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日本最速のスーパーコンピューター「富岳」はなぜAWS上で仮想化されたか
本記事は、2024年4月16日に公開された Why Fugaku, Japan’s fastest supercomputer, went virtual on AWS を翻訳したものです。翻訳は Solutions Architectの佐々木が担当しました。
世界で最も有名な山頂の1つに登ろうとするとき、最初に山へのアクセスのしやすさを考える人は少ないかもしれません。富士山はその高さと裾野が広いことで有名ですが、国によって登山道が整備されているため、初心者のハイカーでも時間をかけずに登ることができます。現在、世界最速のスーパーコンピューターの1つである「富岳」の開発者たちは、このスーパーコンピュータをアマゾンウェブサービス(AWS)クラウドでもアクセスできるようにしようと取り組んでいます。日本の多くの人に親しまれている名前をもつ「富岳」は、日本政府の国家プロジェクトとして、日本の理化学研究所計算科学センター(R-CCS)が富士通と共同で開発したスーパーコンピューターです。
「富岳は富士山の別名です。スーパーコンピューターを「 富岳」と名付けたのは、富士山が日本で最高峰だからです。同時に、裾野が非常に広く、より多くの人々が「富岳」をより広い社会問題のために使ってほしいという私たちの願いとちょうど一致しています。」と、R-CCSの松岡聡センター長は述べています。
基礎科学から実生活へもたらすインパクトまで
スーパーコンピューターは、最新のノートパソコンの100万倍の計算能力を備えています。「富岳」は16万ノードと800万の中央処理装置(CPU)コアを備えた巨大なスーパーコンピューターです。「富岳」は2021年3月に完成し、本格的に運用を開始して以来、社会のニーズに応えて多くの分野で利用されてきました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの間、ウイルスの飛沫がどのように拡散するかを「富岳」を使って詳細にシミュレーションしました。その他の例としては、薬剤候補の探索、経済的および社会的影響の予測、次世代太陽電池、洋上風力発電、線状降水帯予測、心臓シミュレーターなどがあります。
スーパーコンピューターを支えるスーパーリーダーシップ
AWS re:Invent 2023で松岡センター長は「バーチャル富岳:AWS上にオリジナルの環境を再現」というセッションに登壇しました。
「富岳」を語るには松岡センター長の話を欠かすことができません。松岡センター長は、2018年4月にR-CCSのセンター長に着任され、スーパーコンピューターの開発を指揮しました。「富岳」の民主化と、果てしない社会的課題への実践的アプリケーションの普及を支えた先駆者です。
「富士山は標高が高いにもかかわらず、道路や登山道の手入れが行き届いているので、誰にとっても登りやすいです。これは、世界で最も使いやすいスーパーコンピューターである「富岳」の理想的な姿です。「富岳」はイノベーションサイクルをはるかに速くするでしょう」と松岡センター長は述べます。
AWS による仮想化
クラウドで科学を進めるにはリーダーシップが必要です。松岡センター長によると、オンプレミスで稼働する「富岳」は「利用率は95%で常にフル稼働の状態です」。AWS クラウドを使用することで、「富岳」 はより優れた計算能力と影響力を活用できます。「これらの科学的成果が広まり、実際に社会に影響を与えるためには、この16万ノードのマシンを構築するだけでは十分とは言えません。「富岳」の価値は、ハードウェアだけでなく、アプリケーションを含むソフトウェアソリューションでもあります。だからこそ、私たちはAWSと協力して富岳アプリケーションをAWSクラウドに拡張しました」と松岡センター長は言います。「「富岳」のスーパーコンピューティング環境をクラウドに直接移すことでアプリケーションをクラウドで利用できるようになり、単一のシステムで動かすよりもはるかに大きな影響をもたらしました。」
AWSとのコラボレーションにより、「富岳」の環境をAWS上に複製し利用できる「バーチャル富岳」が誕生しました。「バーチャル富岳」は、スーパーコンピューター用に開発されたソフトウェアをそのままAWSクラウド上で実行する方法を提供します。
AWSにおける「バーチャル富岳」は、企業が秘密にしておきたい最先端の研究に簡単に使用できるため、利用範囲を広げることができます。たとえば、創薬や材料開発に使用される分子動力学ソフトウェアである GENESIS は、2023 年 12 月に AWS で利用できるようになりました。特に、2023年に実施された概念実証(PoC)では、複雑な計算やシミュレーションにおいて、AWS上の「バーチャル富岳」はオンプレミスの結果より2倍速いことが証明されました。
科学ワークフローへの道を開く
「今日の科学は、ワークフローのさまざまな要素の集合です。科学者がカスタマイズしたワークフローを簡単に構築できるプラットフォームの必要性は、ますます高まっています。そのため科学インフラにAWSが不可欠です」と松岡センター長は言います。「これらのハイパースケールノードはAWSの可能性をさらに広げることにもなります。イノベーションのサイクルを早めるために、私たちが協業できる領域はまだたくさんあります」と彼は付け加えました。
「富岳」はただのスーパーコンピューターではありません。それは科学のブレイクスルーのための触媒であり、計算の力を社会の進歩の最前線にもたらすものなのです。そして旅はなおも続いていきます。
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さらに、日本のお客様向けの参考情報として、先日開催されたAWS Summit Japan において理化学研究所 計算科学研究センター 運用技術部門 部門長の庄司様にヴァーチャル富岳がめざすもの -スパコンとクラウドの幸せな関係-というセッションで登壇いただき、「バーチャル富岳」の取り組みについてご説明いただきました。こちらも合わせてご覧ください。