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デジタルトランスフォーメーション(DX)の波を止めてはならない。公共領域のDXがキーに ーAWSの継続的な支援・取組ー
2018 年 9 月に経済産業省が公表した DX レポート~ IT システム 「2025 年の崖」 の克服と DX の本格的な展開~では、2025 年において基幹系システムが 21 年以上経過している割合が 6 割に上り、IT 人材不足が約 43 万人まで拡大、日本のデジタル競争力が失われ、最大 12 兆円/年の経済損失の可能性が浮き彫りとなりました。レポート公表から約 6 年経過した 2024 年、スイスの国際経営開発研究所 ( IMD )が 11 月に公開した世界デジタル競争力ランキング ( IMD World Digital Competitiveness Ranking 2024 )では、前年の 2023 年から順位を一つ上げたものの 67 カ国中 31 位と停滞しており、日本のデジタル化、デジタルトランスフォーメーション( DX )の推進は引き続き最優先事項です。
とりわけ公共領域の文脈において、少子高齢化・人口減少・労働者不足などの課題を解決する一つの手段として、デジタル技術、AI (人工知能)技術を活用し効率化を目指すこと、特に行政、医療、教育などのサービスのデジタル化を推進することは、国民の暮らし・生活の質の向上を目指すうえで重要です。私は、クラウドを中核としたデジタル技術には、社会の課題や困難を突破する大きな力があると考えています。アマゾン ウェブ サービス( AWS )が提供するクラウドがもたらす最大の価値は、テクノロジーとデータの民主化です。一部のエンジニアではなく、誰もが簡便に最新技術を使いこなせるという意味でのテクノロジーの民主化。そして、信頼性の高いクラウドに蓄積された公益性の高いデータを分析・共有し、社会全体に還元するという意味でのデータの民主化。この 2 つの民主化の実現によって公共サービスはさらに良くなることを確信しています。
デジタル庁がリードするシステムの標準化、ガバメントクラウドへの移行は、国全体の DX 推進の最重要施策の一つです。クラウドの安全性、利便性、耐障害性、レジリエンスといった特徴を活かして、日本の約 1,700 自治体が基幹業務 20 業務を対象にガバメントクラウドへの移行を進めており、日本の DX のスピードがこれまでになく加速しています。市民・国民の生活に直結する行政の DX の加速は、日本のあらゆる産業、分野の DX にも影響すると考えられるがゆえに、この取組は極めて重要と言えます。
AWSは、お客様が DX を加速しクラウドを安全安心に使っていただくために、2011 年の AWS アジアパシフィック(東京)リージョン開設以来、日本への投資に注力してきました。現在、数十万もの日本企業、スタートアップ、公共機関が AWS を利用しており、2021 年にはAWS アジアパシフィック(大阪)リージョンを開設するなど、日本経済への貢献を深化させています。AWS の日本でのクラウドインフラ投資計画は、2011 年から 2027 年までに総額 3 兆 7,700 億円に達する見込みです。この投資計画は、日本の GDP に 5 兆 5,700 億円もの経済効果を生み出し、国内で年間平均 30,500 人以上の雇用を支えると推計しています。そして、2021 年 9 月に発足したデジタル庁と共に AWS は連携し、政府・自治体、教育・研究、医療など様々な公共機関の大規模なクラウド移行を支援する取組を包括的に展開しています。
政府・自治体・医療・教育など公共分野のDXを支援
AWSは、2021 年より継続してガバメントクラウドにクラウドサービスを提供するサービスプロバイダー( CSP )の 1 社に採択されています。安全性と堅固性、拡張性、コストパフォーマンスに優れたクラウドサービスを提供し、デジタル庁や各府省庁、地方自治体と緊密に連携しながら、ガバメントクラウドの一層の推進に向けて尽力しています。またクラウドの提供のみならず、公共領域におけるデジタル人材育成支援にも注力しています。自治体職員のクラウドへの理解やデジタルスキル向上支援に向けて、都道府県別説明会を 36 道府県で開催しています( 2024 年 12 月時点)。また、自治体職員向けの月次オンライントレーニングを 2022 年 6 月から無償で開催し、2024 年 12 月時点で累計約 4,000 名が参加しています。自治体向けにガバメントクラウドに関する情報を集約した地方自治体のためのガバメントクラウド情報サイト( AWS 環境 )を用意して、自治体の円滑なガバメントクラウド移行を支援しています。
例えば、人口 232 万人( 2024 年 4 月 1 日時点)を擁し全国でも最大規模の政令指定都市である名古屋市は、市政としてデジタルを活用した DX に取組んでいます。システム標準化・ガバメントクラウド移行は、その DX の重要な施策の一つであり、名古屋市は AWS を活用して 2025 年度までに 18 業務をガバメントクラウドへ移行完了を予定しています。このシステムの最適化、クラウド移行により、職員の業務改善、セキュリティ対策の向上、そして大規模災害などの緊急時の市の業務の継続性、可用性、即時復旧性など、市民生活への貢献も期待されています。
