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消費財業界におけるインバウンド滞留時間の改善戦略
トラック輸送の荷役に関わる滞留時間
インバウンド滞留時間とは、倉庫においてサプライヤー商品の搬入に要する時間のことであり、アウトバウンド滞留時間とは、倉庫から商品を目的の配送トラックに積み込むために費やされる時間のことを指します。荷役に関わる滞留時間の長さは、何年にもわたってトラック業界に圧力をかけてきました。これがドライバーと出荷者の両方に深刻な問題をもたらすことになりました。ドライバーは倉庫に到着すると、所定の時間内にトラックから荷を積み降ろしする必要があります。所定時間は運送業者によって異なりますが、一般的には 2 時間が適切なベースラインです。通常 2 時間を超えると「滞留時間」と見なされます。
このブログでは、荷役に関わる滞留時間を短縮するべくトラックの荷降ろしプロセスを最適化するために、取り組むべき滞留時間の課題と AWS サービスについて説明します。
消費財企業にとって荷役に関わる滞留時間を短縮することの重要性
インバウンド、アウトバウンドに関わらず、荷役に関わる滞留時間の長時間化は、ドライバーの効率性や輸送能力、安全性に影響を及ぼします。これはすべて、利害関係者にとってマイナスの経済的影響をもたらすものです。J.B. Hunt Transport Services のホワイトペーパーによれば、11 時間の運転時間のうち、道路上で走行している時間は平均して 6.5 時間にしか過ぎないということです。
滞留期間が長くなることに起因する課題は次のとおりです:
- ドライバーの収入の損失 -トラック業界で最も一般的な支払い方法はマイル単価です。この場合、荷役に関わる滞留時間はドライバーへの支払いに含まれません。
- 輸送コストの増加 – 配送業者は、標準的な 2 時間という荷降ろし時間枠を超過した待機時間の 1 時間ごとにドライバーに支払いをしなくてはなりません。
- 搬入口における人件費の高騰 – 残業して遅延した荷物の対応をしなくてはならない搬入作業従業員に、倉庫は残業代も支払わなければなりません。
- サプライチェーンの遅延 – これらは商品の在庫状況に悪影響を及ぼし、小売業者の売上損失と消費者体験の低下に繋がります。
- 運送業者との関係の悪化 – コストの上昇、苛立つドライバー、物流下流工程のスケジューリングの問題などに繋がります。
- ドライバーの安全性の問題 – 長時間の滞在によりドライバーの労働時間に影響を与え、疲労から来る事故のリスクを高める可能性があります。
消費財企業がインバウンド滞留時間を短縮する方法
消費財業界、特に食品、飲料、生鮮食品にフォーカスします。これらは一般的に短期間で消費されるためです。ただしこのブログで取り上げる課題と解決策は、他の消費財品種や、異なる業界にも当てはまることもあるでしょう。
また車両を管理するためのソフトウェアやデータを扱うシステムとしてフリート管理(車輌管理)システム、倉庫を管理するためのソフトウェアやデータを扱うシステムを倉庫管理システムと呼びます。
では、消費財業界における複数の物流状況下において、インバウンド滞留時間を短縮するための AWS ソリューションをいくつか紹介します:
荷下ろし予定の予約やリアルタイムナビゲーションの利用、荷積み荷おろしメカニズムの活用
Amazon のフルフィルメントセンターおよび倉庫では、Amazon Relay (訳注: 配送業者、トラックドライバー向けのアプリ)などのオンボーディングアプリケーション、スケジューリングアプリケーションを利用しています。Amazon Relay を使用することで、配送業者は Amazon のネットワークやテクノロジー、安全第一の文化を活用して、輸送ビジネスを構築、成長させることができます。
ドライバーは、荷降ろしの予約、荷物の状態の表示や管理、遅延を報告することができます。ドライバーは、携帯電話などのデバイスを介し、アプリ上でリアルタイムナビゲーションを使用することもできます。消費財企業はこのソリューションで配送問題を改善できます。
このような車両管理システムは倉庫管理システムと統合されており、プロセスを自動化してドライバーが荷積み荷下ろしのメカニズムを使用できるようにすることができます。荷積み荷下ろしプロセスを使用することで、ドライバーはインバウンドのコンテナロードを下ろし、ロード済みコンテナを積み込みます。これによりインバウンドとアウトバウンドの両方の滞留時間が短縮されます。さらに荷積み荷下ろしメカニズムによって倉庫の荷積み場を空けることもでき、全体的なスループットが向上します。
季節性の高い商品や足の速い生鮮食品の取り扱いについて
商品によっては季節性や時間に制約があるものも存在します。例えばハロウィーンのキャンディーが一例です。消費財企業、小売業者としては倉庫管理システムにおいて、季節性や時間に制約がある商品を他の商品よりも優先すべき状況が存在します。その際に他のドライバーの滞留時間遅延を引き起こしたり、違約金を負担したりすることのないようにしなくてはなりません。こういった季節性商品を優先する施策のためには、通常の先入れ先出し(FIFO)方式ではなく高度な計画機能が必要です。このような優先度付けは、数か月や数年でなく数週間の消費期限を持つ生鮮品にも適用されます。動的サプライチェーンソリューションは、このような変動需要の計画に役立つアーキテクチャタイプの一つです。
駐車場におけるコンピュータビジョンの活用
