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生成 AI で議事録作成を効率化。Epicbase が Amazon Bedrock の Claude を選んだ理由

エピックベース株式会社は日本中のエンタープライズ企業や自治体に AI 議事録 SaaS「スマート書記」を提供しているスタートアップです。スマート書記では、数ある生成 AI サービスの中からAmazon Bedrockを利用して、議事録文字起こしの校正機能が提供されています。この技術選定の裏側には、どのような背景があったのでしょうか。

今回は、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの Sherry Zhu とソリューションアーキテクトの原 拓也が、エピックベース社 取締役の岡田 麻里 氏とエンジニアの升井 睦雄 氏、AI エンジニアの秋野 統輝 氏、エンジニアの入日 司 氏にお話を伺いました。

既存の業務フローを変えることなく使えるAI 議事録サービス

Sherry:はじめに、エピックベース社の事業概要について教えてください。

岡田:エピックベースは 2020 年 1 月に創業したスタートアップ企業です。もともと株式会社メディアドゥの事業であった「スマート書記」をカーブアウトして生まれました。当初の「スマート書記」は文字起こしのツールだったのですが、2022 年 4 月にリニューアルし、現在は文字起こしに限らず、音声と AI を使って業務効率化を実現する便利な機能を提供する議事録作成支援サービスとして展開しています。

Sherry:議事録作成を効率化する他のサービスと比較して、「スマート書記」の強みは何でしょうか。

岡田:一口に議事録と言っても、その作り方や最終的なアウトプットは人それぞれで、負担を感じるポイントも異なるのが議事録作成支援の難しいポイントです。一般的な AI 議事録サービスはツールにユーザーが合わせなければならないケースが多い中、「スマート書記」は作業を要素分解した上で、そのそれぞれを自動化、効率化することを目指しています。そのため、便利な機能を組み合わせて、どんなユーザーでも今までの業務フローを変えることなくフィットして使うことができる点が最大の強みです。

エピックベース社 取締役 岡田 麻里 氏(写真左)、AI エンジニア 秋野 統輝 氏(写真右)

顧客体験の向上のために生成 AI の活用を決断

Sherry:エピックベース社が、生成 AI に注目し、プロダクトに組み込もうと思った経緯を教えてください。

入日:お客さまの体験を向上する上で、生成 AI の活用が非常に効果的なシーンがあると考えたからです。

コロナ禍以降、オンラインでのコミュニケーションが増え、議事録作成支援サービスに対する顧客の期待値が高まっています。私たちは以前から、文字起こしの機能に AI を活用していましたが、文字起こし結果をそのまま議事録として扱うことは難しく、お客さまが手動で音声認識結果の誤りを修正したり議事録の形式にまとめ直したりする必要がありました。

そんな中、生成 AI の登場により、このような作業を容易に自動化・効率化できる可能性が広がりました。これまでも特定のタスクに特化した独自の AI 機能を開発することは不可能ではありませんでしたが、生成 AI により、その開発・導入コストが大幅に下がり、素早く顧客に価値を提供できるようになったのです。

同時に、ビジネス観点からも検討を進めました。代表の松田を中心に、例えば「1 時間の会議にユーザー企業が捻出できるコストはどのくらいなのだろうか?」などと逆算をします。そのコスト内でいかに優れた体験を提供でき、それが結果的にどのような競合優位性になるのか、などを徹底的に議論した上で、生成 AI 機能の開発に着手しました。

エピックベース社 エンジニア 入日 司 氏

Sherry:技術ドリブンではなく、優れた顧客体験を実現させるための手段として、生成 AIの活用を選択されたのですよね。

AWS の生成 AI サービス Amazon Bedrock の 3 つの強み

原:生成 AI サービスや個別の基盤モデルをどのように比較、検討したか教えてください。

秋野:一番最初に使ったのは、他のクラウドベンダーの生成 AI サービスでした。一方で、弊社のサービスのメインのインフラに AWS を使っていることから、AWS で管理を完結できるといいなと思っていました。そんな中、Anthropic 社の Claude モデルが発表され、それが Amazon Bedrock 経由で使えることをご案内いただき、検討を開始しました。

原:Antropic 社の Claude や Meta 社の Llama、さらには stability.ai の Stable Diffusion など、様々な基盤モデルを AWS 上から利用できるのが Amazon Bedrock の特徴ですね。エピックベース社には、Amazon Bedrock の一般提供開始前からプレビューで利用いただいたのを覚えています。

Amazon Bedrock が提供するモデルの一覧 (2024 年 7月4 日現在)

秋野:はい、各社から様々な基盤モデルが出てくる中で、同じデータで精度などを検証し社内に共有する仕組みを作ったのもこの時期です。

原:AWS を含め様々な生成 AI サービスが提供され基盤モデルの種類も多い中、なぜ Amazon Bedrock で Claude 3 を使うことを選んだのでしょうか。

