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AWS、気候変動対策のための「Compute for Climate Fellowship」の拡大、および2025年の応募受付開始を発表

AWSとIRCAI (International Research Centre on Artificial Intelligence)は、2023年から実施しているプログラム「Compute for Climate Fellowship」を拡大し、2025年は最大20社を受け入れ採択社のアイデアを実現するために最大400万米ドルを提供することを発表しました。このプログラムは、生成AIやハイパフォーマンス・コンピューティングなどの先進的なクラウドコンピューティングを活用し、気候変動との戦いにおける課題解決を目指すプロジェクトに資金を提供します。今回の応募の締め切りは2025年4月6日(米国西海岸時間)となります。

2024年の気温が20世紀の平均気温を1.29°C上回る記録的な高温を記録する中、気候危機への解決策は世界的に急務の課題となってりおります。2024年だけでもこうした影響を受け世界では様々な気候変動による大規模な自然災害が起き、学術発表によると、2024年地球上ではブラジルの数百の町での洪水西アフリカとサヘル地域での48°Cを超える致命的な熱波米国でのハリケーンによる800億米ドルの被害スペインでの壊滅的な洪水など各地で被害が起きています。

こうした状況が続くなか、AWSは IRCAIとともに2023年から実施している「Compute for Climate Fellowship」を拡大し、さらなる気候テック・スタートアップへの支援を強化を発表しました。これらの中心となるスタートアップはイノベーションの原動力であり、特に気候テック・スタートアップは、気候変動に対する新しい革新的な解決策を主導する上で重要な役割を果たすと予想されています。これらのスタートアップは、温室効果ガスの排出削減、大気中からの炭素除去、気候変動の影響への適応と準備を支援するための画期的な新しい科学技術を生み出し、現代の最も緊急な課題を解決できる持続可能なソリューションの創造をリードしています。AWSでは、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)、人工知能/機械学習(AI/ML)、生成AIなどの高度なコンピューティングサービスへのアクセスと、これらのソリューションを効率的かつ確実に構築するための専門家のガイダンスを提供することで、これらのスタートアップがさらに迅速に前進できると信じています。

気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップの資金を2倍に拡大

2023年、AWSはユネスコ(UNESCO)の後援を受ける国際人工知能研究センター(IRCAI)とのパートナーシップのもと、Compute for Climate Fellowshipを立ち上げました。このプログラムは、生成AIやハイパフォーマンス・コンピューティングなどの先進的なクラウドコンピューティングを革新的に活用し、世界が気候危機により迅速に対応できるようにする画期的な実証実験(POC)に対して、AWS クレジットの形で助成金を提供する、グローバルで初めての研究開発資金提供プログラムとなります。プログラムに採用された各フェローシップ参加企業は、AWSの資金提供を受け、AWSとIRCAIの技術および科学アドバイザーのサポートのもと、画期的な気候変動対策ソリューションのPOCを構築します。

このたび、プログラム3年目となる2025年では気候変動の影響が世界中で危惧される中、AWSとIRCAIはプログラムの規模を2倍以上に拡大し、世界中から最大20社を受け入れ、総額400万米ドルまでの資金提供を行います。これは2024年の8社、150万米ドルから大幅な拡大となります。

2025年度 気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップの応募受付開始

現在スタートアップ対象に2025年のCompute for Climate Fellowshipへの応募を開始しています。応募期限は2025年4月6日午後11時59分(米国東部時間)までとなります。それ以降に提出された応募は、2026年のプログラムの選考対象となります。

昨年同様、このプログラムはグローバル規模で、すべての国のスタートアップが対象となります。気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップでは、大胆な発想を持ち、先進的なクラウドコンピューティングを最も革新的に活用し、グローバルな影響力が最も期待できるご提案をお待ちします。なおこのプログラムに応募するスタートアップの取組には、気候変動との戦いにおける以下の主要な解決分野の少なくとも1つを含む必要があります。

  1. クリーンエネルギー
  2. 低炭素輸送
  3. 持続可能な農業と食糧
  4. 循環型経済/製造/産業
  5. 持続可能な建築
  6. 温室効果ガス算定とサステナビリティ管理
  7. 炭素除去
  8. 環境(水、汚染、生物多様性)と気候リスク
  9. 2025年フェローシップの新規分野:気候危機に対する先住民族のソリューション