医療分野において、AWS は 2024 年 11 月 15 日に浜松医科大学とスマートヘルスケアの実現に向けて連携していくことを発表しました。本連携で 両者は、人口減少・少子高齢化における静岡県内の医療課題に対して、クラウド・ AI 技術の導入により、県民がいつでも、どこでも、安心して必要な保健・医療・介護サービスが受けられる医療体制の実現に向けて連携して取組みます。具体的には、クラウドを活用することにより災害時などには医療データへの安定したアクセス体制を確保し、平常時には健康データプラットフォームを基盤としたデジタルヘルスケアアプリや AI 健康予測モデルの導入を通じて、効果的な健康づくりを実現します。
また AWS は、2024 年 6 月に AWS IT トランスフォーメーションパッケージ 公共版( ITX for PS )を発表しました。これは、政府・自治体、教育、医療といった公共領域のお客様に対する、DX を包括的に支援するッケージです。移行の初期段階からシステムのモダナイゼーション、クラウド化、閉域網でのネットワーク設計やガイドラインなど公共分野特有の要件への対応支援、データ基盤のモダナイゼーションや生成 AI の活用検討支援など、公共分野のデジタル化を幅広くサポートします。ガバメントクラウドをはじめ、セキュリティ、コンプライアンス、ワークロードの最適化など、幅広いニーズに応える製品・サービスを用意することにより、デジタル庁が掲げる「クラウド・バイ・デフォルト」の方針実現に大きな役割を果たすことが期待されています。
パートナーと連携したサポート体制の強化
公共領域のお客様のクラウド移行、ガバメントクラウドへの移行を支援するため、AWS はシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーといった様々なパートナー企業とも協力・連携し、政府・自治体のニーズに合わせたきめ細かいソリューションの提供を行っています。全国をカバーするパートナーコミュニティであるAWS パートナーネットワーク( APN )を通じて、地域のパートナー企業とのコミュニティ形成、クラウドスキル習得支援プログラムの提供などにより、公共領域のデジタル人材の育成にも尽力し、地域のデジタル化を強力にバックアップしています。例えば、クラウド導入に関わる公共機関特有の情報を提供するためにウェビナーを 2020 年 11 月から全 30 回実施し、6,000 人以上が受講しました( 2024 年 9 月時点)。AWS からの情報発信やパートナー企業による最新の取組発表、パートナー同士の意見交換や連携の機会を提供し、ガバメントクラウドのアプリケーション、ネットワーク、インフラに関わる多くの事業者をサポートしています。
APN における最上位レベルの APN プレミアティアサービスパートナーである株式会社日立システムズは、自治体向けソリューションを提供し、当該ソリューションを利用していない自治体に向けても、ガバメントクラウド移行に際しての運用管理補助、ネットワーク関連支援を拡大するなど、自治体におけるガバメントクラウド移行支援を強化しています。AWS と 2022 年に戦略的協業を締結し、AWS 認定技術者の増加や、AWS とのビジネス拡大、公共領域においても共に、国・自治体の DX 加速支援に向けてタッグを組んで取組んでいます。
公共領域で活用が進む生成 AI
公共分野でのデジタル活用、最先端のテクノロジー、クラウドを活用した DX が加速している中、同分野での生成 AI 活用も活発となっています。例えば、自治体職員の業務負担軽減のために生成 AI を活用し、職員が市民の生活・暮らし向上のための施策づくりといった、本来の業務によりフォーカスし、市民生活の向上に貢献したり、職員の働き方改革にも貢献することが期待されています。
AWS は、25 年以上にわたり AI と機械学習に注力しています。AWS のデジタルスキルに関する最新の調査によると、日本企業の 78% 以上が 2028 年までに AI 主導の組織になることを想定しており、公共領域においてもこのトレンドが進む可能性が考えられます。こうした状況下、AWS は Amazon Bedrock 等の生成 AI サービスの提供を通じ、お客様の AI を活用したイノベーションを強力にサポートしています。例えば、2023 年 7 月に発表した AWS LLM 開発支援プログラムに続き、その翌年の 2024 年 7 月には総額 1,000 万 US ドル規模の AWS ジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを立ち上げ、モデル開発から、モデルを利用して新しいサービスを開発するお客様まで裾野を広げ、お客様が実際のビジネスや業務で生成 AI を活用し、イノベーション創出や目的達成することができるよう支援を加速しています。公共分野でのお客様の AWS の生成 AI 活用について、いくつか事例をご紹介します。
~行政分野において~
青森県の南東部に位置し、人口約 4 万人の三沢市は、豊富な自然や観光など市の多彩な魅力を持ち、「住みたくなるまち」を目指して移住者誘致に積極的に取組んでいます。移住希望者とのコミュニケーション強化を目的に、AWS アドバンストコンサルティングパートナーである株式会社ヘプタゴンのサポートのもと、AWS環境上でAmazon Bedrockを活用して移住希望者への自動応答を支援するチャットボットを構築しています。その結果、生成 AI による回答で自然な対話を実現し、かつ職員の負担軽減も実現しました。今後さらに、移住希望者に対して「行政としての回答」として適切なレベルを目指しています。
