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真のCDOは”消える”: Chief “Disappearing” Officer
今回のブログでは、 AWS ジャパン・パブリックセクターより、「従来の CDO の”D = Digital” とは異なるもう一つの”D”の考え方」──についてご紹介します。「空っぽの椅子」に座るのは誰かを考え、「組織の鏡」を用いる「ストーリーテラー」とは? ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、AWS Cloud Enterprise Strategy Blog へ掲載された「The CDO: Chief Disappearing Officer」と題された投稿の翻訳となります。)
“もしあなたの行動をきっかけとして、他の人たちに「もっと夢を見よう、もっと学ぼう、もっとやろう、もっと目指すところの存在になろう」────と思わせるなら、あなたはリーダーです。”
-ジョン・クインシー・アダムス
私[=英文版ブログの筆者である Phil Le-Brun]は、あらゆる分野のエグゼクティブにお会いする機会に恵まれていますが、その多くが「CDO」という新奇な肩書きをお持ちです。「D」は通常、”デジタル”または”データ”の頭文字を意味しています。CDO は、自分自身を仕事から「解放」するために、あるいは、今ある仕事を「不要」にするために積極的に働くべき存在です。彼らは、新しいサイロの創造者でもなければ、新しいアイデアが君臨統治する帝国の統治者でもない、従来とは「異なる存在」である必要があります。また、すでに行われていることをデジタル化するためだけに存在するのでも、もちろんありません。
チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)という役職について考えてみましょう。典型的な CDO は、デジタル・アプリケーションを構築した経験を持っていますが、その主な役割は、新しい、または付加的な仕事の「方法」を採用するように所属組織を誘導することでした。これは、残念ながら全面的な変革とは呼べるものではありません。企業の強みを生かし、応答性が高く、客観的で、外向きの組織が示す特性と融合させることがこれからの CDO には求められていきます。 ” D “を受け入れるために必要なマインドセットとスキルの変化を、段階的かつ持続的に注入していく役割を、従来の CDO は担ってきたのです。
私は、何百人もの顧客と話をし、また、約10年前にマクドナルドでデジタル戦略と CDO の役割を共同設計したチームの一員であった経験から、このような見解をこの場で述べているのです。当時、私たちは、この役割[=旧来型の CDO の役割]が設計通りに”永続”することはなく、[CDO という役職などすぐに廃れてしまい]およそ5年の寿命を全うすれば良い方であろう、と見ていました。結果的には、私の偉大な同僚が CDO の職を退いた1年半前に、すでに私たちの予想は外れていたのです[=彼は予想に反して10年近くもその職を勤め上げたのです]。
では、一般的に優れた CDO はどのような役割を担っているのでしょうか。また、なぜ彼らは「一過性(transient)」の役割であるべきなのでしょうか。
”空席”の椅子には、常に顧客が座っている
アマゾンの文化に組み込まれた一つのストーリーは、ジェフ・ベゾスがすべての会議で主張した「空の椅子(Empty Chair)」という考え方に表れています。これは、「Customer Obsession(訳注:リーダーは徹底的にお客様を起点に考え行動するという、Amazonの原則の1つ)」の体現であり、物理的にその場にいない顧客を象徴するものです。「顧客を中心にすべてを考えること」は、日々の業務に追われる中で時折、思い出したように考えればよいものではなく、すべての意思決定に浸透する哲学にまで昇華される必要があります。この原則を忘れてしまっては、たとえば保険会社やフランチャイザーは、ブローカーやフランチャイジーのような、より声の大きいローカルなステークホルダーを「顧客の代理人」として誤って扱うようになりがちです。この原則にこだわる CDO は、お客様をアジェンダの中心に常に据えて考え、行動することを支援します。多くの企業が見過ごし、今日でも答えられないような、次の一連の単純な質問をすることができるのです。────「真の顧客とは誰なのか? 私たちのブランドとお客さまとの出会いはどのようなものなのか? 彼・彼女たちは何が不満なのか、なぜそれがわかるのか?彼・彼女らは本当は”何”を望んでいるのか?」、と。
組織の鏡
2021年に10,000人のビジネスリーダーを対象に行った調査では、実際に変化することよりも、「なぜ変化が必要なのかを正当化すること」の方が簡単であることが明らかになりました。9割のリーダーが、顧客を十分に理解し、対応できていないことに悩んでいることを認めていますが、この問題に対処するために変革が必要だと考えているのは、わずか5割でした。では、残りの50%は、「顧客のほうが変わること」でも期待していたのでしょうか。これは、10年前には一般的な考え方でした。
CDO は、謙虚に前提を覆し、客観的なデータを通じて主観的な信念を問い、他の人々が正当化しようとする不快な真実を指摘し、組織を「鏡」のように見つめることができるのです。また、ビジョン・ステートメントと実際の実行の間にあるギャップを指摘します。この「言うこと」と「やること」のギャップについて、組織の責任を追及し、「顧客にとって本当に重要なことを把握するための指標」に焦点を当てる方法についての議論を CDO は推進します。さらに、リーダーシップの統一がなされていないことを指摘することも厭わない。どの「D」であるかにかかわらず、こうした変革はチームスポーツでなければなりません。
ストーリーテラー