新しい第9の解決分野:先住民族のソリューション

今年、より多くのグローバルなスタートアップに適用できるよう、様々な観点からフェローシップの範囲を拡大します。2024年の8つの解決分野に加えて、先住民族コミュニティのイノベーターによって構築された技術活用型の気候変動ソリューションの提案も募集しています。なぜならば、先住民族が気候変動対策の重要なリーダーであることを理解しているからです。世界中のこれらのコミュニティは、気候変動による広範な影響を受けている一方で、気候危機や生物多様性の損失に対する強力なソリューションとなる伝統的な知識、イノベーション、実践を有しています。プログラムは先住民のイノベーターたちや気候危機に対するソリューションを支援しており、関連する企画提案の募集を行っています。

先住民族のソリューションの一例は、カナダのFirst Nations(補足説明:カナダでは、イヌイット、メティとともに、1982年憲法法第35項で先住民としての権利が確認されている3つの主要な先住民族グループのひとつ)と密接に協力しているCompute for Climate Fellowship企業のHum.AI(旧Coastal Carbon)です。Hum.aiのフェローシッププロジェクトは、生物多様性を追跡・監視できる生成AI基盤モデルのトレーニングを行っています。Hum.aiはFirst Nationsとパートナーシップを組み、両者が生態系の回復に役立つ知見を提供しています。

Hum.aiのCOOであるThomas Storwick氏は次のように述べています。「私たち(Hum.ai)は、沿岸監視プロジェクトにおいて、現場/水中パートナーとしてFirst Nationsのコミュニティと協力できることを非常に嬉しく思っています。First Nationsは太古の昔からこれらの生態系の管理者であり、そのため、私たちが協力する中で最も効果的で、知識が豊富で、深く関与しているパートナーであることが多いのです。彼らはまた、生態系の変化による影響を最も受けやすい立場にあるため、私たちが地球とその変化を理解しようとする際に、彼らを参加させることは極めて重要です。」

過去の受賞者

気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップの最初の2年間で、以下の世界で最も革新的な気候テック・スタートアップを採択してきました。
2024年

  • Aigen(米国)- 太陽光発電の自律型除草ロボットを通じて、除草剤を使用しない作物保護と高解像度の知見を提供し、食品品質を改善し農業汚染を削減
  • Asoba(南アフリカ)- アフリカ初のバーチャルパワープラント(VPP)をAI駆動プラットフォームで構築し、配電の最適化、グリッドの回復力向上、分散型の持続可能なスマートグリッドシステムをサポート
  • Brightband(米国)- 生成AI駆動ツールで気象・気候予報を民主化し、極端気象の予測を改善
  • Cosma(フランス)- 水中マイクロドローンとAIを使用して、海底の生物多様性の環境調査を実現
  • Matter Intelligence(米国)- 超分光・熱画像衛星群と AI、ML、HPCを組み合わせて地球環境のモニタリングと生物多様性の追跡を実施
  • Lithos Carbon(米国)- 強化型岩石風化作用により農業土壌での炭素回収を加速
  • Smartex(ポルトガル)- AI搭載の布地検査とデジタル管理プラットフォームを構築
  • Thea Energy(米国)- プログラム可能な平面磁石を使用した独自のステラレーター核融合技術を開発

2023年

  • Hum.AI(カナダ)- 自然界の生物多様性を追跡、予測、保護する生成AI基盤モデルを構築
  • Phytoform Labs(英国)- より気候変動に強い植物を作るための新しい作物遺伝子を発明するAIモデルを開発
  • Realta Fusion(米国)- 産業用熱力と電力の脱炭素化のためのコンパクトな磁気ミラー核融合エネルギーシステムを開発
  • Xatoms(カナダ)- AIを使用して汚染水を浄化できる物質の分子を発見する水処理スタートアップ

