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【開催報告&資料公開】 通信業界向け事例祭り 2024:5G からサービス/DX 領域まで、通信業界の変革を支える最新クラウド活用動向
通信業界に関わられている方々を主な対象として、2024 年 11月 7 日に「通信業界向け事例祭り 2024:5G からサービス/DX 領域まで、通信業界の変革を支える最新クラウド活用動向」のオンラインセミナーを開催しました。ご参加いただきました皆さまには、この場を借りて御礼申し上げます。本ブログではセミナーの内容を簡単にご紹介します。
Overviewと見どころ
通信事業者のビジネスは、通信サービスのみに留まらず、金融決済やメディアエンタメ、E コマース・リテールなどのコンシューマー向けサービスや、IoT、ロボティクス、Smart City など B2B 向けソリューションに至るまで多様化しています。様々なビジネスの基盤として AWS の利用領域も広がっており、非通信サービスや法人向けビジネスの基盤だけでなく、通信事業設備や基幹系システムなどミッションクリティカル領域での活用、または AWS リージョンに限らずクラウドを延伸したオンプレミスとのハイブリッド構成など、ニーズや要件に応じて柔軟にシステムを構成することでビジネスを加速されています。
本イベントでは、通信事業者のお客様にもご登壇を頂き、以下3つのカテゴリにおけるクラウド活用事例をご紹介させていただきました。
- 5G コアや RAN など通信領域のクラウド活用の動向
- 通信以外のサービス領域・DXのためのクラウド活用動向
- 実行フェーズへと進む生成AIの導入事例と効果
近年のクラウド活用の動向としては次のような特徴が挙げられます。[1] マネージドサービスやサーバーレスの活用:既存のシステムをオンプレミスから AWS へ移行する際の戦略としてリホスト(またはリフト&シフトとも言います)を選択されるケースもあります、その場合はクラウドメリットを十分に活かしきれないケースが多いです。近年はその次のフェーズとしてマネージドサービスやサーバーレスをうまく活用し、クラウドネイティブ化・モダナイズによってその効果を最大限活用頂ける事例が増えています。[2] ミッションクリティカル領域への適応拡大:高い可用性・信頼性要件が求められるシステムにおいても、AWS の各種レジリエンス関連機能やインフラストラクチャーサービスを組み合わせ実現されています。[3] 生成AIの活用:2023年は多くの企業が生成 AI を自社ビジネスやシステムにどう取り込めるか模索された一年だった印象で、多くの PoC が実施されました。2024年は実サービスへの組み込み例も増えており、社内利用に留まらずコンシューマー向け利用含めた実行フェーズのユースケースが多く生み出されています。 [4] AIML とデータドリブン:データレイクや DWH を活用したアドホック分析に留まらず、Closed Loop を構成して、データ生成元から収集した分析結果を業務システムにフィードバックする形でデータに基づく意思決定の加速や自動化させるユースケースも増えています。
今回ご紹介する多くの事例においても、様々なニーズや課題に対して AWS をうまく活用することでビジネスを加速されています。これら事例から得られる優良なプラクティスの数々を是非ご参考頂ければ幸いです。
[1] 通信領域のクラウド活用
1-1 通信領域におけるクラウド活用動向
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第二ソリューション部 ソリューションアーキテクト 加藤 知愛
クラウドが価値を発揮出来る領域は広がりを続け、今では 5G コア、RAN などのミッションクリティカル領域での活用に至っています。本セッションではお客様が何をモチベーションにクラウドを選択し、どのような課題を解決しているか、いくつかの事例紹介を交えながらそのポイントをご紹介しました。
1-2 ソフトバンクの現場から- ネットワークオペレーションの改革- (サービス断ゼロへの挑戦)
ソフトバンク株式会社 モバイル&ネットワーク本部 ネットワークイノベーション統括部先進システム開発部 部長 加瀬 英行 氏
*配布資料および動画アーカイブはございません
図1-2-1 ネットワークオペレーションのクローズドループ
ソフトバンク株式会社様からはネットワークオペレーション改革の取り組みについてご紹介頂きました。同社では、サービス断のない安定した通信インフラを提供するため、ネットワークの障害検知から自動制御・復旧を実現するクローズドループの仕組みを導入されています。早期異常発見のため Streaming Telemetry によりリアルタイムに NW のデータを収集し、人の判断を仲介せず迅速なNWの状態判定と復旧をフルオートメーション化することが可能となっており、障害によるサービス影響を大幅に抑制されています。なお、ネットワーク監視おいては AI を活用し強化されています。NW 機器の大量のログデータの解析や、過去データに基づいた傾向監視(予兆検知)、さらに AI による誤検知抑制のための仕組みや、継続的なAIモデルの改善など、AIを効果的に活用する様々な仕組みを構築されています。
図1-2-2 NW状態自動判断および復旧自動実行のためのクラウドアーキテクチャー
