ワークロードのジョイントリファレンスアーキテクチャに関して、共同チームが発行した以下のブログをご覧ください。

SAP と AWS – 活用と投資を最大化するためのジョイントリファレンスアーキテクチャ
AWS と SAP – Amazon Monitron を使用した IoT シナリオのためのジョイントリファレンスアーキテクチャ

AWS for SAP や Amazon Bedrock の詳細は、AWS for SAPAmazon BedrockAWS 製品ドキュメント をご覧ください。
さらに専門家からのガイダンスが必要な場合は、AWS アカウントチームに連絡して、地域の SAP 専門ソリューションアーキテクトまたは AWS プロフェッショナルサービスの SAP 専門チームに問い合わせてください。

SAP on AWS に関する議論に参加

お客様のアカウントチームや AWS サポートチャネルに加えて、AWS for SAP ソリューションアーキテクトチームが AWS for SAP トピックの議論や質問を定期的に監視し、お客様やパートナーを支援するために答えられるような質問に回答する場を re:Post でも設けています。
質問がサポート関連ではない場合は、re:Post での議論に参加して、コミュニティの知識ベースに貢献することを検討してください。
AWS で SAP を実行されている数千を超えるエンタープライズのお客様について詳しくは、AWS for SAP ページをご覧ください。

謝辞

AWS と SAP のパートナーシップによるジョイントリファレンスアーキテクチャは、SAP と AWS の組織の深い協力とコントリビューションの結果です。
以下のメンバーの専門知識、サポート、ガイダンスに感謝いたします。

  • Team AWS: Sunny Patwari, Yuva Athur, Ganesh Suryanarayanan, Spencer Martenson, Steve DiMauro and Soulat Khan.
  • Team SAP: Madankumar Pichamuthu, Weikun Liu, Daniel Zhou, Sivakumar N and Anirban Majumdar.

翻訳は Partner SA 松本が担当しました。原文はこちらです。