AWS Startup ブログ

日本のスタートアップにおける AI/ML 事例

今や多くのスタートアップにおいて、人工知能 (Artificial Intelligence; AI) や機械学習 (Machine Learning; ML) は単なる話題作りではなく、データに基づく新たなビジネス価値の創出・自動化を行う上で欠かせないツールになっています。AWS をご利用中のスタートアップのお客様からも、多くのユースケースが紹介されています。本記事では、既に公開されている AI/ML 事例からアイディアを集め、読者の皆様が機械学習の第一歩を始めるための手がかりとなるようまとめたものです。

何から考え始めれば良いのか?

まず機械学習は何から考え始めればいいの?という疑問に関して、ビジネスモデル (課題) ありきで、その上で手段として機械学習を捉えるのが良いでしょう。AWS でのベストプラクティスを説明する Well-Architected Framework の ML Lens という拡張版でも、ビジネスゴールを同定するフェーズが最も大事であると説明されています。実際は実現可能な解決策との摺合せが必要であり、そのプロセスを僕は “Product/ML Fit” と呼んでいるのですが、以下でそのエッセンスを紹介します。課題と解決策が揃ったら、長期的な運用に耐えられるようワークフロー自動化なども考慮する必要があります。詳しくは以前3回シリーズの短期連載「スタートアップのためのAWSテクノロジー講座」を 2020年の Software Design 誌 [8月号9月号10月号] に書いたので、どういう考え方で始めればいいのかもう少し知りたい方はご覧下さい (Kindle 版も Amazon から購入できます)。

解決策とユースケース

ビジネス的なゴール設定に一般解はなく、皆さんのビジネスモデルにも大きく依存するため、本記事ではあまり深入りしません。一方で、機械学習の経験が少ないと何がどう解決されるかイメージが湧かない方もいらっしゃると思うので、本記事では実際のユースケースとともに具体例を紹介します。各事例の詳細は文中にブログなどへのリンクを貼っています。紙面の都合上、AWS の AI/ML サービスとして Amazon SageMaker, Amazon Personalize の2つを取り上げます。

Amazon SageMaker の事例

Amazon SageMaker は一言でいうと、機械学習のあらゆるステップで必要となる機能が利用可能なサービスです。例えば、TensorFlowPyTorch といった深層学習フレームワークを用いて Python で機械学習のコードを書き、GPU でモデルを学習させ、出来上がった学習済みモデルをデプロイして推論を行う、という典型的なワークロードを AWS 上で簡単に構築できます。ここでは「Amazon SageMaker 事例祭り」や「AI/ML@Tokyo」というイベントなどで登壇されたスタートアップのお客様を紹介します。

SageMaker 4 Phases

図: Amazon SageMaker は機械学習のワークフロー全体をカバー

Prepare: データ準備
機械学習のなかでも教師あり学習を行う場合にはデータに正解ラベルを付与する必要があります。株式会社アプトポッドでは 、パイロン (三角コーン) 画像のラベル付けSageMaker Ground Truth というアノテーションサービスを使って試されました。

Build: モデル構築
開発環境を SageMaker へと移行することにより開発チーム間の連携が疎結合となった結果生産性が向上し、ウミトロン株式会社では通常 1 年かかる魚の育成を 4 ヶ月短縮したり、Studio Ousia では自然言語処理モデルの学習時間削減・性能向上がみられたという報告もあります。

Train & Tune: 学習
深層学習では多くの場合モデルの学習に GPU を利用するためコストを気にする声をよく聞きますが、SageMaker では簡単にスポットインスタンスを利用したコスト削減も可能です。AI-OCR などのプロダクトを提供する株式会社シナモンでは、Managed Spot Training を利用して70%のコスト削減を実現しました。ピクシーダストテクノロジーズ株式会社ではAIによるデザイン生成に SageMaker の Managed Spot Training を活用することで、業務に関わるワークフローを簡略化・並列化し、コンピューティングコストとデザイン生成にかかるリードタイムの両方を削減しました。

Deploy & Manage: 推論
株式会社アイデミーLeapMind 株式会社のように、AWS IoT Greengrass と組み合わせたエッジでの推論と、継続的な ML モデルの更新・運用も考慮した MLOps の実装例も報告されています。

SageMaker には上で紹介した以外の機能もあります。実際、昨年末の AWS re:Invnent 2020 では更に多くの SageMaker 関連サービスが発表されました。詳細はこちらのブログをご覧下さい「【開催報告 & 資料公開】AWS re:Invent Recap AI/ML」。

Amazon Personalize の事例

さて、機械学習の典型的な応用例にレコメンデーションがあります。Amazon の EC サイトで「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と出てくるように、ユーザーの過去の閲覧・購買履歴に基づきオススメ商品を提示する機能です。Amazon Personalize を使うと皆さんのプロダクトにこのようなレコメンデーション機能を簡単に追加できます。

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図: レコメンデーションの例

どれくらい簡単かというと、モノオク株式会社は Amazon Personalize を使うことでわずか5人日でレコメンデーションを実装しました。

Amazon Personalize を他の AWS サービスと連携させ、継続的な運用・メンテナンスを行うことも可能です。株式会社POL は理系新卒学生に向けた採用サービスを提供しており、Amazon Personalize を利用することで企業がスカウトすべき人材を推薦する機能を2ヶ月で実装し、AWS Glue によるデータの前処理を含め AWS Step Functions のワークフローで自動化しました。MiddleField株式会社では、車のパーツ販売 EC でのレコメンデーションに Amazon Personalize を利用し、時々刻々と変化するユーザー嗜好を反映できるよう AWS Step Functions で構築したワークフローにより週1回モデルの再学習を行っています。

ビジネス面でのインパクトを生んだ例として、ノイン株式会社ではコスメショッピングアプリ NOIN での商品レコメンデーションに Amazon Personalize を利用し、2ヶ月という短期間でのサービス導入と CTR 10% の向上を実現しました。

まとめ

図: 同僚の松田さん (Online Ask An Expert でお待ちしています)

本記事では Amazon SageMaker, Amazon Personalize の事例を中心に紹介しました。皆さんの会社でのユースケースに合うかどうかは、文中のリンクやそれぞれのサービスページをご覧下さい。実際は冒頭に書いたとおり AI/ML の使いどころを検討・判断するために一定の知見が要るのも事実です。AWS のソリューションアーキテクトにご相談頂ければ、お客様のビジネスの状況に合わせた議論ができるので、AWS の担当あるいは AWS Startup Loft Tokyo (Online Ask An Expert) をご活用下さい。今回書ききれなかった詳しい話や、その他 Lyft をはじめとしたグローバルのスタートアップ事例に関しても、本ブログの Case Study, SageMaker, Personalize カテゴリや AI/ML タグなどで紹介していく予定です。