変革、そして一般的なチェンジマネジメントには、ストーリーテリングのスキルが必要です。優れた CDO は、「D」を解読し、「デジタル」がビジネスにとって何を意味するのか、また「アジャイル」のような私たちが使い古した他の言葉についても、深い理解と適切な文脈を提供することができます。また、データを使って、時間とお金の無駄を省き、より競争力のある活動や迅速な意思決定に振り向けることができることを示し、例え話や比喩を使ってこれらの機会を生き生きと表現します。私のお気に入りは、「テクノロジーは私にとってとても重要なので、自分のデータセンターが必要だ」──という意見に対する反論です。こう言うのです:「しかし、同じ論理で、なぜ自分の発電所も作らないんですか?」と。CDO は、官僚主義や、競争優位をもたらさない社内力学や業務への支出を減らし、真の企業成長を促進するためのイメージを描くことに貢献します。
このような優れた CDO は、データやデジタルが「成果」であることにこだわることはありません。その代わりに、ビジネス上の成果を達成するための「ツール」として、データやデジタルをどのように「活用するか」に焦点をあてています。より良いカスタマー・エクスペリエンス、製品、サービスがどのようなものであるか、そしてなぜそれが社員全員にとってエキサイティングなものであるべきなのかを、具体的に示しているのです。また、ビジョンと従業員の日々の生活を結びつけ、私たち一人ひとりが抱く極めて人間的な疑問──”それって、私になんの関係があるんだろう?”──にも答えていきます。また、「デジタル」を新たな独立した戦略としてではなく、ビジネス戦略に不可欠な要素の一部分として捉え、未知なるものへの恐怖を克服し、未来への好奇心と興奮を持てるよう、仲間やチームをサポートしてくれます。
教育者
「専門知識のない好奇心」や、「実践のない学習」は、どちらも無駄なものです。CDO は、”デジタル”とはテクノロジーと同じくらい、いや、それ以上に”マインドセット”であり、C-Suite レベルから下のメンバーたちに向かって「アップスキルの必要性」の浸透を、声高に、明確に示してくれます。実際、彼らは「継続的な学習が現代の組織とリーダーの特徴」であり、「現代の職場とは学習の場である」と考えています。Amazonの “Learn & Be Curious “というリーダーシップ・プリンシパルには、「あなたがシニアリーダーでない限り!」という注意書きは付随していません。CDO は、各人各様の学習スタイルを認め、必要なときに必要な学習を提供するために、さまざまな学習方法と学習機会を創出します。
CDO は、組織のあらゆるレベルが、顧客のニーズを解決するためにテクノロジーがどのように関わっているのか(あるいは関わっていないのか)を理解し、クラウドなどのテクノロジーを脱-神秘化(demystify)することを支援します。また、日常的な議論に顧客中心主義の用語を取り入れ、「なぜ」と尋ねたり、「わからない」と言える自信を全階層のメンバーに持たせます。
文化的ナビゲーター
優れた CDO は、自らを新しく改善された IT 部門として売り込むことはしません。CIO、そして最近ではチーフ・ピープル・オフィサー(CPO)と協力し、デジタルやデータを活用した変革、すなわち顧客を中心とした文化的、スキル的、技術的な変化を実現する役割──として、自らを定義します。彼・彼女らは、自分たちが作りたい文化について明確にしていますが、どのような新しい働き方が効果的で、自社に合った規模に拡張できるかを見極めるために実験をしていきます。従来の CxO は縦割りのサイロを作り出しましたが、CDO は「横=水平方向のサイロ」を作り出し、組織を横断して価値を提供し、従業員に力を与えます。CDO は、部門横断的なチームを編成し、顧客との実験を奨励します。また、報酬や評価の仕組み、職務、ガバナンス構造などの社内プロセスが、このような反復的、実験的な考え方をどのようにサポートしくれるものか──を評価します。そして、過去の成功体験の継承と、将来の機会を意識的に推進する役目を担います。
破壊的(disruptive)でなく
「決断的(determined)」
最後に、CDO は高い EQ を組織にもたらします。組織全体の変革が必要な場合、専門家であることだけでは、不十分です。彼らは謙虚で、組織を「救う」のではなく、組織を「進化させる」役割を担っていることを理解しています。そして、私が現代のリーダーの中核と考える3つの特性、粘り強さ(persistence)、レジリエンス、そしてユーモアのセンスを備えているのです。このような変化には時間がかかります。進化に成功した多くの組織を見ると、3~5年はかかるものです。優れた CDO はこのことを理解しており、挫折さえも学習の機会ととらえ、自らの誤りを進んで示すこともできるのです。
最も成功した CDO は、単にデジタル・プロジェクトを行うだけでなく、「組織の文化自体を、真にデジタル的なものへと導いていく」存在です。これは、最高データ責任者(Chief Data Officer)についても同じことが言えます。私が出会った優れた CDO は、データを単なる洞察を生む素材ではなく、誰もが行動を起こすために利用できるリソースとして位置づけること──を目指しています。もちろん彼らは組織の力学を理解していますが、政治に深く入り込むことなく、別の基準で自らを律し行動していきます。
このような変革に終わりはなく、継続的に改善する能力を組織に与えるものでなければなりません。とはいえ、ある時点で、CDO は変革のフライホイール(flywheel of change)を回し始めたならば、中心的なオーケストレーターの任務から身を引いて、次のチャレンジに移る時期がやってきます──それは同一の社内での Chief Customer Officer の役割かもしれませんし、新天地の他社・他機関でのまったく新しいロールかもしれません。
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- “クラウド人材: Buildするか、Buyするか?” (2022年2月)
- “クラウド人材育成のため、AWSはアジア太平洋地域と日本での支援を強化” (2021年11月)
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このブログは 英語原文の投稿をもとに、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳し、冒頭と Learn More 部分については加筆しました。
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