システムの全体はAWSとオンプレミスのハイブリッド構成となっており、図1-2-2 の通りです。AWS 活用のメリットとしては、マネージドサービス活用による迅速な導入と AWS の QA サポートによって開発リードタイムを75%削減した他、柔軟なサイジングやインスタンスの変更によりスモールスタートでトライアルができた点、また Amazon CloudWatch を利用してハイブリッド環境においても統一した異常検知の仕組みを構成でき運用負荷軽減の効果も得られたとのことです。扱うデータ量が増える際に課題となるコストについても、都度アーキテクチャーを見直すことでうまくコントロールし、最適化を実現されています。ソフトバンク様はこれらの取り組みを通して「情報革命で人々を幸せに」することを目指し、今後も進化し続ける様々な次世代テクノロジーを支えています。
1-3 5G 通信ネットワークの効率化と自動化 〜AWS を活用した内製共通プラットフォームの実現〜
KDDI株式会社 コア技術統括本部 ネットワーク開発本部 木村 和紀 氏(写真左)
KDDI株式会社 コア技術統括本部 ネットワーク開発本部 高木 理絵子 氏(写真右)
KDDI 様においては、これまで 5G エリアの品質改善やカーボンニュートラルに貢献するシステムを開発されてきましたが、ユースケースの多様化に伴って基地局の複雑な制御を行う必要があり、開発・運用コストが膨れ上がることが問題となっていました。本セッションでは、制御の自動化やシステムの効率化を目指し、基地局のデータ収集・提供機能や、基地局の設定変更機能などを持つ内製の共通プラットフォームをどのように AWS で実現したかご紹介頂きました。
[2] サービス/DX 領域におけるクラウド活用
2-1 サービス/DX 領域におけるクラウド活用動向
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 情報通信・メディア・エンターテイメント・ゲーム・スポーツ・戦略事業統括本部 通信営業本部 アカウントマネージャー松富 諒
日々激変するビジネス環境の中で、通信業界においても従来の通信ビジネスを超えてサービス・DX 領域まで取り組みが広がってきています。本セッションでは通信事業者様のサービス・DX 領域におけるお取組みとそれを AWS がどのように支えているか事例も交えてご紹介しました。
2-2 KDDI の B2C 向けマルチテナント型 ID 管理サービス(IDaaS)における AWS の活用
KDDI株式会社 パーソナルシステム本部 ライフデザインプラットフォーム部 チームリーダー 藤川 和仁 氏
KDDI 様が提供する B2C サービス事業者様向けのマルチテナント型 ID 管理サービス「KDDI IDマネージャー」のシステムをオンプレミスから AWS に移行した事例です。マルチテナント型のサービスを AWS に移行するにあたっての注意点や課題への取り組み、サービスを AWS に移行するにあたりマネージドサービス活用などによる運用コスト・品質改善の取り組みについてご紹介いただきました。
2-3 大規模イベント時の急激なアクセス増加にも対応可能な DB 戦略
株式会社NTTドコモ 第一プロダクトデザイン部 映像サービス 第二技術開発担当 宮腰 優希 氏
映像配信サービス『Lemino』の開始にあわせて配信基盤を再構築し、同時視聴ユーザが数百万規模のライブ配信を実現した取り組みについて、主に DB 戦略に焦点をあててお伝え頂きました。性能面・機能面のスケーラビリティを向上するために、RDBMS 以外のデータベースも含め、機能ごとに最適なデータストアを選定するノウハウは、大規模配信にとらわれず全てのシステムのアーキテクチャ検討の参考となると思います。
[3] 生成 AI 活用
3-1 通信業界における生成 AI 活用動向
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第一ソリューション部 ソリューションアーキテクト 平川 大樹
急速に進化を続ける生成 AI は、PoC の段階から実際のビジネスシーンへの適用が始まっています。本セッションでは、通信業界における生成 AI の活用事例をご紹介しました。生成 AI を導入することで、業務効率化や新たなサービス創出の可能性を探り、皆様のビジネスに役立つ情報になるかと思います。
まとめ
今回のセミナーでは「通信領域」、「サービス・DX 領域」、「生成 AI」の3つをテーマに、通信事業者の様々なクラウド活用事例をご紹介しました。通信領域においては、通信ネットワークの監視や、AI による異常検知、基地局制御や復旧の自動化など様々なユースケースでクラウド活用が進み、通信品質の向上や省電力化などを実現されています。サービス・DX領域においては、コンシューマー向け動画配信サービスから、法人向け IDaaS サービス、人流分析ソリューションまで幅広いユースケースでの活用に広がっています。特に新規ビジネスや需要予測が難しい領域においても、クラウドの俊敏性や拡張性といった特徴が非常に効果的に機能し、メリットを活かした利用が増えていると言えます。生成 AI については、社内向けのナレッジ検索用途(RAG)だけでなく、コンシューマー向けサービスへの適用など、プロダクションレベルでの利用が増えています。さらに、通信事業向けにファインチューニングしたインダストリ特化型 LLM の開発など、新たな取り組みもご紹介いたしました。
今後も通信業界の皆さまに向けたイベントを企画し、情報発信を継続していきます。ブログやコンテンツも公開しておりますので是非ご覧ください。
通信業界参考情報
[1] AWS ブログ Telecommunications カテゴリ
[2] 業界別クラウドソリューション 通信業界向け紹介ページ
著者
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第三ソリューション部 部長/シニアソリューションアーキテクト 鈴木 浩之