Amazon Web Services ブログ
魅力的な顧客体験を提供するプラットフォームを学習できるリテールデモストアの紹介
こんにちは。ソリューションアーキテクトの平井です。本記事では、AWS サービスを使用して、e コマース、小売、デジタルマーケティングのユースケースで魅力的な顧客体験を構築する方法を示すためのリファレンス実装として開発されたリテールデモストアの紹介をします。
はじめに
Amazon 社内のビジネス課題を解決するために生まれた AWS では、これまで「Born from Retail, Built for Retailers」というメッセージを掲げ、Amazon での経験をもとにした様々なソリューションを小売業のお客様にご提案してきました。例えば、Amazon Forecast は、Amazon.com と同じ技術をベースとして機械学習を使って時系列予測を行いますが、商品の需要を予測することにより在庫の最適化に活用できます。リアルタイムのパーソナライズされたレコメンデーションを提供することでビジネスの成果を向上させることができる Amazon Personalize や、オンライン支払い詐欺や偽アカウントの作成といった不正をより早く検出する Amazon Fraud Detector も、Amazon.com と同様な機械学習テクノロジーや経験に基づいて作られています。
紹介したサービスに限らず、2022 年 6 月時点で AWS が提供する 200 超えるサービスを利用できますが、多くの技術的問題やビジネス上の問題を解決できる AWS ソリューションライブラリ も活用できます。例えば、Discovering Hot Topics Using Machine Learning では、Twitterや、ニュースサイトにまたがる Public RSS フィード、動画に結びついた YouTube コメントから多言語データを取り込み、感情を特定し、事前構築された BI ダッシュボードに顧客分析をほぼリアルタイムに視覚化します。これにより、自社の製品やイベント、ブランドに関する主要なトピックを特定するのに役立てられるので、新しい成長機会やネガティブな反応に対して迅速に対応できます。ソリューションは、事前準備されたテンプレートを利用することで 10 分程度で構築できます。
世の中がかつてない変容を遂げようとしている昨今では購買体験も大きく様変わりしていますが、このような変革に素早く対応するために多くの企業はデジタルの変革を進めています。AWS は、デジタル変革を進める小売業からの「最先端のリテールソリューションを内製したい」というご要望にお応えするために、お客様自らがレジなし無人販売冷蔵庫を迅速に構築し学習や体験ができる This is my Smart Cooler プログラム を発表しています。これは、ビルダーとしてお客様独自のデジタル変革を進め、新しいソリューションを作り出すためのきっかけを提供します。
リテールデモストアとは
リテールデモストアは、AWS のサービスを利用して、モダンなアーキテクチャとデザインパターンに基づき魅力的な購買体験を構築する方法を紹介するために設計された e コマースのリファレンス実装です。アプリケーションを素早く構築できるだけでなく、商品検索、パーソナライゼーション、メッセージングなどの購買体験を高める機能を追加するワークショップも用意されています。これらの構築や学習の体験を通して、お客様自らが、ソリューションを作り出すきっかけを提供します。
魅力的な購買体験も日々変化しているため、Github の aws-samples(https://github.com/aws-samples/retail-demo-store)に格納されているコンテンツも日々充実化しています。最新の内容については、Github リポジトリの内容をご確認ください。
2022 年 6 月時点では、一部の紹介ですが以下のユースケースを実現する機能を提供しています。
ECサイトでユーザーが欲しいものを手に入れるためのレコメンデーションとしては、以下のものがあります(括弧は、後述するハンズオンワークショップのリンクです)。
- 商品検索におけるユーザの関心(家電、アウトドア、家具など)に基づいたパーソナライズランキング(リンク)
- 会話型 AI(チャットボット)による商品レコメンデーション(リンク)
- タイムリーに商品の魅力をアピールするライブ配信と、紹介している商品に関するパーソナライズされたディスカウント(リンク)
リアルとバーチャルの垣根を超えたモバイルアプリケーションの購買体験としては、以下のものがあります。
- 実店舗に近づいた際に、注文済みの商品が受け取り可能なことと、受け取り方法に関する通知(リンク)
魅力的な EC サイトを運営し続けるための実験的アプローチとしては、以下のものがあります。
- 顧客からのフィードバックからECサイトの機能改善を進めるための A/B テスト(リンク)
リテールデモストアのアーキテクチャ
リテールデモストアの中心は、Amazon Elastic Container Service と AWS Fargate でホストされる複数のマイクロサービスの集まりです。商品、カート、注文、ユーザーなどのドメイン構成と、検索やレコメンデーションのためのサービスがあります。Web ユーザーインターフェースは、Amazon CloudFront と Amazon Simple Storage Service によって提供されています。
アーキテクチャは、Amazon Cognito、Amazon Pinpoint、Amazon Personalize、 Amazon OpenSearch Service (Amazon Elasticsearch Service の後継)などの複数のマネージドサービスによってサポートされています。Web ユーザーインターフェースは Vue.js フレームワークと AWS Amplify を使用して構築され、ユーザー登録と認証用のための Amazon Cognito と、Amazon Pinpoint と Amazon Personalize へのイベントストリーミングを提供しています。そして、AWS CodePipeline などのサービスによって、リテールデモストアのビルドとデプロイのプロセスが実行されます。
