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生成 AI でサービスのトップラインを伸ばす! : 業務効率化から進み、売上や利用の拡大を実現した事例 4 件に学ぶ

企業での生成 AI 活用が広まりつつも、比較的単純な業務への適用による「コスト削減」に効果が留まる事例は多いのではないでしょうか。日本は米国、欧州と比較すると雇用の流動性が相対的に低い傾向にあり、業務を効率化しても社員数が減らない以上、コスト削減の効果には限界があります。効率化された業務から人材を価値創出につながるビジネス企画等へシフトし事業のトップラインを向上させることが収益拡大において不可欠ですが、その実現は容易ではありません。IPA 発行の DX 白書 2023 によればデータ利活用による売上増加の効果を観測している企業は米国ではすべての産業領域で 6 割から 7 割半ばにのぼりますが、日本では 1 割半ばから 3 割弱と総じて低い状態です。さらに「成果を測定していない」割合が日本では 5 割前後となっており、成果の測定自体まだ浸透しているとは言い難い状況です。 DX 白書 2023 では DX の「D」、デジタル化は推進が進みつつも「X」、トランスフォーメーションはその意味からして理解されていないのが現状と述べており、企業がデジタル技術により既存の業務やビジネスを変容・進化させることがまだ道半ばであることを示唆しています。

本記事では、生成 AI を活用しサービスの利用増や売上増など、トップラインの拡大を実現した 4 つの事例を紹介することで効率化から先のステップをご提示したいと思います。海外では Adobe が Photoshop で実装した生成 AI 塗りつぶし機能が一般的な機能に比べて 10 倍 以上の使用率となった事例がありますが、日本国内でも収益拡大を実現した事例が出てきています!

事例 1. 商談要約機能の精度を高め成約率 1.5 倍を実現 ( 株式会社 Poetics )

Poetics 様は、オンライン会議の録画・解析・情報共有をサポートする商談解析 AI 、「JamRoll」を提供しています。商談の文字起こしにとどまらず、議事録作成や営業支援ツールへの登録、振り返りといった営業活動における様々な後続業務の体験改善に生成 AI を活用することで、商談後の作業工数は 70% 削減され結果として成約率が 1.5 倍になったと成果を伝えています。そして、この機能の実装は 2 人のエンジニアが 1 ヵ月で完了しています。

Poetics 様の事例は、商談というメインのソリューションターゲットから後続の業務までフォーカスを拡大し顧客の体験を改善することで、サービス全体の成約率が高まること、生成 AI を活用し迅速に価値が提供できることを示しています。

事例 2. 生成 AI による自動生成機能を実装、トライアル企業の導入率は 100% ( 株式会社フォワード )

フォワード様は、採用業務を AI でアップデートする SaaS 型サービス「エースジョブ」を提供しています。採用市場では新卒・中途共に人材不足が深刻で、採用担当者は自社の求人票データに合わせ迅速かつ的確に求職者へスカウトを送る必要があります。エンジニアの読者の方であれば的外れなスカウトメールに辟易したことがある方も多いと思います。スカウトに対するネガティブな経験は採用率を下げることはもちろん、時にソーシャルメディアでさらされる可能性もありリスクが高い業務です。この機微かつもちろんセキュリティも求められる機能を生成 AI (Claude) で達成した結果、スカウト返信率は最大 20 倍、業務負担は最大 80% 減、年間 2,000 万以上の採用コスト削減につながったというフィードバックも届くなど大きな結果を達成し、トライアル企業の 100% が導入をしています。

フォワード様の事例は、単純なジャストアイデア、生成 AI のストレートな適用では顧客のニーズを達成できないだけでなくリスクにもつながるユースケースについて、粘り強く精度の改善に取り組むことが顧客体験、サービスのブレークスルーにつながることを示しています。

事例 3. パーソナライズされた家計アドバイスにより売上の 19% 向上に貢献 ( スマートアイデア株式会社 )