フェローシップの一環として、これらの企業は研究開発(R&D)を加速し、成長の新たな機会を生み出すPOCを構築しました。

例えば、Realta Fusionは、Amazon EC2 HPCインスタンスElastic Fabric Adapterを使用して、クラウド上で初めてのプラズマ安定性シミュレーションを開発しました。このPOC以前は、米国内でこれらのシミュレーションを処理できるスーパーコンピューターは国立研究所に2台しかなく、1年待ちの状態でした。

Realta Fusionの共同創設者兼最高科学責任者のCary Forest博士は次のように述べています:「AWSクラウドコンピューティングの進歩により、磁場閉じ込め核融合エネルギーシステムの研究を加速する新しい道が開かれました。このような集中的なプラズマ物理シミュレーションがクラウドで実行されたのは初めてです。」

PhytoformのCTOであるNicolas Kralは、「気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップは、農業の持続可能性を向上させるというPhytoformのミッションにとって非常に重要です。AWSとIRCAIの支援により、R&Dを強化し、未来の食糧を確保するための独自のアプローチを加速することができました。」と述べています。

プログラムの特典

今年は、様々な規模と複雑さのプロジェクトを募集しており、AWSの先進的なコンピューティングを使用して気候危機に取り組む画期的な2-3カ月のプロジェクト(POC)を構築する最大20社を採択します。AWSは気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップとして、AWSクレジットの形で総額最大400万米ドルを提供します。2-3カ月で完了可能で、気候危機に対する新しいソリューションを生み出す大胆な発想を持つ提案を募集します。

フェローシップを通じて、IRCAIとAWSは、グローバルな気候テック・スタートアップに以下のような様々な専門家や技術リソースへのアクセスを提供し、POCの構築を支援します:

  • POCのクラウドコンピューティングコストをカバーするAWSクレジット
  • パーソナライズされた技術サポートとメンターシップを含む3カ月間のPOC構築期間
  • 量子コンピューティング、HPC、生成AIツールなどの先進的なコンピューティングサービスへのアクセス
  • IRCAIとAWSのメンターによる先進的なコンピューティング、AI、サステナビリティ、倫理に関する専門家のガイダンス
  • Amazon、国連、国際機関を通じた成果の紹介

さらに、すべてのPOCはUNESCOのAIに関する倫理的影響評価のガイドラインに基づいて設計されます。これにより、各ソリューションが安全で信頼できる技術で構築されることが保証されます。応募したものの選考されなかったスタートアップにも、最大5,000米ドルのAWSクレジットが提供されます。また、IRCAI Industrial Clubへのご招待も予定されています。

気候変動対策のためのコンピューティング・フェローシップへの応募方法と応募資格については以下のウェブサイトをご覧ください:
https://ircai.org/ircai-and-aws-climate-fellowship/

リスベス・カウフマン

リスベス・カウフマンは、Amazon Web Servicesの気候テック・スタートアップBDチームの創設者兼責任者です。彼女のミッションは、AWSのクラウド技術へのアクセスを通じて、優れた気候テック・スタートアップの成功を支援し、世界の気候危機を解決することです。彼女のチームは、気候テック・スタートアップが障壁を乗り越え、規模を拡大するために必要な技術リソース、市場展開支援、そしてネットワークを提供しています。

気候変動とスタートアップの分野での専門知識を持つリスベスは、AWSに参画する前にはForbesが「カメラのAirbnb」と呼んだシェアリングエコノミー企業KitSplit.comと、米国内のあらゆる住所の気候リスクレポートを分かりやすく提供するLucidHome.coの創業者兼CEOを務めました。

起業家になる前は、米国上院でエネルギー/環境/農業政策のアドバイザーとして気候政策に携わり、初の省エネ改修プログラムを構築し、農家向けのクリーンエネルギー法案を作成して法制化を実現しました。

イェール大学で学士号を取得し、NYUスターン経営大学院でMBAを取得(学部長奨学生)。Techstars、Venture for Climate、Entrepreneurs Roundtable Acceleratorのメンターとして、気候テック企業の創業者に対して、製品開発、成長戦略、資金調達に関するメンタリングを行うとともに、AWSやAmazonのチームとの戦略的な関係構築を支援しています。

※現地時間2025年3月4日にAWS Startupsで公開された発表を日本語に再編集したものです。内容および解釈については英語のオリジナルが優先されます。