AWS は、AWS Panorama と呼ばれる高度なエッジコンピュータービジョンサービスを提供しています。倉庫の駐車場に設置されたカメラの画像を分析し、入ってきたトラックが利用できるスポットの数を判断します。この技術により、到着したドライバーにリアルタイムで予想される待機時間を通知し、ヤードのどのドックに駐車可能か詳細情報を提供します。
荷積み荷下ろしのピークタイムを予測
人手や在庫、スペースを計画するために、ピーク時の荷降ろし時間と荷積み時間を把握しておく必要があります。Amazon Forecast は Amazon.com も利用する AI ベースの技術を使っており、これらのオペレーションを容易にします。イベント駆動型のコンピューティングサービスである Amazon Lambda を介して Amazon Forecast データを処理し、そのデータを倉庫管理システムに渡すことで、管理者がデータ駆動型の意思決定を行いスケジュールと在庫を細かく調整することを可能にします。
リアルタイムの交通情報と気象情報の受信
交通渋滞は予測不可能なことが多く、一般的に車輌管理システムは API を介して気象および交通データをリアルタイムに更新しています。これら最新情報は、倉庫管理者が駐車場や在庫、作業量を計画することにも役立ちます。Amazon Simple Notification Service (SNS) は、気象や交通状況に基づいてルートを変更するようドライバーに SMS 通知を送信して知らせます。このトピックについての詳細は以前のブログで紹介したアーキテクチャを参照してください。
インバウンドの滞留時間を短縮するためのハイレベルな AWS ソリューション
次の図では、倉庫管理システムからのデータが AWS Glue と Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) を経由して最終的に Amazon Forecast による予測に利用されるプロセスを示しています。
- サーバーレスなデータ統合 AWS サービスである AWS Glue が、Amazon Forecast の必要とするデータを検出、前処理、結合します。
- Amazon S3 はどこからでもアクセス可能な、任意の規模のデータを取得するためのオブジェクトストレージサービスであり、各段階でデータを保持するために使われます。
- AWS Glue ワークフローがデータ変換処理の AWS Glue ジョブを起動します。
- AWS Glue ワークフローは、Forecast 内で必要な 3 つのステップ(データのロード、学習、予測)も制御します。
- 機械学習(ML)ベースの予測サービスである Amazon Forecast は、特定のユースケース向けにカスタマイズされた予測モデルを生成します。例えば季節性需要の可能性がある商品や、インバウンドの滞留時間を短縮するために事前発注しておくべき商品などがあります。
図 1 : AWS サービスで構成した、インバウンド滞留時間短縮のためのハイレベルソリューション
配送とロジスティクスプロセスの最適化
昨今、我々は皆、サプライチェーンのボトルネックの危機を感じています。大きな問題が発生している場合であっても、消費財企業が、あるいはサプライチェーンやロジスティクス、倉庫の管理者たちが、AWS テクノロジーを活用することで、配送とロジスティクス業界の負担となっている共通の課題を軽減することが期待できます。
これらの新しいソリューションが、配送とロジスティクスの課題を克服するためにどのように役立つかディスカッションしたい場合は AWS がお手伝いします。今すぐ AWS アカウントチームにお問い合わせください。
著者について
Michele Sancricca
Michele Sancricca は、AWS の輸送・物流テクノロジー担当です。以前は Amazon Global Mile のサプライチェーン製品の責任者を務め、世界で2番目に大きな海運会社である Mediterranean Shipping Company のデジタルトランスフォーメーション部門を率いていました。Micheleはイタリア海軍の退役士官で、12年間通信や部隊指揮官を務めました。
Alak Eswaradass
Alak Eswaradass は、イリノイ州シカゴを拠点とする AWS ソリューションアーキテクトです。お客様が AWS サービスを利用してビジネス上の課題を解決するためのクラウドアーキテクチャを設計する支援に情熱を傾けています。彼女はコンピュータサイエンスエンジニアリング修士号を有しています。AWS 以前はさまざまな医療機関で働いていました。複雑なシステムの設計や技術革新、および研究において豊富な経験を有しています。
Shailaja Suresh
Shailaja Suresh は、ソフトウェア製品のアーキテクチャ、戦略、デリバリにおいて 16 年の専門的な経験があります。彼女は AWS のシニアソリューションアーキテクトであり、お客様に AWS クラウドへのジャーニーのために、規範的な技術ガイダンスを提供しています。 Shailaja はエンジニアリングスキルを持ち、ソフトウェアエンジニア、アーキテクト、リード、およびプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしてきました。Shailaja は、メンタリングとコーチングを通じてチームに力を与えることができると強く信じています。
翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。