Amazon Web Services ブログ

RIZAP が生成 AI と AWS で社内知識共有を革新 – AI チャットボットで業務効率と顧客満足度の向上を実現

本ブログは、RIZAP テクノロジーズ株式会社と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。

RIZAP グループは、現在約 1500 店舗まで拡大した chocoZAP 事業や、約 60 社のグループ企業を持つ RIZAP グループの各事業において、従業員向けの資料や手順書が膨大な量になっていたことから、ドキュメントやマニュアルの所在を探すのが難しく、現場業務の効率化が課題となっていました。

そこで同社は、社員が自身で質問できる「社内問い合わせ検索システム( AI チャットボット)」の開発を決めました。このシステムでは、生成 AI を活用し、従業員からの質問に対して対話形式で分かりやすい回答を自動生成します。

具体的な利用方法は、従業員がチャットボットに質問を入力すると、生成 AI モデルがその質問に対する最適な回答を社内文書から探し出し、自然な文章として出力します。

 

写真 1 : ライザップ店舗

システム構成について

この AI チャットボットのシステム構成は、以下のようになっています。

フロントエンド側では、Amazon Route 53Amazon CloudFrontAWS WAF などを用いてウェブアプリケーションを構築し、AWS Certificate Manager による SSL/TLS 証明書の発行や DNS 設定も行っています。

バックエンド側では、Amazon API GatewayAWS Lambda を経由して、Amazon KendraAmazon S3 のデータソースや FAQ を参照しながら自然な回答を生成します。さらに、一部のプロンプトに対しては Amazon Bedrock が動作するようになっています。

図 1 : 全体アーキテクチャ

 

また、社内の業務データを保存している Microsoft SharePoint から S3 にアップロードされたファイルは、Lambda と SharePoint API を使って S3 に自動で転送されるようになっています。社内の閉じられた環境の中で保有しているデータを活用した RAG( Retrieval Augmented Generation: 検索拡張生成 )の構成で構築しており、社内独自の RIZAP のトレーナー、従業員が見るマニュアル(店舗業務:ボディメイク、マシンメンテナンス、商品等、全店通達、福利厚生、研修)など約 3000 ファイルが検索対象のデータとなっています。そのデータは PDF、Word、Excel、PowerPoint など様々な形式がありますが、そのまま S3 に保管するだけでよく、あとは定期的に Kendra がクロールする仕組みを設定しているのみです。

こうした構成により、RIZAP グループの業務効率化が実現されています。一次問い合わせをチャットボットで処理することで、従業員が情報へのアクセスに要する時間を大幅に削減できます。さらに、新人社員やアルバイトの立ち上がり工数の削減にも役立っています。従来は上司や先輩に質問する必要がありましたが、「社内問い合わせ検索システム( AI チャットボット)」を使えば自力で情報を得られるようになりました。

写真 2 : ライザップジム内写真

このシステムの導入によって業務の効率化が進み、月あたり約400 件(平均対応時間 20 分/件)あった業務ヘルプへの問い合わせが削減され、顧客満足度の向上にもつながったと評価しています。必要な情報にすばやくアクセスできるようになり、より質の高いサービスを提供できるようになったからです。

開発を手がけた同社のプロダクト開発統括 2 部 部長の永嶋義憲氏は「AWS との協業により、AWS Associate レベルの開発者 2 名が約 1 か月で開発を完了できました」と語っています。生成 AI と AWS の各種サービスを組み合わせることで、短期間で革新的なソリューションを構築できたことがうかがえます。

生成 AI ソリューションの運用について

現在は RIZAP の実証実験の対象店舗でトレーナー向けに利用を開始しており、業務部門 3 名、IT 部門 3 名で体制を組み、全社展開に向けて週次で精度改善を行っています。入力ワードを週単位でリスト化し、そのワードに対して適切な返答ができているかを確認し、不足している情報があれば、追加でデータを補完することを店舗責任者とともに継続的に行っています。導入しておしまいではなく、日々変わっていくビジネスにも追随させていくことも生成 AI ソリューションには必要になります。店舗責任者と密な連携が取れており、常にフィードバックを得ながら情報連携し、精度改善だけでなく、機能の改善をしているところが、成功の要因と考えています。

追加機能として、回答に対する評価が入力できるような、Like/Dislike ボタンや、精度に関する運用ダッシュボードについても検討しています。

今後の展望

現在 RIZAP 店舗の全国 120 店舗への本ソリューション展開にむけて、対象店舗での導入が始まり、日々精度改善を行いながら機能拡張を行っています。次のステップとしては、RIZAP グループのアパレルを扱う JEANS MATE(ジーンズメイト)や、インテリア雑貨を扱う HAPiNS(ハピンズ)などの店舗においても、本生成 AI ソリューション導入を計画しています。これから対象店舗拡張に伴う、本ソリューションの耐久性やコスト増についても対応を進めており、Claude3への切り替えも視野にいれています。
さらにデータソースの拡充を予定しており、社内システムや各種ツールからのデータ連携の開発を予定しています。

図2 : 効果と注意点スライド

 

また現在は、社内業務改善での生成 AI の活用をしていますが、今後は chocoZAP などの一般利用者を対象として生成 AI ソリューションも検討をしています。

まとめ

RIZAP の取り組みは、生成 AI がビジネスの課題解決に貢献できる有力なテクノロジーであることを示した好例と言えるでしょう。生成 AI を活用したイノベーションにより、業務効率化と顧客サービス向上を同時に実現できることが実証されました。今後も、さまざまな業界や分野で生成 AI の活用事例が増えていくことが期待されます。フィットネスに限らず、店舗ビジネスに共通した課題の解決に役立つ仕組みになっており、生産性の向上と顧客満足度の改善に寄与することができます。企業は、このテクノロジーを積極的に取り入れ、競争力の強化につなげていくことが重要だと考えています。

著者について

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戸塚 智哉

戸塚智哉は、飲食やフィットネス、ホテル業界全般のお客様をご支援しているソリューション アーキテクトで、AI/ML、IoT を得意としています。最近では AWS を活用したサステナビリティについてお客様に訴求することが多いです。趣味は、パデルというスペイン発祥のスポーツで、休日は仲間とよく大会に出ています。