AWS Startup ブログ

スタートアップ各社は生成 AI をいかにしてビジネスに活用するか【AWS Summit Japan】

AWS について学べる日本最大のイベント「AWS Summit Japan」が、2024 年 6 月 20 日(木)、21 日(金)の 2 日間にわたり開催されました。「AWS Summit Tokyo」では各種の基調講演や 150 を超えるセッション・企画、会場内のブースによって AWS の知識を身に付けられるだけではなく、参加者同士でベストプラクティスの共有や情報交換ができます。

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開催された事例セッション、

  • 「次世代自動運転のための LLM 開発:大規模モデル学習とエッジデバイス環境の実現」(スピーカー:Turing株式会社 Director of AI 山口 祐 氏)
  • 「生成 AI と共にビジネスを変革する:注目スタートアップの Amazon Bedrock 活用事例」(スピーカー:株式会社スタディスト 開発本部 エンジニアリング部 SRE ユニット 若松 晃洋 氏)
  • 「ハルシネーションを抑制した生成 AI が生み出す顧客事例とそのアーキテクチャ解説」(スピーカー:ストックマーク株式会社 取締役 CTO 有馬 幸介 氏)こちらのレポートをお届けします。詳しくはアーカイブ配信をぜひご覧ください。

次世代自動運転のための LLM 開発:大規模モデル学習とエッジデバイス環境の実現

Turing株式会社 Director of AI 山口 祐 氏

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Turing株式会社は、AI とカメラのみを用いてあらゆる条件下で車が人間の代わりに運転操作を行う「完全自動運転」の実現を目指すディープテックスタートアップです。生成 AI などの最新技術を積極的に取り入れ、この難易度の高い目標を達成しようとしています。2030 年の時点で自社による 1 万台の完全自動運転 EV 量産を目指しているのです。

同社は経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」にも選定され、2024 年 4 月時点で累計資金調達額は 45.5 億円に達しました。また、ユニークな点として「We Overtake Tesla(我々はテスラを超える)」というミッションを掲げています。CEO を含め著名な AI エンジニアが多数在籍していることも特徴です。

自動運転の実現方法には大きく分けて 2 種類が存在します。ひとつは「センサー + HD map 方式」であり、LiDAR・レーダーなどの多数のセンサーと事前に計測した高精度マップを組み合わせることで車両を制御します。この方式は 2000 年代から用いられており、Waymo 社など多数の企業が採用しています。

もうひとつは「Vision Centric 方式」で、主にカメラの映像のみで周囲を認識して運転操作を行います。深層学習モデルとの組み合わせにより、近年急速にこの技術が高度化してきました。この方式は 2010 年代から登場したものであり、Turing 社や Tesla 社などの企業が採用しています。

自動車が通行する道路というのは、決して「全く同じ場所」は存在しません。周辺にある道の形状や信号機の配置、建物、交通量など何もかもが異なっています。そこで Turing 社では、周辺の環境を画像データとして捉えたうえで、LLM を用いてその状況を認知し論理的に思考して運転する手法を採用しています。この方式を実現するための工夫や AWS を活用したアーキテクチャなどを山口 氏は解説しました。

生成 AI と共にビジネスを変革する:注目スタートアップの Amazon Bedrock 活用事例

株式会社スタディスト 開発本部 エンジニアリング部 SRE ユニット 若松 晃洋 氏

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株式会社スタディストが開発・提供する「Teachme Biz」は、マニュアルの作成・共有・管理を簡単 & シンプルにし、企業の生産性向上を実現するサービスです。2023 年 5 月より「Teachme Biz」では、AI でマニュアルの作成をサポートする新機能として「AI アシストプラス(β 版)」を提供、2024 年 6 月には正式版として「Teachme AI」をリリースしました。

スタディスト社内では 2023 年 3 月から、部門横断で有志が集い、生成 AI の技術をプロダクトに組み込むための技術検証のプロジェクトが発足しました。マニュアルの作成には、かなり煩雑かつ長期的な作業が必要になります。作業担当者の負担が大きいため、生成 AI によってその負荷を軽減できれば大きな価値につながると、同社は考えたのです。

もともとスタディスト社では、他社製のマネージドサービスを利用して生成 AI を動かしていました。しかし、セキュリティや運用工数などの課題が生じたため、Amazon Bedrock への移行を行ったのです。

Amazon Bedrock で提供されている各種のモデルのうち、同社ではテキスト生成や画像生成に関連するモデルを活用しています。テキスト生成に関しては Claude3 を採用し、マニュアルのドラフト作成や動画字幕からのステップ自動生成、要約・校正、言い回しの変換などの処理を行っています。画像生成に関しては Stable Diffusion XL を採用し、こちらは検証中のフェーズ。マニュアルの表紙やステップの画像を生成するために利用予定とのことです。

本セッションではプロダクトに生成 AI を組み込む際のポイントや生成 AI を利用するための社内調整、そして Amazon Bedrock を導入した流れといった一連の情報を若松 氏が解説しました。

ハルシネーションを抑制した生成 AI が生み出す顧客事例とそのアーキテクチャ解説

ストックマーク株式会社 取締役 CTO 有馬 幸介 氏

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ストックマーク株式会社は、AI を活用した企業向け情報収集・資料作成支援サービスを提供するスタートアップです。自然言語処理によって国内外の膨大なファクトニュースやオピニオン記事を収集・分類・可視化して市場調査を行う「Astrategy」や、ビジネス特化の AI によりビジネスニュースや論文・特許、社内ドキュメントなどの推薦・検索・要約ができる「Anews」を運営しています。

IT 専門調査会社である IDC Japan の調べによれば、ホワイトカラーの業務の 65% は情報収集と資料作成に費やされているといいます。しかし、これらの業務における生成 AI の活用は極めて限定的です。その大きな要因として、生成 AI が出力するハルシネーション(もっともらしい嘘)が、導入の妨げになっているのです。ハルシネーションが含まれるコンテンツをもとにしてビジネスの意思決定やクライアントへの情報連携を行えば、事業に問題が発生してしまいます。

そこでストックマーク社では、ハルシネーションを抑制してビジネスの現場で活用できるような LLM を開発しています。他社製の LLM では正答率約 40% であるビジネスドメインの問いに対して、ストックマーク社の LLM は正答率約 90% を達成しています。また、回答できない質問に対してはでたらめな回答をするのではなく、「回答できない」と出力するという信頼性の高い LLM を実現しているのです。

この LLM を開発するにあたり、同社ではモデル学習のために高性能かつコスト効率に優れた機械学習アクセラレータの AWS Trainium を、推論基盤として高パフォーマンスの機械学習推論用アクセラレータの AWS Inferentia2 を用いたことを紹介。そして、LLM 研究の成果やシステムのアーキテクチャなどを解説しました。


各社のセッションでは、スタートアップが取り組む最新の研究・開発や AWS の各種サービスの活用方法など、有益な知見が語られました。冒頭で記載したリンクからアーカイブをご覧になれますので、当日イベントに参加できなかった方やもう一度視聴したい方はぜひご利用ください。また、来年に開催される「AWS Summit Japan」にも、奮ってご参加いただければ幸いです。