入日:まず、セキュリティの観点で、Amazon Bedrock は明確に「顧客のデータは顧客のもの」というサービスになっている点が非常に大きかったです。

他社の生成 AI サービスでは、データの監視がデフォルトで有効でオプトアウトの交渉に時間を要したり、データが保存されるリージョンや管理ポリシーが不透明だったりする場合がありました。責任ある AI の活用のために監視が重要なケースもありますが、弊社のサービスではエンタープライズ企業の議事録作成を支援するという特性上、お客さま自身のデータが他者に閲覧される可能性を許容できないケースが多いのです。

そんな中、AWS ではデータを扱う責任が明確なため、お客さまに対する説明が非常に容易でした。また、それがスピード感を持った生成 AI 機能の開発にもつながりました。

秋野:開発者体験も優れていました。Amazon Bedrock では、開発に必要な機能をストレートに実装できる SDK が提供されています。また、呼び出し元のリソース (Lambda など) に IAM ロールで権限を割り当てれば、アクセスキーの管理が不要です。

そして、Amazon Bedrock から利用できる Claude 3 モデルは、日本語らしい自然な日本語を出力してくれる点が特徴だと思っています。いわゆるウィットに富んだ表現に優れていて、会議中のハイコンテキストな発言などの含みをうまく汲み取ってくれる点が良いですね。

アマゾンウェブサービスジャパン スタートアップ事業本部 ソリューションアーキテクト 原 拓也

文章の整形機能に Amazon Bedrock の Claude 3 Haiku を活用

原:実際に Amazon Bedrock の Claude 3 モデルを、「スマート書記」のどの機能に組み込んでいますか。

入日:議事録の整形機能に、Amazon Bedrock の Claude 3 Haiku を使っています。

「スマート書記」では、議事録エディタの横に会議の文字起こし結果がリアルタイムで表示されドラッグ&ドロップするだけで議事録に追加していくことができます。しかし、特に社内のカジュアルなやり取りの場合、文字起こし結果もくだけた表現になりがちで、それらをユーザーが手動で修正するのは大きな手間がかかります。

そこで、議事録中の文章を選択すると自動で「ですます」調や体言止めなどの文体に変換できる AI 機能を提供しています。精度とレスポンススピードの両方が求められる中、軽量なモデルである Claude 3 Haiku が非常にフィットしており、議事録作成の効率化に寄与しています。

Amazon Bedrock を用いた議事録の整形機能のアーキテクチャ図

 

Amazon Bedrock を用いた議事録の整形機能

AWS のアカウントチームは良き相談相手

原:素晴らしいユースケースですね。みなさんとは定期的に技術相談会を開催させていただいておりますが、アカウントチームのご支援に対するご感想はいかがですか。

入日:AWS のアカウントチームに何かを相談すると、事前にしっかりと準備をしてくださり、常にベストな選択肢を提案してくれる点を非常に信頼しています。これまで、音声認識や生成 AI など様々な分野で相談をさせていただきましたが、場合によっては他社のサービスを利用する選択肢も含めて、いつでも弊社のサービスの成長を第一に考えた回答をいただけました。

創業から 3 年以上、ほとんどの期間が社員としてのエンジニアは私 1 名の状態だった中、事業の課題を相談できる相手として AWS がいる安心感があり、サポートがあったからこそ事業が継続できたと思っています。少人数で事業を成長させていかなければいけないスタートアップにとって、様々なお客さまの事例などのノウハウを持った方に無料で相談ができるのは AWS ならではだと思います。

Sherry:エピックベース社がアカウントチームにご相談をくださる際には、「なぜエピックベース社がその課題を解決する必要があるのか」「その機能によって顧客にどのような価値を提供したいのか」など、技術的な意思決定の背景を含めて丁寧に情報共有をしてくださいます。だからこそ、私たちとしてもより適切なご提案がしやすいです。

アマゾンウェブサービスジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー Sherry Zhu

音声と AI で「10 年後の“アタリマエ”」を作る

Sherry:最後に、御社の事業の今後のビジョンを教えてください。

秋野:世の中に様々な生成 AI モデルが生まれその精度が日進月歩で変化する中でも、あくまでユーザーへの価値提供にこだわった技術選定をしていきたいと思っています。

升井:今後は、マルチモーダルなユースケースも検討していきたいです。例えば生成 AI に音声を直接入力したりすることで、もっと複雑なユースケースにも対応できるのではないかなと思っています。それが AWS の中で実装できると嬉しいです。

エピックベース社 エンジニア 升井 睦雄 氏

岡田:生成 AI の登場に伴い、企業各社がこれまでやっていた業務の大部分を自動化・効率化できる可能性が大きくなってきました。まだまだ十分に活用されていない音声というデータを溜めている「スマート書記」だからこそ、議事録作成だけではなくコミュニケーションそのものの見える化、また議事録以外の業務改善につながる可能性があると思っています。

私たちエピックベースは「未来(あと)に残ることを、チャレンジしよう」を Vision に掲げ、「“10 年後の”アタリマエ“」を創ることを大事にしています。未来について考えながら、ユーザーにとって便利なプロダクトをこれからも作っていきたいです。

Sherry:お客様視点でプロダクトを作り上げるみなさんのこれからの挑戦を、引き続き全力でサポートさせてください。みなさん、本日はどうもありがとうございました。