スマートアイデア様は、500 万人以上のユーザーが利用する家計簿アプリ「おカネレコ」に収支をもとにユーザーにあったアドバイスを提供する機能を実装し、導入後の課金売上が前月比で 19% 向上する成果を確認されています。多様なユーザーそれぞれに固有な家計や支出のパターンにあったアドバイスは、ハイパーパーソナライゼーションの実現例といえます。そして、本機能にかかった時間は約 2 ヵ月と非常に短期間です。

スマートアイデア様の事例は、マスのデータに基づく推薦にとどまらず、個別ユーザーのミクロなデータを活用することでパーソナライゼーションのレベルを一段上げることで収益へのインパクトを創出できることを示しています。

事例 4. 組織的な営業提案・課題解決へのシフト  (株式会社三菱 UFJ 銀行)

三菱 UFJ 銀行様では、個人のスキルや着眼点に依存していた提案活動を組織的なナレッジにより補完し「見逃し」のない課題解決アプローチの構築に取り組まれています。営業日報や議事録の作成といったルーチンワークの業務効率化から一歩進み、営業の「課題発見」や「提案内容」といった個人スキルに依存しがちかつ収益拡大に不可欠な領域まで踏み込んだ活用を進められています。さらに生成 AI 適用ファーストではなく、AI に与える情報を人間が見て人間が提案を作り、顧客に刺さるか検証してから生成 AI での半自動化を進められています。顧客への価値提供プロセスを組み上げてから効率化を進める「ビジネス効果駆動」での営業 DX の推進には AWS の ML Enablement Workshop を活用いただき、ワークショップ終了から 3 ヵ月で提案の有効性と自動化の実現性の確認を完了されています。

三菱 UFJ 銀行様の事例は、人間がまずビジネスを作る、生成 AI をはじめとしたテクノロジーでビジネスを効率化する、という収益性ある事業創出に不可欠な順序と組織間連携の重要性を示しています。

結論

日本では特に業務効率化によるコスト削減には限界があるため、トップラインの向上を図ることが不可欠です。生成 AI は比較的単純な業務の効率化にとどまらず、トップライン向上につながる利用者数や売上にインパクトを与えることができる技術です。

  1. Poetics 様の事例からは、商談の要約という個別タスクから、ナレッジ共有や営業支援システムへの登録といった後続タスクを含めた業務プロセスへスコープを拡大することで顧客体験を向上し成約率にインパクトを与えられることが学べます
  2. フォワード様の事例からは、顧客にとってインパクトもあるがリスクもある業務への生成 AI 適用を丹念・緻密に行うことで業務に必要不可欠なレベルの体験を届けられることが学べます
  3. スマートアイデア様の事例からは統計的・機械的アドバイスから一歩踏み込み 1 人 1 人の家計・支出のパターンに寄り添った体験を提供することで売上への直接的なインパクトが観測できることが学べます
  4. 三菱 UFJ 銀行様の事例からはビジネスをまず人間が作り技術がフォローすることで収益性ある事業が創出できること、そしてスタートアップなど小規模な会社でなくとも組織横断でのチーム組成により3 ヵ月という短いスパンで最初の成果を観測できることが学べます

本記事で紹介した事例は、 AI Day にて事例展示を行います。後日、生成 AI のポータルで提供している事例集にも反映される予定ですが、いち早く事例を参照したい方はぜひ AI Day にご参加ください!

事例からの学びを、ぜひ生成 AI によるトップラインの向上、事業創出に活用いただければ幸いです。プロダクトの成長につながる生成 AI のユースケースを、組織横断のチームで特定する ML Enablement Workshop はまさにそのための方法論であり、資料はすべて GitHub で公開されています。公開資料を自身で活用いただくことはもちろん、実施に関心がある方は AWS 担当までぜひお問い合わせください。本記事が、皆さんの組織の中で生成 AI の活用を効率化から一歩、二歩前進させるきっかけとなれば幸いです。