ハンズオンワークショップ
リテールデモストアでは、ビジネス要件に基づいてアプリケーションの動作を変更するために AWS サービスを使用することを学習できるワークショップを用意しています。2022 年 6 月時点では、検索、パーソナライゼーション、実験フレームワーク、A/B テスト、分析、顧客データプラットフォーム(CDP)、メッセージングなどを追加するワークショップが用意されています。下表は一部ですが、これ以外に AWS パートナーのソリューションを利用したワークショップコンテンツも用意しており、Partner Integrations より確認できます。
AWS サービスなど | ワークショップで学べること |
---|---|
Amazon Personalize | 主要なパーソナライズ機能と、e コマースアプリケーションに機能を追加する方法 |
Amazon Pinpoint | ダイナミックなウェルカムメッセージやカートに商品が残ったままな状態のお知らせ、パーソナライズ機能と連携した通知方法 |
Amazon Lex | パーソナライズ機能を提供する会話方チャットボットをリテールデモストアの Web UI に組み込む方法 |
Amazon OpenSearch | 商品検索のためのインデックス作成方法 |
Amazon Location Service | 実店舗に近づいたことを検知するジオフェンスの作成と、ユーザーが近づいた時に商品の受け取りについて通知する方法 |
Amazon Alexa | 近くの店舗を音声で検索し、ハンズフリーな注文を行い、Amazon Pay で支払いを行うのに加えて、オプションとしてレコメンデーションを提供する方法 |
Amazon CloudWatch Evidently | A/B テストを実施する方法 |
ワークショップは、Amazon SageMaker Jupyter ノートブック形式で提供しています。対話型の Python 形式で提供されるため、実現方法を効率的に理解できます。ノートブックは、Getting Started から起動できるテンプレートよりリテールデモストアをデプロイすると構築されます。
テンプレートやワークショップで用意されている機能を追加すると、リテールデモストアのどこに組み込まれているかを実際の動きや視覚的に確認できます。例えば、Amazon Personalize によるレコメンデーション機能を追加すると、サービスのアイコンと、レシピ(ビルトインのレコメンドアルゴリズム)が明示的に表示されます。これにより、各機能がどう役立てられるかをより具体的に学ぶことができます。
開始方法
リテールデモストアをセットアップするための AWS CloudFormation テンプレートが用意されています。Getting Started よりテンプレートを起動できます。AWS CloudFormation のスタック作成画面で、いくつかのパラメータをそれぞれの説明を参考に指定する必要があります。パラメータにより、どのような AWS サービスを自動で起動するか指定しますが、Workshop が提供されているものについては後で作成することができます。
AWS CloudFormation のデプロイにかかる所要時間は 40 分が目安ですが、自動で起動するサービスがある場合は追加で時間を要します。デプロイについての詳細は、Step3 – Deploy to your AWS Account で確認できます。
デプロイが終了すると、リテールデモストアの Web UI にアクセスできます。メインの CloudFormation スタック(スタック名を変更していなければ retaildemostore という名称です)の 出力タブにある WebURL キーの値が URL です。
ワークショップは Amazon SageMaker からアクセスできます。ノートブック > ノートブックインスタンス の順にメニューをクリックすると、(スタック名)-(リージョン名)という名前のノートブックインスタンスを確認できます(例:retaildemostore-us-east-1)。ステータスを開始にして、”JupyterLab を開く” を選択します。
留意点
問題や疑問が生じた場合には、まず Known Issues/Limitations と、Troubleshooting / FAQs を参照してください。
特に、費用について、リテールデモストアを動作させるにあたり、Amazon Personalize はアイドル状態でも一定の費用が発生します。Amazon Personalize のリソースを削除することにより、高額な費用の発生を防ぐことができます。リソースの削除方法などの詳細については、Troubleshooting / FAQs にある Q: This project is expensive to run (or keep running). How can I reduce the running cost of a deployment? を参照してください。
おわりに
本記事では、AWS が小売業のお客様にご提案してきたソリューションの紹介をした上で、AWS サービスを使用して魅力的な顧客体験を構築する方法を示すためのリファレンス実装として開発されたリテールデモストアの特徴と、利用できるワークショップや開始方法などについて説明しました。これらの構築や学習の体験を通して、お客様自らがソリューションを作り出すきっかけとなれば幸いです。リテールデモストアにおける Amazon Interactive Video Service によるライブストリーミングの実現方法についての詳細は、小売業界での Amazon Interactive Video Service と Amazon Personalize 活用のハウツーガイド が参考になります。
また、AWS Black Belt Online Seminar では、「業種別」のテーマとして小売業におけるソリューションも紹介しています。
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