~教育分野において~
デジタル教育サービスを手掛ける株式会社学研メソッドは、少子化の加速、教育サービスに対するニーズの多様化、指導者の不足・地域間格差といった昨今の外部環境の変化に対応するため、AI を活用したデジタル教材システム GDLS ( Gakken Digital Learning System ) を主に学習塾向けに提供しています。また、学研グループがもつ教材データ、生徒データ、指導データなど包括的なデータと Amazon Bedrock による生成 AI を活用することにより、生徒のやる気を引き出し、生徒一人ひとりに合った個別最適な学習支援を更に強化する拡張機能の開発・実装を行っています。
AI 教材「 atama+(アタマプラス)」を全国の塾に提供する atama plus 株式会社は、「 atama+ 」に生成 AI を活用した問題解説機能「 AI ステップ解説( β 版)」を搭載し、直営塾にて検証を開始しています。従来の問題解説では、生徒によっては内容を理解できない場合があったり、理解できないことで学習モチベーションが下がる、または解答を丸暗記してしまうなどの課題がありました。atama plus は「 AI ステップ解説( β 版)」を開発し、AI が生徒の理解度を段階的に確認しながら解説を行い、生徒の理解度に合わせて、より丁寧な解説を提供することを可能としました。atama plus は、AWS の生成 AI イノベーションセンターと連携し、 AWS ジャパン生成 AI 実用化推進プログラムに参加しています。これにより、AWS が提供する生成 AI 技術やリソースを活用し、自社の AI 教材「 atama+ 」と組み合わせることで、より効果的な学習支援システムの開発を進めています。
~医療分野において~
能登半島に位置する恵寿総合病院は、合計 15 万人の医療圏を支える重要な医療機関です。人口減少、高齢化などの外部環境の変化に伴い変化する医療ニーズへ柔軟に対応するため、院内データや患者データの集約・共有に向けてクラウドや生成 AI の活用を検討しています。地域医療の提供において、周辺の他院との連携をスムーズに行うために、AWS の生成 AI サービス Amazon Bedrock を活用してカルテから退院サマリの作成・提案を検証。医師の退院カルテ作成が 5 日以内で 65.5% の作成率を、81.1% の作成率に向上させ、多忙な医師の業務負担の軽減、また心理的な負担の軽減にも改善の結果を得ました。
東京大学医学部付属病院は、日本全国の病院・医療機関と同様に、経営の課題に直面しています。また財政の課題とともに、人材不足、それによる医療提供者の業務負担の高止まりや設備・施設などのアップデート等、様々な問題を抱えています。その中で、特に、クラウドサービスを活用した院内インフラの設備投資最適化や、AWS の生成 AI サービスを活用した医師業務の効率化を目指しています。医師の書類作成業務効率化では、診療情報提供書と退院サマリからどの程度の精度で返書の文章を生成できるか検証し、実利用に向けた取組みを始めています。
詳しくはこちらをご覧ください。
デジタルの恩恵を一人残らず享受できる社会の実現、地域の社会課題解決に向けて
このブログの冒頭で私はクラウドを中核としたデジタル技術に社会の課題や困難を突破する力があり、クラウドを通じた公共サービスの深化の可能性をお話しました。この可能性を具現化するために、AWSはデジタルを活用した地域創生、地域の課題解決への支援を継続して行っています。2022 年から AWS デジタル社会実現ツアーと題したイベントを開催し、地域の社会課題や地域創生をデジタルを活用してどのように解決できるかについて様々なステークホルダーと知見や意見を共有する場を作っています。3 回目となる 2024 年は、11 月 8 日の京都開催を皮切りに、全国 6 都市( 11/8 京都、11/11 広島、11/19 福岡、11/20 新潟、11/21 静岡、11/22 名古屋)で開催しました。地域の自治体やスタートアップ、地場企業、パートナー企業など様々な立場の方から計 300 人以上に参加いただき、地域の社会課題解決やイノベーションの創出に向けた事例を共有し、デジタル技術の活用方法について熱い議論が交わされました。このイベントは、地域の DX の加速に向けて、自治体、企業など産官学金の領域のステークホルダーと AWS がタッグを組んで取組む重要な機会となっています。アーカイブはこちらからご覧ください。
これからも多くの様々なステークホルダーと一丸となって日本全体の DX を継続支援
AWS はこれからも、デジタル庁や各府省庁、自治体、教育機関、医療機関、パートナー企業といった様々なステークホルダーと緊密に連携しながら、ガバメントクラウド移行支援、公共領域における生成 AI 活用の加速、デジタルのメリットを日本全国に届けて地域の社会課題解決、地域創生につながる日本全体の DX を加速させていきます。国民一人ひとりの生活をより豊かにする革新的なデジタルサービスの創造に貢献し、日本のデジタル競争力強化に全力で取組んでまいります。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
常務執行役員 パブリックセクター統括本部長 宇佐見 潮
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